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閉塞(9)

仕組んだ…?お前、何言ってんだ。」

「僕らはあいつに先導されて、あの場所にいった。こうなることは、あいつの望んだことだった!」


そして僕はいきさつの説明を始める。マルコーは最初のほうこそ疑いの眼差しを向けていたが、段々と冷静に、黙って僕の話に耳を傾けてくれた。


「…なるほどな。確かにルチアは確かに無粒子の研究対象にはなるかもしれない、でも博士が本当にここまで予測できたのかは疑問だな。ルチアをあの状態から助けようとしているのも確かなんじゃねえのか?」


やっぱり、マルコーは父親について何も知らないのだ。あいつはマルコーも騙して、また利用しようとしていたのだろうか。自然とあの冷酷な面影が浮かぶと、ただただ腸が煮えくり返ってくる。


「いいや。…あいつにはルチアを助ける気なんてない。ただの道具なんだよ!ルチアの……人の気持ちなんて、あいつにとってはどうでもいいものなんだ。そんな人間のもとで協力するなんて、出来るわけがない。マルコー、悪いことは言わないから、あんな奴の所からは今すぐ離れるんだ!」


だけどマルコーは沈黙したままで、待てども僕の期待するような答えを口にすることはなかった。じっと、息を切らす僕を見ているだけ。そんな風にされると、次第にマルコーにも苛立ちがつのってきた。


「何で黙ってるんだよ?!」


僕は食ってかかる。だけど、何も耳に届いていないかのように反応がない。これじゃあまるで昨日の繰り返しのようだ。僕はもどかしさに奥歯を噛み締め握りしめた拳を震わせる。


そしてマルコーは一言答えた。



「俺は、戻らない。」



「っ!………どうしてっ!」


何で、どうしてこうも僕だけが喚いているのだろう。僕は何か間違ったことを言っているとでもいうのだろうか。


「博士が何をどうしようとしているかは、まだ俺にも分からない。だけど、ルチアを助ける手立てが、あの人の力を借りる他ないんだ。なら、ついていくさ。俺もその中で勉強して、力をつけて、ルチアを助ける。これしかねえだろ。」

「…マルコー…!」

「じゃあシオン。今度は逆に俺が訊くけど、お前はこれからどうするんだ。」



その質問一つで、僕は胸がぎゅっと締め付けられるような錯覚に見舞われた。



「チームにも入らず、ルチアにも会わない。まさかこのままずっと放っておくつもりか?」

「……僕は。……だって、僕はルチアを傷付けるだけなんだ。僕のしたことは、僕にはもう取り返しがつかない…。」


マルコーは呆れたようにため息をつく。


「お前はさっき、親父さんが人の気持ちがどうでもいい奴だって言ってた。……だけどさ、それってお前にも言えることなんじゃねえの。」

「!」


そんな筈はない。そんなわけがない。僕は寧ろ、誰よりルチアの気持ちを分かってるつもりだ。あの洞窟の中でルチアは辛い気持ちを打ち明けてくれた。僕らはそれを共有して、互いに前に進んでいくことを決めたのだから。ーーだけど、その約束はあの場所に行ったことで、全ては壊れてしまった。


「お前、今ルチアが何を思ってるのか考えたことがあるのか?」


当然だ。何度も、僕は考えた。

ルチアの時は止まってしまった。彼女の時を止めたのは、この僕だ。フルクシオの人間としてでなく、ただルチアとして幸せに生きることを、ずっと願っていたのに。それを、壊されたのだ。他の誰でもない、この僕に。


どれだけ悲しんでいるだろう。

どれだけ恨んでいることだろう。


「…僕は、ルチアの気持ちを分かってる。」

「怪しいもんだな、それ。」


マルコーは小馬鹿にしたようにさらりと僕の言葉を流す。それがまた、僕の神経を逆撫でする。


「なら、お前に分かるって言うのか!」

「………。なら、教えてやるよ。」


分かるわけがない。


だって、言っていたじゃないか。


「ルチアが、

お前に会いたがってるんだよ。」


ーーそんなこと、分かる筈がないんだ。


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