邂逅 (5)
それからの日々は、まるで凍った気持ちが溶けていくかのような、幸せな日々だった。
夏本番を迎えると、天気は毎日のように清々しく澄み渡り、大小白い雲の合間から青々とした空を覗かせている。その内に僕らは夏休みを迎えた。僕らは決まった時間に、決まった場所に当たり前のように集合する。今日の出来事とか、まだ聞けなかったお互いの生活のこととか。一回はマルコーが馬鹿みたいな冗談を言って笑いあったり、ひやかしたり。軽い話を一通り済ませると、僕の持ってきている本の話題に移った。
僕は求められるがまま、全てを話した。僕が集めてきた知識の一番始めから終わりまで。二人は秀才だけあって、飲み込みのスピードがやっぱり明らかに違う。僕が一ヶ月かけた内容を1週間ほどで覚えてしまうのだから。しまいには自分たちで仮説をたててきて、議論しあっているのだ。
二人は僕をすっかり追い抜いていって、僕が話についていくような形が多かった。でも2人に分からないことは、僕が父親の書斎を漁って調べる。それが、今の日課。そして一日の終わりには僕らは必ず沈んでいく三人で夕日を眺めた。ここから見える景色は、綺麗だから。でもルチアは毎度少し残念そうにするのだった。
「今日も違った。うーん、もうちょっと雲が出てた方がいいのかな…。」
「なー、そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?ここからなにが見えるのか?」
マルコーがじれったそうに夕日とルチアを見比べる。
「話してもいいけど…出来れば直接見てほしかったなあ。」
大きな石に座りながら膝に頬杖をついて、ルチアは少し不貞腐れたように遠くを眺めた。
「どう考えてもおかしなことだし、でも、どうしてかなあ…?」
「ルチア、気にするこたねーよ。ここまで話した仲じゃねえか。」
「そうだよ。僕らは、どんなことだって偏見なんて持ったりしない。始めにそう言ってくれたのは、ルチアじゃないか。」
「ふふ、よっぽど変なことでなければっていったよ、シオンの話は理論的に有り得るかもしれないから、信じられるよ。でも………私の話は、誰にも理解されないと思う。」
「なんで、そんなこと。」
するとルチアは僕に小さく笑いかけた。それは諦めなのか、寂しさなのか。そういう色が混じっているように見えた。
「シオンはさ、もし目の前で私が見えてるものが、自分で見えなかったらどう思う?」
「見えてるものが、見えない?」
「要するに、幽霊みたいなものだよ。誰かに存在が分かるとしても、殆どの人にはそこには何もないんだから。あるか、ないかなんて話し合ったところで何も意味なんてないでしょう?……そういうもの。」
「…ルチアにだけ、見えるの?」
「まだ分からない。だから見てもらいって思ったの。もしかしたら、シオンとマルコーには見えるかなって。大人は誰も見えないみたいだし、変な妄想持つな、ってすごい怒られるの。子供ってだけで先入観持たれるもんね。そういうのだけでも、多分見える確率は低くなるんじゃないかなあって思うんだけど。」
「俺らは子供だもんなー、しかも同い年の!そこは言わせねえぜ!」
「うん。だから………、」
不意にルチアの言葉が止まり、
彼女はゆっくりと息をのんだ。
「ーーあそこ、」




