第九章:魔術師の大家
魔術師達の間では元来こんな言葉がある。
「1つの魔法が出来れば上手。2つの魔法が出来れば名人。3つの魔法が出来れば大家」と・・・・・・・・
この言葉は如何に一つの魔法を極めるか難しいかを表した言葉とされており、実際に魔術師達は修行を始めて1年で理解すると言われている。
それだけ一つの魔法を極めるのは難しいのだが魔術師達の歴史を紐解けば・・・・何世代かに一人は必ず出て来る。
大家という人物が・・・・・・・・
そしてヤンが見せた魔法探知器は指針のゲージが一番上まで赤くなっていた。
これは魔法を使えなくする遮断魔法を使った魔術師の魔力が如何に大きいかを表したのだが・・・・・・・・
「指針が一番上まで赤かったって事は・・・・やっぱり大家か?」
アフォンソは警戒心を露わにしている魔術師達を見ながらヤンに問い掛けた。
「可能性は極めて高い。しかし・・・・ラミーロが得意とする“ハッタリ”かもしれん」
ヤンは小声で問い掛けてくるアフォンソの問いに答えたが眼は先ほど以上に鋭かった。
「ハッタリかもしれねぇが・・・・そのハッタリは効果覿面だな」
魔術師達の様子を見てアフォンソは相槌を打った。
「大家を倒すには同じ大家か、達人が必要と言うからな。若しくは・・・・・・・・」
「その場に居る魔術師全員を“使い潰す”しかない・・・・だろ?」
アフォンソの言葉にヤンは無言で頷いた。
2人の会話も魔術師達の間では常識の言葉として今も残っている。
そして実際・・・・・・・・
大家を倒すには・・・・いや倒さずとも追い込むには魔術師を50人以上を使い潰す位の力が必要だ。
その様子をアフォンソもヤンも実際に見たから内心は穏やかではなかった。
しかし・・・・その空気を破るように歌が聞こえてきた。
『我々が戦う理由は何かと尋く者が居る。その者は如何にも御行儀の良い家の子だった。
だから解らないと思うが問われたら答えるのが筋というもの。
御行儀の良い子よ。我々が戦う理由は簡単だ。我々が戦う理由は苦しんでいる婦女子を救う為。
自分達が何者であるか証明する為だ。
祖国の為に戦う理由は無い。
されど己の為に、婦女子の為なら我々は死ぬまで戦う。
そんな理由かと笑うなら死ぬ覚悟をせよ!!
我々が戦う理由を貶すなら死ぬ覚悟を持て!!
それが出来ないならお家に帰れ!!
戦う理由すら差別するなら消えてしまえ!!
それとも我々の可愛い旗持ちに尻穴を串刺しにされたいか?
されたいなり遠慮なく言え。
我々の旗持ちは慈悲深き天使だから嫌がらず串刺しにしてくれるぞ。それは我々が断言しよう。
我々が毎夜の如く旗持ちに奉仕し串刺しにされている我々がな!!
嗚呼、旗持ちよ!
今日も精いっぱい御奉仕するので夜は優しく抱いて下さい。
貴女に可愛がられたら我々は明日も頑張りましょう!!』
卑猥な歌詞に皆は肩を震わせ、そして最後は堰を切って笑い出した。
「・・・・怒らなかったのか?」
ヤンはマグダラが歌った内容をアフォンソに問い掛けた。
「滅茶苦茶怒ったぜ。お陰で一日中口を聞いてくれなかったんだ」
アフォンソは肩を落としヤンの問いに答えるが眼は笑っていた。
それは皆の緊張が緩んだからだったが、それはヤンも同じだったのかクスリと笑った。
「相変わらず幼子のように婦女子を虐める奴だ。しかし・・・・お陰で助かった」
「俺達の旗持ちだからな。当然さ」
アフォンソは自慢するようにヤンに笑ってみせた。
そして一同は黄昏になるまで デレッチョ・シーティオ通りを巡回した後に寂れた教会に入った。
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「相変わらず酷い寝床だな」
アフォンソは寂れた教会の礼拝堂に皆で雑魚寝できるように部下達と準備しながら愚痴を零した。
「仕方ないですな。ここに牧師すら居ないんですから」
副団長がアフォンソの愚痴に肩を落としながら相槌を打ち、それにヤンも頷いた。
「あの狐の性格上・・・・こんな場所が一つや二つ在っても構わないと言うからな」
