決意〜Origin〜 (1)
僕はその光景を前にして、ざわりと何かが僕のなかで蠢くのを感じた。
「……違う。………」
あの日の彼女の笑顔と、ルチアが重なる。
だって、ルチアは言っていたじゃないか。どんなことでも乗り越えられるって。そこで僕らは約束を交わしたんだ。
ーーどうか、忘れないで。
ーー『僕が、いるから。』ーー
「………っ!!!」
僕はその場から勢いよくかけだした。マルコーと夫人の間を通り抜けて、
「?!、おいシオン!」
走った。周りなんてかまわなかった。
来た道をいく。別に目的意識なんてない。
ただの逃避だ。
逃げている。
分かってる。
ルチアを救えたのは、誰か。
解は、解りきっている。
それは他でもない、僕だ。
僕はルチアが好きだった。
あの星空の下で。あの洞窟の中で。
僕が想いを伝えられていれば。
君がいなくちゃ駄目なんだと。
それを言うだけで、
それだけでよかったのに。
走って、走ってーー
気付いたら、僕は屋敷の外に出ていた。
丘の向こうには真っ赤な空が広がっているのが目にはいる。ざあ、といつもの草の音がした。涼しい風が僕の濡れた頬に触れて、冷たい。
結局、僕は何も繋げなかった。
君の手も。君の気持ちも。
今さら全て分かっても、どうしようもない。空っぽの両手をいくら握りしめてみても、この現実は変わりはしない。
僕は、気付かないうちにおぼつかない足取りで一歩踏み出していた。…足が勝手に動いている。これ以上、どこへ逃げようというのだろう。自分でもわからない。だけど、僕自分の内で何かを求めているのを感じていた。
あの時も、こんな空だった。
あの丘に君がいて、僕がいて。
僕らは確かに出会った。
今は、誰もいない。
もし、今君がそこにいてくれたなら
今なら、僕の想いを聞いてくれるだろうか。
ふらついた足は丘の頂上に向かい
そこに辿り着いたとき。
ーー僕は、立ち尽くした。




