閉塞(8)
唐突な言葉に、僕は一瞬耳を疑った。
「まあ一回だけなんだけどな。でも直接ルチアを助けたのはお前だったわけだから。そこは、感謝したいって!」
ルチアに、会える。
それは僕にとって、間違いなく嬉しいことの筈だ。なのに、どうしてだろう。
ーー『目が見えなくなって、言葉も殆どしゃべれなくなった。』ーー
不安が、不穏が、僕の胸を掻き立てる。僕はルチアを前にして、一体どんな言葉をかければいいのだろう。謝罪の言葉?…謝って済むことじゃない。それとも「生きていてよかった」?…医者が治せない一生の障害を負ってしまったのに?
「僕は…………いい。」
僕はマルコーから目を背け、呟いた。
「資格がない、か?…前にもいっただろ。全部がお前のせいじゃないって。そのまま自分を責め続けたらお前、壊れるぞ。」
「いいんだ。僕が出来ることは、もう何もないから。今行っても、またルチアを傷付けるだけだと思うし。」
そう僕が自嘲気味に言うと、
「は?……何だよ。それ。」
マルコーの声色が、明らかに変わった。僕はひやりとして、そちらを見る。するとさっきまでの空気が嘘のようにして、マルコーは僕を睨んでいる。
「出来ることがないって?……お前がしないだけだろ?」
その青色の瞳の奥に、まるでちりちりと火が燃えるているようだった。
「俺はもう何度も言ってるよな。お前の力が必要だって。でも、お前はそれをずっと無視してる。」
「……。」
「どうしてだよ。何で助けようとしないんだ。お前の初恋の子じゃなかったのかよ?」
もう、昨日のことで思考することも疲弊してしまったせいだろうか。僕は無言で、冷めた視線だけを返した。するとそれとは対照的に、マルコーはますます頭に血が上ったようだった。
「いい加減にしろ、てめえ逃げてんじゃねえよ!何でそんな簡単に諦められるんだよ?!もう自分が傷つきたくないからからか?!ルチアはお前の何倍も苦しいんだぞ…?!」
僕はぎり、と歯を食い縛った。
「その苦しんでいるルチアを実験材料にしようとしてるのがーー僕の父親だよ。」
「…何…?」
僕の答えが予想外だったのだろう。マルコーは怪訝に眉を潜める。
「僕の方こそ訊きたい。お前は、なんであんな人間についていったんだ。」
「…どういうことだよ。」
マルコーは事実を知らないのだろうか、ならば教えてやらなければいけないだろう。あいつの本性を。
「全部あいつの仕組んだことだったんだ。」