閉塞(1)
ザッパーン!!!
大きな水音とともに、飛沫が僕の視線の先に散った。何が起こったかわからず目を丸める頃には、もう遅い。その時には既に、ルチアの姿がなくなっていた。
「!!…ルチアッ!!」
その瞬間、僕は考えるより先に地を蹴った。
「?!、おい、シオン待て!!」
マルコーの制止も、目の前に迫る光の渦も、構わない。だって僕は決めた。寧ろ、誓った。僕にとっての選択肢は一つしかない。
ザバーン!!
輝く湖面に向かって飛び込んだ。後ろで僕の名前を呼ぶ声が聞こえたが、とにかく無我夢中だった。冷たい水がまとわりついてくる中でルチアの姿を探す。ぼやける視界と光の眩しさに目が眩む。だけど、その中でも何とか見つけた。ワンピースの白が微かに揺らめいていた。意識があるのかないのかは分からない、だけどルチアは、僕に向かって手を伸ばしているようにみえた。まだ、助けられる。
ーールチア。ルチア!!ーー
僕は潜る。潜っていく。僕が飛び込んだ時と殆ど時間差はなかった筈なのに、ルチアはかなり深いところまで沈んでいっていた。このままだと、あの光に呑まれる前に溺死してしまうだろう。あそこまで潜ったら戻ってこられないかもしれない。息だってそんなに長くは持たない。だけど、僕は潜ることを止めない。止めるわけがない。
ーーあと少し…!ーー
息が苦しい、肺が押し潰されそうだ。もう限界は間違いなくそこまで来ている。だけど今腕を伸ばせば、どうにかルチアの手に届く。そこまで来た。限界なんて、もうどうでもよかった。今の僕はルチアを助ける、それだけなのだ。ぼくは目一杯水を蹴りながら、右手を彼女へ伸ばし、今度は即座に腕を力強く掴んだ。
しかし、
あったのは水を掻く感触だけだった。
ーーえ?ーー
見ればさっきまでそこにあったルチアの手が、無数の光になって形が失われ、僕の前から散って、消え失せた。腕だけじゃない。少しも待たないうちに、全身が、まるで溶けるようにして形が失われ、水のなかに消えていく。消えていく。
ーーそんな。
どうしてーー
困惑と絶望とともに、やがて僕はごぼりと大きな空気の泡を吐いた。途端にあっという間に体が水に侵食され、意識が遠退いていくのが分かる。
もう、僕は駄目だった。
人の命がこんなにあっけなく終わるものだとは思っていなかった、だけど自分の体だから分かる。不思議なことに周囲の光も段々と無くなっていき、最後に僕に残されたのは青々とした暗闇と冷たさだけだった。
なんて無意味で、下らない命だったのだろう。大きな事を語るだけ語って、結局何も成せないまま、最後にルチア一人も救うことができなかったなんて。走馬灯なんてものもない、本当に何もない人生だった。せめて、ルチアを助けることが出来たなら。それだけで僕の人生に意味はあったのに。
僕は泣くことも許されず、
重い瞼が閉じられていく。
その直前だっただろうか。
僕は、何か大きな影を見たような気がした。




