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微笑み(7)

「ルチ、ア……………」


膝から崩れ落ちそうになるのを保つので精一杯だった。勿論、僕の掠れ声にはぴくりとも反応しない。


「…ルチア。シオン、連れてきたぜ。」


マルコーが話しかける。


「なあ、一ヶ月ぶりの再会だ。意外と久しぶりだろ?こいつさ、ルチアほっぽって一ヶ月も寝てたくせに、起きたらルチアがいなくてビービー泣いてばっかなんだぜ。」


まるでいつもルチアを笑わせるように、話しかけていた。


「ったく勘弁してほしいよな。こいつぼっちで、俺しか面倒見るやついねーのにさ。ほんと面倒くせえんだ……だからルチア、なんとか、言ってやってくれよ。」


マルコーは、きっと毎日こうしていたのだ。僕はふらつく足取りで車椅子に回り込んで、ルチアの正面に立った。光に向かった、その視線の先に。


「ーールチア。僕……シオンだよ。」


彼女は僕を見ているが、見ていない。まず、現実のものが目に入っていないのだ。実感してしまう。間違いなく、今ルチアは目が見えていない。


「全部、マルコーの言ったとおりなんだ。…ごめん。自分で呆れるくらいだよ。泣いても泣いても………全然足りなくてさ。…はは、…困ったな……。」


そしてついに、僕はひざまずいた。ルチアの足元に。一見したら、絵本に出てくる姫に仕える騎士にでも見えるだろうか。だけど、その先はそんな体裁は保っていられなかった。


「ごめん…っ…ごめんルチア……ッ!!僕のせいで…僕のせいで!!」


僕はルチアの手を握って、すがる。

すると、夫人はまたこう言った。



「シオン。どうか泣かないで、言ったでしょう。……ルチアは、今が一番幸せだから。」



違う。


ーー違う、違う……違う!ーー


ルチアは、普通の女の子だった。この家で育ったから、頭がよくて、家のことだって全部分かっていたかもしれない。でも違うんだ。皆と同じように、普通に、人として生きたかったに違いないのに。


これが正解なんて、幸せなんて、

僕は信じない。


なら、どうすればルチアは幸せになったというのだろう。フルクシオに生まれて、その細身にどうしようもない運命を背負って。


そんな彼女を、一体誰が救えたというのか。

ーー誰が。


その時。



「…!ルチア…?」



マルコーが緊張ぎみにルチアの名を呼んだ。僕がそれに反応してはっとして見上げると、ーーそれから、僕には、目の前に見えているものが、何故かすべて鮮明に見えた。光に照らされる塵さえも、その動きの一つ一つが、まるでスローモーションのようにして、僕の目に映り込んでくる。



ルチアが、首を動かして僕を見た。


「………!!」


僕は目を丸くする。彼女は、


ゆっくり。

ゆっくりとーー



微かに笑んだ。



ああ、と。夫人の感嘆が聞こえる。



「貴女は幸せね、ルチア。」


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