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閉塞(10)

そうだ、だって確かにマルコーは言っていたじゃないか。ルチアはーー目も見えず、言葉も話せない。心身喪失状態になったと。


「会いたがってるって……どういうこと。」

「そのままの意味だ。シオン。」


マルコーはそっと目を伏せる。そして、言った。


「………呼んだんだ。」

「…え?」


酷く小さな声だった。それはものをはっきり言う彼の性格からは考えられないほどに。


「呼んだんだよ、お前のこと。」


マルコーは俯いた。その両目は垂れた赤毛で見えなくなって、僕は思わず息をのんだ。


「あれから一ヶ月たっても。何をしても、何を聞かせても…何も話さなかった。本当に……人じゃなくて、人形みたいだったんだ。」


肩が小刻みに震えている。今にも消え入りそうなほどの掠れ声でーーこんな弱々しい姿、普段のマルコーが見せる筈がない。でも、だからこそ僕には伝わった。これからマルコーが言うことは、全て紛れもない真実なのだと。僕はまさか、と思って。そのまさかは、すぐに解った。マルコーは顔を上げる。



「だけどな、………やっと話してくれたんだ。」



マルコーは、泣いていた。


両目に透き通った涙を浮かべながら、僕に微笑みを向けたのだ。


「なあ…すごいだろ?つい昨日のことだぜ?なんの前触れもなかった、もう本当に話せなくなったのかと思ったのに。…一瞬だったけど、はっきり聞き取れたよ。……お前の名前。それだけを、言ったんだよ。」


僕は、混乱する。


「なん、で…?」


この一ヶ月間を経て、やっと。唯一口にしたのが僕の名前だなんて、そんなの信じられない。

だって僕が、ルチアの人生を奪ってしまったんだ。そんな人間に、会いたくないに、決まってるじゃないか。少なくとも、僕だったらそう思う。名前を口にすることすら厭うだろう。それなのに、



「だからさ……会ってやってくれないか?」



それなのに、今突き付けられてる現実は。

この涙は、何なのだろうか。


「僕が、会ってもいいの…?」

「…ったく…さっきから…何度言えば分かるんだよ。」


マルコーは右腕でゆっくり目を擦ると、また困ったように笑った。



「俺じゃ、駄目みたいだからさ。」

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