まだ寂れているが屋根があるだけマシだとヤンは言い、アフォンソも仕方ないとばかりに頷いた。
「そうだな。しかし・・・・ラミーロは果たしてどう出ると思う?」
今、自分達は半分近く巡回を終えたとアフォンソは改まった態度でヤンに言った。
「後半分を巡回したらお前達は船出するが・・・・それを見送ればラミーロは間違いなく死ぬ運命にあるからな」
ここ等で勝負を仕掛けてくるだろうとヤンはアフォンソに言い、それに副団長も同意した。
「とはいえ奴の性格を鑑みれば・・・・ゲスな方法で来るのは確実です」
「こんな教会の一つくらい平気で火を点けるだろうな」
アフォンソの呟きに2人は然もありなんと相槌を打ち、直ぐ手の空いた部下達に教会の外を見張れと命じた。
それを見てからアフォンソは近くに居たマグダラに声を掛けようとしたが、その時に魔石から声がした。
『アフォンソ総長、聞こえますか?』
魔石から聞こえてきた声は年を取った男の声で帝国人らしく地を這うような声だった。
「何の御用ですか?」
アンドーラ宰相とアフォンソが魔石を取り出して尋ねると魔石から聞こえてきた声は直ぐ答えた。
『船出の準備を此方は終えました。貴方の方は今どの辺でしょうか?』
「デレッチョ・シーティオ通りを半分と少し巡回した頃ですが・・・・狐の方に何か動きがあったのですか?」
静かに問うアフォンソの言葉に皆は耳を澄ませて聞く耳を立てた。
「・・・・東スコプルス帝国に向かって船を出したのですよね?」
アンドーラ宰相が言う前にマグダラが魔石を弄びながら静かに語った。
『その声はマグダラ令嬢か・・・・それを知っているという事は貴女の所にも連絡が?』
「えぇ、つい先ほど長兄と次兄の2人からから来ました」
マグダラはアンドーラ宰相の問いに答えると魔石を発動させて記録した内容を皆に聞かせた。
マグダラの兄2人は同じ内容をそのままマグダラに送ってきたようだが、どちらも共通している事がある。
「相変わらず・・・・お前に“お熱”で“同族嫌悪”だな」
アフォンソが皮肉を込めてマグダラに言うとマグダラは「モテる女の悲しい性」と答えた。
しかし直ぐアンドーラ宰相に語り掛けた。
「アンドーラ宰相。私が兄から送られた内容にはオリエンス大陸の人間も混ざっているという物もありました」
ここを教えて欲しいとマグダラは求め、アンドーラ宰相も分かっていたのか直ぐ答えた。
『オリエンス大陸の人間は我が国の生んだ“闇の落とし子”と似ています』
一攫千金の夢に駆られて今回の侵略に参加したとアンドーラ宰相は説明し、マグダラは静かに頷いた。
「何処の世界にも似た者は居るのですね・・・・・・・・」
『えぇ、そうですね。しかし我が国の落とし子と違い、向こうは国外追放を命じられたそうです』
「・・・・政治闘争に敗れた人間側に居た末端の憐れな末路ですな」
ヤンが皮肉を込めてオリエンス大陸の落とし子を評したが誰も否定しなかった。
「・・・・アンドーラ宰相。東スコプルス帝国の動きはどうなのですか?」
アフォンソはアンドーラ宰相に問いを投げたが先ほど以上に声は固かった。
『数ヶ月前に大量の将兵と軍艦を“事故”で失ってしまったので・・・・持って数ヶ月と見られています』
「・・・・・・・・」
アフォンソはアンドーラ宰相の言葉を聞いて眼を細めた。
「今から船出しても間に合うが・・・・最初の“一撃”が肝心だな」
ヤンはアフォンソを見ながら呟いた。
「アンドーラ宰相、東スコプルス帝国の皇帝は如何なる対応を取られるのですか?」
アフォンソは自分が持っている情報を組み合わせながらアンドーラ宰相に問い掛けた。
『東スコプルス帝国の現皇帝は戦いは避けられないと考えております』
それは事故が起きた時点で分かっていたらしく近隣諸国に援軍を求めるなど努力したらしいが・・・・・・・・
「“撒き餌”によって徒労に終わりました・・・・か」
『その通りです・・・・・・・・』
アンドーラ宰相はアフォンソの皮肉を込めた言葉に対し静かな口調で肯定した。




