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終章:メリディエース大陸へ

 アフォンソは太陽が照り輝く海上を進むコグ船に乗っていた。


 彼の立つ位置の正反対の場所にはテレサが居り、日光浴を楽しんでいるがアフォンソは目も向けない。


 「・・・・・・・・」


 無言でアフォンソは葉巻を取り出して口に銜えたが・・・・チラッとテレサを見てから船尾の方へ向かった。


 「若頭・・・・どうしたんですか?」


 船尾へ向かうアフォンソに部下の一人が小声で声を掛けてきた。


 「若頭、出発する前から何か考えている様子でしたけど何か遭ったんですか?」


 部下の問いに甲板で作業していた他の団員もアフォンソを見た。


 アフォンソはラミーロ達を倒した後、オラクロを無事に巡回すると屯所へ一度、帰り留守番をしていた残りの団員と合流した。


 そして次にヤンが総長を務めるシュガール騎士団に引き継ぎを行ってから港に停泊していたコグ船に乗り船出したが・・・・その前から何か考える表情を何度も浮かべていた。


 それを部下は見ていたのだが・・・・・・・・


 「・・・・気になるんだよ」


 アフォンソは声を掛けてきた部下を船尾へ連れて行くと葉巻の先端を火で炙りながら呟いた。


 「気になる・・・・とは?」


 部下はアフォンソの言葉に首を傾げた。


 「・・・・ラミーロの野郎は本当に死んだのか?」


 「・・・・・・・・」


 この言葉にアフォンソの部下は沈黙したが、それは他の者も同じと思った。


 何せラミーロは汚れ騎士、罠師という渾名以外にも「ラガルティッハ(蜥蜴)」なる渾名を持っている。


 蜥蜴は外敵から逃げる際に自身の尻尾を切り離す行動が出来る。


 そしてラミーロは何度も部下や同僚または自分の死を偽装して生き残った過去があり、それに転じてラミーロはラガルティッと渾名された。


 ここをアフォンソは思い出し・・・・果たしてラミーロが死んだのか疑問を抱いたのである。


 「若頭、ラミーロの奴・・・・もし、生きていれば今は・・・・・・・・」


 「東スコプルス帝国に行っているかもしれねぇな」


 「ですが、それは自分から殺されに行くようなものでは?」


 部下の言葉にアフォンソは頷いた。


 教皇一家は失敗した者を何時までも生かしておくほど優しい性格ではない。


 ただしラミーロの罠師としての実力と、体よく使える汚れ役という面は・・・・教皇一家としては捨て難いのか、今まで生き永らえてきた。


 もっとも今回の件が失敗したとなれば・・・・・・・・


 「既に処刑されているかもしれない・・・・と思わせるかもしれねぇ」


 そうすれば自分達は安心するからとアフォンソは言い、部下も教皇の詐欺師顔負けのやり口を知っている為か神妙な表情を浮かべた。


 「若しくは・・・・皇室に罠を仕掛けているかもしれない」


 アフォンソの言った言葉に部下は再び無言となった。


 教皇と皇室が互いに牽制し合っているのは今になって始まった事じゃない。


 だが皇室の方は今の教皇を破門させる形で政治的な行動を出来なくしようと考えている。


 それとは対照的に教皇の方は皇室が相手だろうと・・・・自分達の障害となれば直接、手を下す事も辞さない構えだ。


 ここを考えるとラミーロ辺りに汚れ仕事を任せようと考えられるが・・・・・・・・


 「もし、それをやれば皇室も黙っていない筈では?それこそ第3皇子は別として他の皇子と皇女は間違いなく仇討ちをする筈です」


 部下はアフォンソの考えを否定するように現皇室の家族を口にし、それに対してアフォンソも同意するように頷いた。


 「あぁ、そうだな。特に長男、次男、そして現皇帝の弟達は武断派だからな」


 教皇が皇室に牙を剥けたとなれば大義名分を得たとばかりに叩き潰すとアフォンソは部下の言葉に相槌を打った。


 「そして・・・・そうなれば皇室と教皇の決戦になるが・・・・それを教皇が考えていない訳はない」


 あの老いた狐はそれによって如何に自分が苦しい立場に追い詰められるか自覚しているとアフォンソは語り、それを聞いて部下はラミーロが生きている事を想像して次の言葉を言った。


