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第十章:撒き餌に群がる雑魚

 「・・・・甘言に群がる“雑魚”は何処にも居るものですな」


 ヤンはアフォンソの皮肉に対し同じく皮肉を言いながらアンドーラ宰相の反応を待った。


 『まさに・・・・貴殿の言う通りだ。事故が起きてから東スコプルス帝国には風説が流布した』


 その風説に諸侯貴族達はアフォンソが言ったように撒き餌に釣られて来た魚のようだったらしい。


 『だが、その撒き餌に釣られたのは貴殿の言う通り雑魚ばかりだ』


 良識と警戒心が強い「大魚」は撒き餌に動じず東スコプルス帝国の皇帝と共に手を尽くしたとアンドーラ宰相は語った。


 「しかし・・・・虚しく終わった訳か?」


 アフォンソはマグダラを見て問い掛けた。


 「えぇ・・・・雑魚でも群れると大魚に”見せ掛ける”事は出来るもの」


 「なるほど・・・・雑魚がやる手口だな」


 撒き餌に釣られた雑魚共同士で競争を始めたなとアフォンソが言うとマグダラは頷いた。


 「東スコプルス帝国の諸侯貴族の一人---軍務大臣兼教会司祭はこう言ったらしいわ」


 『アルメニア・エルグランド公国を滅ぼした前科がムガリム帝国はある。しかし信仰の自由等は保護国となっても保障されている。それを考えれば無駄な戦いはすべきではない』


 「ハンッ・・・・流石は戦う人と祈る人を兼任しているな。”2枚舌野郎”が」


 「兄2人も同じ評価を下したわ。もっとも・・・・兄の方たちは”3枚舌”だけどね」


 「・・・・”西スコプルス帝国”にまで餌を撒きやがったか」


 「そうよ。そして残る2ヶ国はアルメニア・エルグランド大公国と“彼”よ」


 結ばれた協定では東スコプルス帝国の領土を3等分する内容だとマグダラは語った。


 「でも3者とも仲良く3等分しようなんて考えてないわ。ただ・・・・お父様達は自分達が一人占めできると信じているの」


 「お得意の謀略と暗殺か?クッ・・・・狐はやっぱり狐だな」


 「仕方ないわよ。お父様達は今まで“そういう世界”で生きてきたんだもの」 


 方法も必然と「そういう方法」になるとマグダラは言い、それを聞いてからアフォンソはアンドーラ宰相に話し掛けた。 


 「お話は解りました。急いで残る半分を巡回し港へ向かいます」

  

 『宜しく頼む。では失礼』  


 魔石は光を失った。


 それは通信が切れたという意味だがアフォンソは魔石を仕舞ってから言葉を発した。


 「東スコプルス帝国の運命は・・・・真っ暗闇だな」  


 「“水面の城壁”と“金色の大鎖”があっても・・・・・・・・」


 無駄な悪足搔きとなるだろうとヤンは言い、アフォンソは沈黙する事で肯定した。


 マグダラは何も言わなかったが、自分の父子が犯そうとする罪に心を痛ませるように胸を抑えた。


 「・・・・天使が心を痛め、ゲスが満足するか。世も末だな」


 アフォンソは葉巻を銜えながらマグダラの様子を揶揄しながらマッチに火を点けた。


 ただ何時もと違い、葉を回さず火を点けた辺り・・・・・・・・

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 アフォンソは固くて冷たい床板に背中を当てながら東スコプルス帝国の今後を予想していた。


 『あの“痩せ狐”の統治能力は恐怖に偏っているからな・・・・・・・・』


 恐らく反乱分子には残酷で冷酷な態度で望むだろうとアフォンソは思った。


 これは「痩せ狐」と揶揄された教皇の長男を見た人物の大半が評しているから間違いない。


 ただ恐怖に偏っているが支配者としては有能だし文武に秀でているから兵士にも愛されている点は見逃せない。


 しかし教皇の長男だけあってか?


