第十三幕:罠師の死
アフォンソ達が後退すると大家は距離を一定に保ったまま攻撃を続けた。
詠唱もせず、ただ手を振るだけで魔法攻撃をしてくる大家にアフォンソとヤンが抱える魔術師達は防戦一方だった。
しかし・・・・何か感じたのだろう。
「若頭・・・・・・・・」
魔術師の一人が大家の放った火の玉を自身が放った火の玉で防御しながらアフォンソに小声で話し掛けた。
「・・・・流石はいけ好かねぇ教皇の飼い犬だな?」
アフォンソはラミーロに皮肉を放ちながら何を思ったか?
単騎で大家に突進した。
「大家、あの糞野郎を丸焦げにしろ」
ここで引導を渡してやるとラミーロは言い、大家はヤンに両手を向けた。
しかしヤンの後ろからマグダラが姿を見せるとラミーロは慌てた様子を見せた。
「大家!攻撃を止めろ!止め・・・・・・・・!?」
ラミーロが制止を掛けたが、それより早く大家は2人に火の玉を放った。
「へんっ・・・・やっぱり、な」
アフォンソは口端を上げて愛馬の腹を拍車で蹴った。
するとアフォンソの愛馬は甲高い声で鳴き大きく右へ跳躍した。
火の玉は真っ直ぐ飛んでいき、2人には当たらなかったがラミーロは大家に罵声を浴びせた。
「馬鹿野郎!旗持ちには傷一つ付けるなと言っただろうが!!」
ラミーロの怒声と罵声に大家は無言だったが攻撃すら中止していた点を鑑みれば・・・・・・・・
「・・・・・・・・」
ここでマグダラが無言で大家に向かって息を吹いた。
途端に大家の前で大きな風が吹き、大家の被っていたローブが肌蹴た。
それによって大家の顔が露わとなるが・・・・・・・・
『!?』
アフォンソとヤンの部下達は眼を細め、ラミーロ達の部下は視線を逸らした。
ただしアフォンソはジッと大家の顔を見てから・・・・侮蔑の眼差しをラミーロに送った。
「やっぱり・・・・教皇の汚れ騎士だな」
アフォンソの静かな言葉をラミーロは甘んじて受け入れるように無言を貫いた。
しかし、マグダラに視線を向けようとした辺り・・・・ヤンの言う通り後ろめたさを常人と同じく持っているのだろうとアフォンソは冷めた気持ちで察した。
もっとも・・・・何人もの魔術師を切り刻んで肉片とし、それを繋ぎ合わせて造ったであろう「人造大家」を使用しているラミーロに同情などしない。
それどころか改めて教皇が獣以下とアフォンソは思った。
「おい、汚れ騎士。てめぇ、俺に引導を渡してやると言ったが・・・・その言葉そっくり返してやるよ」
アフォンソは愛剣の切っ先をラミーロに向けて宣言した。
「てめぇに引導を渡してやる。この汚れた聖都で部下と共に汚物に塗れて死にやがれ」
「・・・・ほざけ。三無騎士。そっちこそ手下と揃って死にやがれ。おい、大家。早く・・・・あいつを焼き殺せ。一刻も早く旗持ちを俺の所へ連れて来い!!」
ラミーロは先程と違い、どす黒い気を体の底から発しながら大家に怒声で命じた。
その怒声に人造大家は従うように両手を再び掲げた。
「・・・・・・・・」
対してアフォンソは黙って愛剣を握り直したが背後に居るマグダラに小声で語り掛けた。
「おい、マグダラ。降りろ」
「どうして?」
マグダラは静かにアフォンソに問いを投げた。
「あいつの表情を見たろ?野郎、今度こそ俺を殺す気だ」
今までも殺す気でラミーロは挑んできたが、ここに至っては何が何でも殺す気でいるとアフォンソは察しマグダラに告げた。
そして人造大家を見る限りラミーロの命令には従うが・・・・魔術を完全にコントロールは出来ていないともアフォンソは語った。
「元から数人の魔術師の死体を繋ぎ合わせて創造したんだもの。無理もないわ」
「それが解っているなら降りろ。このままいくと巻き添えを食らうぞ」
マグダラの他人ごとのような口調に呆れながらアフォンソは言うがマグダラは涼しい口調でこう答えた。