 「となれば・・・・やはり東スコプルス帝国に行ったと考えるべきでしょうか?」


 「可能性としては高いと俺は思う。あんな汚れ騎士団だが・・・・敗走する軍を追撃する程度の実力はあるからな」


 フゥーとアフォンソは紫煙を吐きながら部下の言葉に相槌を打つが、それよりも別の問題があると告げた。


 「ラミーロの生死も気になるが・・・・直ぐに出くわす問題は南北大陸に居る武官が果たして俺等にどれだけ協力してくれるかだ」


 この言葉に部下は無言となりアフォンソの方は葉巻を吹かしながら改めて南北大陸に居る武官の事を思い出した。


 アンドーラ宰相の話では駐在武官は武人の型に嵌まり過ぎるきらいはあるが、武人としての能力は優秀と評した。

 

 あの宰相が評しているのだから先ず間違いないとアフォンソは考えていたが問題は保護国となっているアルメニア・エルクラム公国の政治状況だ。


 アルメニア・エルクラム公国は今でこそムガリム帝国の保護国となっているが最近では独立を画策する組織が出来ている。


 この組織が果たして東スコプルス帝国侵略という時期を・・・・どう利用するのか?


 「・・・・・・・・」


 部下は今も無言を続けるが、アフォンソも黙って葉巻を吹かした。


 そして2人の様子を甲板で動いていた部下達も無言を貫いていたが・・・・それは誰もが同じ事を考えていながら誰一人として答えを見つけ出せない表れでもあった。


 その証拠にアフォンソは問題の答えとは別の答えを導いた。


 『独立するには大量の血を歴史は欲するというが・・・・今の時代がそうなんだよ』


 何処を見渡しても血を流す騒ぎが起こり、それを大地は吸い込み、水面は赤く染まる。


 帝国では当たり前の光景だが南北大陸の独立運動を聞いてアフォンソは時代が血を欲していると感じた。


 しかし時代が血を欲するなら・・・・・・・・


 「好きなだけ吸えってんだ」


 アフォンソは紫煙を吐きながら毒づいた。


 時代が血を欲するなら好きなだけ吸えば良い。


 そうすれば・・・・・・・・


 「・・・・・・・・からな」


 「何が・・・・ですか?」


 アフォンソは直ぐ間近に何時の間にか立っていたテレサに少し驚いた。


 あれからマグダラは屯所に帰り出発準備をアフォンソ達が終えた途端にテレサと入れ替わり出て来ていない。


 ただテレサはマグダラの存在を知らないので何時の間にか巡回を終えている事に驚いていたので説明は些か骨が折れたのだが・・・・・・・・


 「御嬢、いきなり現れるなんてどうしたんですか?」


 部下が平素を装いテレサに声を掛けたが・・・・視線は周囲の仲間に向け何時でもテレサを取り押さえられるように合図した。


 「いえ・・・・ただ、何時もなら私を舐めるような視線を送る人が居ないなと思ったので」


 「何だよ、その言い方はないだろ?寧ろ俺としては熱っぽい視線で見つめてくるから・・・・漸く俺の魅力に気付いたのかと期待したんだがな」


 「なっ!?」


 この言葉にテレサは目を見開かせたが、次に肩をワナワナと震わせた。


 「俺が居ないと思って探していたんだろ?安心しろ。俺は・・・・おっと!?」


 アフォンソの部下達は「やっちまった」とばかりに眼を覆う。


 対してテレサは空振りした右手を震わせながらアフォンソを睨み据えた。


 「おいおい、そう怒るなよ?」


 尚もアフォンソは道化師のように笑い掛けるがテレサはアフォンソに背を向けた。


 「貴方みたいなひと・・・・海に落ちて魚の餌にでもなれば良いんです!!」


 精一杯の罵声を言うとテレサは甲板から消え、残されたアフォンソは苦笑しながら葉巻を銜え直した。


 「やれやれ・・・・やっちまったな。しかし・・・・これで暫くは出て来ないだろうから話せるぜ」


 アフォンソはクスクスと笑いながら部下達に先程の話の続きを語ったが・・・・眼の奥では教皇一家とケリをつけようとばかりに殺気を放っていた。


                                  狐の首につける鈴付き首輪 完

これにて今回の話は終わりですが、続きとして東スコプルス帝国側の話も来年には投稿したいと思います。



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