 自らの地位を脅かすような政敵や教会関係者を次々と粛清し、その財産を没収する行為は如何にも教皇の息子とされている。


 そんな悪魔的な性格とは裏腹に容姿は美男子という事もあり「血に飢えて人を破滅する事に悪魔的な喜びを感じる性質」と評した人物も居る。


 ここから察するに東スコプルス帝国は暫し暗殺と謀略は絶えないだろう。


 対して皇帝側は・・・・・・・・


 『何も出来ないからな・・・・・・・・』


 アフォンソは宮廷の抱える問題に頭を悩ませたが、それを上手く解決できる術がない事も自覚していた。


 「・・・・神は子羊に優しいか・・・・言い得て妙だぜ」


 聖書に書かれている一節を引き出しアフォンソは嘲笑した。


 「今さら気付いたのか・・・・・・・・?」


 ヤンがアフォンソの呟きに対し皮肉気に問い掛けてきた。


 「いいや、思い知らされたのさ。それより南北大陸に赴任している武官の情報はあるか?」


 寝るには「暑い」とアフォンソは言いながら黒作大刀に手が届く位置にある事をさり気なく確認しヤンに尋ねた。


 「俺も詳しくは知らない。だが、どうやら平民の出から今の地位に登り詰めたらしい」


 勿論アンドーラ宰相の眼鏡に叶う実力はあるとヤンはアフォンソに言った。


 「平民から南北大陸の駐在武官に登り詰めた辺り大したもんだな」


 アフォンソは帝国の出世競争を知っているためヤンの言葉に眼を細めた。

  

 「あぁ・・・・本人の努力も並々ならぬと聞いている。しかし剛直で荒々しい性格のせいで海軍内では浮いているらしい」


 階級も駐在武官としては歴代駐在武官達より一階級低い「少将」とヤンは言った。


 「少将で駐在武官か・・・・部下はどうなんだ?」


 南北大陸に居る軍は帝国本土から駐在武官付きとして派遣された艦隊と、現地で採用された軍で構成されている。


 ただし艦隊の方は派遣される者の私兵団という色が今も強い。

  

 つまり東スコプルス帝国に派遣できる艦隊は事実上・・・・その駐在武官付きの艦隊だけとなるだろう。


 そして少将という階級を考えると連れて行けた艦隊は・・・・・・・・


 「数は凡そ数隻か?」


 「5隻だ。ただ他の艦隊とは違うと聞いている」


 具体的な編成は分からないとヤンは言うが、艦隊の数を知る事が出来ただけでもアフォンソは良かった。


 「つまり5隻程度で・・・・狐野郎を叩くしかないか」


 「可能性は高いな。仮に現地軍を連れて行けても・・・・数では負けるだろう」


 「だろうな?数が多い方が確かに有利だ。とはいえ・・・・こればかりは行ってみなきゃ分からねぇ」


 俺は陸戦が専門だとアフォンソは言うやシーツを勢いよくはためかせた。


 そして背後から襲い掛かろうとしてきた刺客を一刀の下に斬り伏せる。


 「たくっ・・・・男に“夜這い”なんて最悪だ」


 「モテる男の悲しき性だな」


 アフォンソの愚痴にヤンは苦笑しながら自身にダガーを振り下ろそうとしたが、頭を潰して事切れた刺客を見下ろした。


 それとは別に2人の部下達は窓を見て「火を点けられた」と叫んだ。


 「やれやれ・・・・神の家を焼く罰当たり野郎が。おい、マグダラ。無事か?」


 アフォンソは外から火が点けられた事を気にした様子も見せず静かに現れたマグダラに声を掛けた。


「大丈夫よ。とはいえ睡眠不足は肌の大敵だから堪ったものじゃないわ」


 マグダラは細身の刺突剣「レイピア」を弄びながら窓から見えた火に眼を細めた。


 「今度はサウナ?美容効果には良いけど服が汗だくになるじゃない」


 女心が解っていないとマグダラは愚痴を零しながらアフォンソを見た。


 「どうするの?ミ・ビータ」


 「蒸し焼きも野郎とデートも御免だが・・・・ここで奴の息の根を止める事にする」

 

 アフォンソは鞘をベルトに吊すと大刀の切っ先で門を指した。


 「てめぇ等、正面突破だ!!」


 『応!!』


 アフォンソの言葉に皆は一斉に応じると武器を構えるとヤンが斧を手にして駆け出す。


 その後をシュガール騎士団の面々が続き、数人で門を粉砕して外に躍り出た。


 すると一斉に矢の雨と雑魚の刺客が襲い掛かったが、ヤン達は余裕で矢と刺客を血祭りに上げた。

  

 「てめえ等!よく聞け!」


 アフォンソは粉砕された門の残骸を踏み潰しながら身を潜めている残る刺客達に叫んだ。


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