序章:本当の飼い主
ドラキュラです。
今回は「灰色の聖騎士」の番外編で出した聖白十字騎士団の話です。
今まで書いた作品の中では粗削りも良い所の作品ですが今年中に投稿したかったので強行した次第ですが、改稿できる点を見つけ次第になりますが改稿していく所存です。
ただ読者の皆様が「こうした方が良い」という点を見つけたら気兼ねなくメールなり感想を送って下さると幸いです。
五大陸の西に位置するオッキデンス大陸。
その大陸全土を統一したのはムガリム帝国という国で建国以来ずっとオッキデンス大陸の覇者で居る。
もっとも覇者に変わりはないが内情はボロボロであるというのは自国民の間でも知られている。
それはムガリム帝国の初代女王の兄弟が築いた国を女王は併呑して今の帝国領に拡大したからだ。
もっとも表向きは兄弟の親族に不運が相次ぎ後継者が居なくなったので女王の親族や臣下を当主にして「合同国家」にした事になっている。
しかし、そこに教会の領土も入っていた事が問題だった。
教会からすれば自分達が支配していた荘園等に皇室の手が入るという点が侵略に映ったのだろう。
それを阻止せんと皇室に反感を持つ地方諸侯と手を組み何度も大規模な反乱を企てた。
もっとも皇室としては「これ幸い」とばかりに反乱分子を根こそぎ引っこ抜こうと大軍を持って反乱を徹底的に叩いた。
この一連の反乱および侵略を帝国では総じて「レコンキスタ(国土回復運動、再征服)」と称している。
ただし、この手の関しては教会は狡知に長けているのだろう。
旗色が悪くなる手前で大抵・・・・「生贄の羊」を差し出す事で首謀者には手が回らないように手を打ち続けた。
こういった点は別に珍しくないが、それを何回も行ったので今では教会=狐と見られるようになった。
かといって地方諸侯と皇室の両者には何世紀にも渡って巨大な組織と化し、そして今も民草に強い影響を持つ教会を完全に叩く訳にはいかなかった。
それを教会も重々承知しているので・・・・今も宿願---軍事的独立および更なる領土拡大の為に国内外を問わず暗躍している。
一説では教会の方が国外に打って出る事を強く出しているとさえ言われているが・・・・・・・・
この問題に皇室も指を銜えているだけではなかった。
それはムガリム帝国の帝都たる「カスティージョ(城)」から凡そ南東端にある教会の総本山たる「オラクロ(神託)」の中に在る法王等が居住する「ディオース・シーティオ(神の席)」直ぐと目と鼻の先に設けられた建物が証明している。
建物は西寄りに建てられた「館」を四方に築かれた建物が囲む「輪郭式」で館と建物の間には内掘が設けられ、更に建物の外には二重にした空堀が設けられていた。
四方には見張り櫓が設けられ、門前には堡塁も設けられており軍事施設としては申し分なかったが・・・・軍事的な面で見れば防御能力に問題がある点は否めない。
だが、この建物こそ皇室が教会に対して行った「鈴」だから敢えて防御能力に問題があっても良いのだろう。
何せ・・・・ここを攻撃すれば忽ち帝都から皇帝の親衛騎士団が大挙して押し寄せる装置がある・・・・と言われている。
そのため教会の荘園等に駐屯する私兵団が訪れる度に軽はずみな行動は止めるよう言い聞かせるのが・・・・フアン大聖堂に住む修道士の役目なんて揶揄されている。
しかし、鈴も首輪に付けられていなければ半分の意味しかない事も皇室は知っていた。
だから首輪も鈴と一緒に取り付ける事で教会を牽制および監視したのである。
その首輪の役を仰せ付かったのは修道士達で構成された「騎士修道会」だ。
騎士修道会は世俗化し貴族の私兵団や地方諸侯の軍団と化した騎士団と違い、ムガリム帝国では今も修道士から構成された組織とされている。
もっとも本来、修道士は戦う事を良しとはしない事から戦闘力に長けた騎士が修道士に成る事で発足するのだが・・・・ここに駐屯する騎士修道会を教会側は認めていない。
それは皇室が教会の動きを牽制し監視する為に派遣した「首輪」の役目を担っていると察しているからだ。
かといって下手に動けば首輪は首を絞め、そして鈴は喧しくなるのを教会は知っているから甘んじて首に付けている。
とはいえ・・・・そんな大事な任務を仰せ付かっておきながら肝心の総長についた渾名は実に嘆かわしい名前である。
そして・・・・その渾名を体現する如く教会に取り付けられた鈴の付いた首輪の役目を担う「聖白十字騎士修道会」の駐屯基地に絶叫が響き渡った。
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「一体なにを考えているのですか?!」
聖白十字騎士修道会の駐屯基地にある騎士達が住まう館の一室で一人の少女は可愛らしい顔を紅潮させ精一杯に激怒した表情を浮かべている。
年齢は17~18歳くらいでムガリム帝国の人間の平均身長より頭一つ分ほど小さいのが特徴だったが、容姿は膝まである金糸の髪と、ヘーゼルナッツの如き榛色の瞳が生来の優雅さを物語っている。
しかし小柄な体格の上に顔立ちが幼い事もあってか、幾ら頑張っても「拗ねた子供」のように見えてしまうのは悲しい事かな?