「それでも良いじゃない?愛する男女が共に死ぬんだもの」
こう言われたアフォンソは肩を落とした。
「だから言っているだろ?俺の好みはテレサの方であって・・・・てめぇじゃないんだよ」
アフォンソは迫ってきた火の玉を睨みながら愛剣の切っ先を向けた。
すると火の玉はアフォンソを飲み込む前にピタリと停止した。
それを見てラミーロ達は狼狽したが、アフォンソ達はニヤリと笑ったのが対象的だ。
「ど、どうなって・・・・・・・・」
ラミーロは信じられないと目を見張りアフォンソに問いを投げた。
しかしアフォンソは冷たい口調でラミーロに告げた。
「俺等には“幸運の旗持ち”が居るからさ」
アフォンソはマグダラをラミーロに一瞬だけ見せてラミーロに皮肉な口調で語り掛けた。
しかし、それから直ぐ冷たい口調で宣言した。
「それから神様の“御告げ”だ。てめぇ等みたいな腐れ教皇の飼い犬を入れるほど天国は空いてないとよ」
だから地獄へ行けと言ったアフォンソは愛剣の切っ先をラミーロ達に向けた。
すると火の玉はラミーロ達に向かって飛んで行った。
『!?』
ラミーロ達は火の玉が自分達に飛んで来たのを見て目を見張ったが、直ぐ大家にラミーロは命じた。
「大家!あの火の玉を相殺しろ!!」
ラミーロの言葉に大家は新しい火の玉と出し、飛んできた火の玉に向かって放った。
本来なら互いにぶつかり合って相殺される。
ところが・・・・・・・・
アフォンソ側の火の玉は大家の放った火の玉を飲み込んで更に巨大化した。
「お、大家っ!は、早く相殺しろ!あの糞野郎を殺すんだ!!」
ラミーロは金切り声を上げながら大家に命じるが大家は新しい火の玉を繰り出そうとはしなかった。
それにラミーロは罵声を浴びせ次の手を打とうとしたが・・・・それは間に合わなかった。
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「人造大家とはいえ馬鹿に出来ねぇな」
アフォンソは辺り一面「焼け野原」となった場所を見ながら灰も残らず焼けた人造大家を評した。
「しかし人造的に大家を創造しようと考えるとは教皇も年だな」
ヤンが部下に周囲を警戒させてからアフォンソに語り掛けた。
「だろうな?一昔前なら長男辺りに任せておけば問題ないと豪語し、自分は何も手を出さなかったんだ」
それが悪魔すら驚くような手段を講じた上にラミーロのような人間に貸す辺りが、とアフォンソは言った。
「それだけ御父様は焦っているのよ」
マグダラが周囲を見回しながらアフォンソの言葉に同調した。
「御父様としては既に教会も軍事力を握って帝国の半分くらいは物にしていると考えていたの。ところが軍事力は握れないし領土も増えていない」
寧ろ鈴の付いた首輪を施されたとマグダラはアフォンソを見て皮肉を語った。
「だから東スコプルス帝国を物にする前に・・・・貴方を処理したかったのよ」
だけど人造大家を創造したのは教皇ではないとマグダラは語った。
「というと次男辺りか?」
長男なら別の手段で自分を殺すとアフォンソは考え言ってみるとマグダラはそうだと頷いた。
「2番目のお兄様は悔しいのよ」
何時までも長男に勝てない事に・・・・・・・・
「なるほど。かといって腕っ節でも駄目、知恵でも駄目と自覚しているから・・・・悪魔に魂を売って俺を殺そうとした訳か」
「そうだと思うわ。この前、届いた手紙の殆どが貴方と1番上のお兄様に対する嫉妬で溢れていたんだもの」
「やれやれ・・・・汚れ騎士を殺したってのに今度は陰険な狐親子を狩る羽目になるとは・・・・泣きたくなるぜ」
アフォンソは肩を落としたが直ぐに気を取り直すと部下達と共に馬に跨り巡回を再開した。
もっともラミーロが本当に最後だったのだろう。
驚くほど巡回はスムーズに終わりを遂げた。




