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願い (1)

その後、


「!、シオン、マルコー!あそこ!」


ルチアが急に指差したので僕らは驚いて、同時に彼女の指す方角を見た。真っ赤に染まった町、雲の合間からのぞいている金色の光。しかしややあって日の光は分厚い雲にすぐに隠れてしまった。もう日は見えない、あとはこのまま向こう側に沈み夜になっていくだけなのだろう、と思った。薄闇が立ち込めてくる。


「ねえ、ねえ!見た?今の。」


え、と思わず声を発してしまう。マルコーはまだあちらをみたまま何も言わない、だから話の矛先は僕に向けられた。


「シオン。今、あったよ!」


ルチアは期待に満ちた表情を浮かべている。だけど、僕は呆然としていた。


ルチアが今まで言っていた事は、僕があの時見たものと同じなのだと思っていた。だからルチアが見えるとき、僕にもそれが見えるだろうと思っていたのだ。だけどーー今は正直、何か特別なことがあったのかは分からなかった。


「……。見えなかった、かな?」


ルチアは僕の困惑した表情から察してしまったようで、声のトーンが少しずつ下がっていくのが分かる。


まさか、ついさっき投げかけられた問いにすぐに答えなければならなくなるとは。でも、ここで事実を答えてしまったら、ルチアは多分、いや間違いなく傷つくことになる。かといって、嘘を言ってもすぐに綻んでしまうだろう。…無理だ。僕にはうまい嘘なんてつけない、そう諦めかけたときだった。


「わりー!」


唐突に、マルコーが発した。


「一瞬過ぎて分かんなかったわ〜、なあ、また見れるかなあ?もっとじっくり見てみてーなあ。」

「…ごめん、僕も…。」


また、救われた。僕は何とか便乗する。ルチアは少し目を伏せたが、でもその内にふっと表情をやわらげて微笑んだ。


「…そうだよね、ほんの一瞬だったもんね。」

「どんな感じだった?」


僕の問いかけに少し考え込むようにして、目を閉じて沈黙する。だけど、その後ルチアはぽつりと呟いた。


「……。光。」

「光?」

「あ、夕日の光ことじゃないよ。もっとこう、光の粒みたいなのが舞ってるの。今はそこにちょっと出てきただけだったけど、多いときは凄いんだ。まるで、星に囲まれているみたいに綺麗なんだよ。」


やっぱり、そうだった。

あの時僕が見たものと全く一緒のことを言っている。だけど、どういうことか今の僕には見えなかった。


「何だそれ、すっげーな。くそーもうちょっとで見れたかもしれねえのに!」

「そうだね。また出てくるといいんだけど…どうかな。」


ルチアは表面上は平気そうに言うが、その奥に諦めが混ざっているのがわかった。恐らく、ルチアにはこれ以上ないくらいはっきり見えているのだろう。今のすこしの間だけでも見落とすのはおかしい程に。


つまりルチアにとっては錯覚なんかじゃなくて、『それ』は確かに存在する現実であり、事実なのだ。


ルチアはきっと、孤独だ。外に出ることができない環境の上に、自分が信じているものさえも誰にもわかってもらえないなんて。ーーでも今は違う筈だ。僕がいる。だって見たんだ。僕が理解しないで誰が理解する?


浮遊する光の粒。僕が見たもの。『それ』がなんだったのか分かりさえすれば。僕は気付くとその答えを必死に探って、口をついて出た


「それってさーーもしかして、ルチアには素粒子が見えているんじゃないかな?」

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