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微笑み(5)

僕にはその対応だけでも予想外で、どんな顔をすればいいか考える前に、逆に僕は反射的に口を開いていた。


「僕は。…僕は本当に、取り返しのつかないことをしてしまいました。ルチアをあの洞窟に連れていったのは、僕なんです。僕がこんなこと提案しなければ、ルチアはこんなことにはならなかったんです。………謝っても、謝りきれません……」


すると、隣にいたマルコーも前に出た。


「…俺も共犯です。今日は二人で、改めて謝罪させてください。ーー本当に、申し訳ありませんーー。」


頭を下げる。僕も一緒になって下げた。こんなことしたって、ルチアが戻るわけもないのに。でも今の僕にできるのはこれくらいだけなのだ。怒りを向けられていない分、余計に酷い罪悪感が胸の中に広がっていく。


「……………。マルコーには、前にも言ったと思うけれど、シオン。どうか気に病まないで。」


僕はまた、反射的に顔をあげて言った。


「気に病まない訳がないです。」

「いいのよ。…こんな元気な友達に囲まれて、ルチアは幸せだった。それに、ルチアにとっては、この形が一番よかったのよ。」

「……どういう、ことですか?」

「どうぞ、そこに座って。」


夫人は僕たちを優雅に促す。マルコーと一つずつソファに腰かけると、ちょうどその頃に燕尾服がまた入ってきて、僕らの前に紅茶を置いてまた去っていった。夫人はそれを手に取ると、ゆっくりと口にする。さっきから、違和感しかない。どうして、彼女はここまで冷静でいられるのだろうか。


「ルチアはね。こうなっても、こうならなくてもーー『生きてはいられなかった』の。」

「生きては、いられない………?」


僕は意味が分からずに、眉を潜めて続きを待った。


「私達フルクシオ家は、代々この土地を守ってきた。…古い言い伝えでね。この土地は誰にも踏み入らせてはいけないの。その理由は、フルクシオの血統にある。………この理由は、マルコー。まだあなたにも話してなかったわね。」

「…はい、どうしてなんですか?」


マルコーは出された紅茶には手をつけないまま、身をぐっと乗り出す。


「前におっしゃってましたよね。……『ルチアは、存在してはいけない者になってしまった』って。」


初めて聞くことばかりで、僕は理解がついていけないままだった。ただただ断片的な言葉に驚きを隠せずにいるばかりだ。


「フルクシオの血はね。稀に、ある体質を持って生まれてくるの。…『生命の水』を呼び寄せるという体質をね。」

「……生命の、水……?」


僕は呆けて、思わず繰り返した。


「そう。その『水』には、不思議な力が宿っているわ。病気の人に使えば、たとえ不治の病でもたちどころに治る、体を若く保つことだって出来る。信じられないかもしれないけど、本当にそういうものは存在したの。『水』は、私達には計り知れないエネルギーを宿していた。」


何て、非現実的だろう。そんな、物語にしか出てこないようなもの、夫人の言うとおりとてもすぐには信じられない。だけど、僕らは次に何が語られようとしているのか、生唾をを飲み込んで待った。


「ルチアがその体質だと分かったのは、丁度あなた達がここへ来た頃。その体質を持った代は長い年月生まれてきてなかったから、私達はその特殊な血は途絶えたと思っていた。だけど……間違いなかった。ルチアの言っていたことは……フルクシオの記録に記されている、その体質を持っていることの証だった。」

「光が見える。そう言ってたことですか。」


マルコーが低く聞くと、夫人は悲しげな表情でゆっくりと頷いた。


「私達は絶望したわ。まさか、私達の子供に、そんな災厄が降りかかってきているなんて。」

「ルチアの言っていた光……それかが何なのか、ご存じなのですか。」

「…光は、『水』が沸く前兆。体質を持っている人間が最初にそれに気づく、やがて『水』がすぐ近くまで引き寄せられると、常人にも見えるようになってくる。…貴方達も見たのでしょう。」

「……。この目で見ました。」


マルコーが冷静でいてくれるお陰で、何とか僕にも話が見えてきた。続けて婦人が語る。


「そうやって『水』が周知され、『水』を巡って、人々が争い、殺し合う。そんな歴史が実際にあった。最悪の場合には、世界を巻き込んだ巨大な災いを招くと、そう記してあるわ。……具体的なことは、私達にも何も分からない。けど確かなことは、『水』は存在を人に知られてはいけない、そとそも存在してはいけないということ。」


その見えてくる事実を、



「つまりーーその『水』を呼ぶ体質を持った人間は存在してはいけない。そういうことですか?」



マルコーは端的に確認した。

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