それを証明するようにベッドに腰かける男は聞き分けのない子供を諭すような口調で少女に言った。
「俺は夜、寒さを凌いでいた”御婦人”を招いただけだ。弱者には救いの手を差し伸べよと聖書にも書いてあるだろ?」
それなのに怒られるとは心外だと男は怒鳴り返そうとした少女に言い、少女はグッと拳を握り締めた。
少女を怒らせている男の年齢は20代前半で少女より頭2つ分ほど背が高く、白金の髪に薄青色の瞳で端正が取れた顔立ちをしており黙っていれば美形であるが口調は如何にも「軟派」な感じだった。
だが少女には聞き慣れた言い訳だったのだろう。
男の言葉に顔を更に紅潮させながら怒鳴った。
「寒さを凌ぐにしても別な方法があった筈です!大体ここは法王猊下が住まう場所です!それなのにあろう事か・・・・・・・・」
「おい、若頭。まぁた城壁に”新鮮”な罪人が吊るされたぞ・・・・って、どうした?嬢ちゃん」
激昂し続ける少女の背後にあったドアが開き男が入って来た。
その男は法王が住まう場所にしては血生臭い台詞を途中まで発したが少女を見るなり声を掛けた。
「貴方も副官なら上官に”節度”ある行動をしろと言って下さい!これでは皇帝陛下にも法王猊下にも私は顔向け出来ません!!」
少女はドアを開けて入って来た男---副官を精一杯に睨みながら苦言を漏らすとドアを潜り出て行った。
「あーあー・・・・てめぇのせいで行っちまったじゃねぇか」
ベッドに腰かけていた男は少女が消えた先を見ながら副官の男を軽く睨んだ。
「俺のせいにしないで下さいよ。しかし・・・・遊び過ぎるのも大概にしておかないと本当に嫌われますよ?」
あの娘は俺達の大事な「旗持ち」だと副官の男は言い、それを聞いてベッドに腰かけていた男は鷹揚に頷いた。
「あぁ、そうだな。それで・・・・今日は如何なる罪状で”清らかな罪人”は吊るされたんだ?」
「まぁ”何時も通り”と言うべきですかね?法王御抱えの2家が酒を飲んだ席で乱闘騒ぎを起こしたので生贄にされたんです」
副官の男は肩を落としながら上官たる男の問いに答えたが、そこには日常茶飯事の出来事とばかりに呆れ返っていた。
「やれやれ・・・・仮にも神の席って名前を持つ場所なのに何て様だ」
「それを言うなら兄貴はどうなんですか?売春婦を駐屯基地に連れ込むなんて仮にも法王猊下と教会を守護する為に出来た”聖白十字騎士修道会”の総長としては有るまじき事ですよ」
この言葉にベッドで上半身を裸にしたまま座る男は口端を上げて笑ってみせた。
「守護するってのは自分達より弱い存在の奴等に対して使うもんだ。法王と教会は俺達の力なんて借りなくても自衛できるさ。何より俺達の”本当の飼い主”は違う」
「確かに・・・・まぁ、罪人が城壁に晒されない日が無い都の方が大問題ですからね」
「そういう事だ。それに俺の渾名を知っているだろ?」
「えぇ、巷で有名ですからね」
副官の男は目の前の年下上官に付けられた渾名を口にした。
『聖白十字騎士修道会の若き総長は無気力・無関心・無責任の3つを併せ持った”三無騎士”である』
「そういう事だ。まぁ、女が絡めばちょいと違うが・・・・な」
「男として当然ですね。しかし・・・・あの娘も不運ですね」
実父である法王の命令で敵対している自分達の所へ送られたのだからと副官の男は言った。
「なぁに、そんな不幸も俺達が断ち切れば良いんだよ。俺等のモットーは何だ?副騎士団長」
「不幸を嘆くな。か弱き婦女子には愛の手を。腹黒い糞野郎には死の鉄槌を・・・・ですね」
副官の男が言った聖白十字騎士修道会のモットーを聞いて男は口端を更に深くした。
「その通りだ。さて朝食にしようぜ?」
昨日は疲れたと男は言い、上着を羽織ると傍らに置いていた「黒作大刀」をベルトに吊るしてドアを潜った。
この男こそ皇室が教会を牽制および監視する為に送り込んだ聖白十字騎士修道会の現総長アフォンソ・デ・カストロである。
またの名は「三無騎士」とも「女泣かせのアフォンソ」とも呼ばれている騎士修道会の面汚し騎士であるがムガリム帝国では極めて珍しい男でも知られていた。