夏の終焉(8)
「ねえルチア…なに見てるの?」
「ーーー」
返事がない。ぼうっとしているのだろうか?何かがおかしい。もう一度声をかけようとしたその時だった。
「?!…、おいシオン!あれ見ろ!」
急にマルコーが慌てたような鋭く呼び掛ける。僕は湖面に何事かと目を戻す。
「え、」
異変が現れていた。
気付いたら一瞬にして、辺りはカンテラがいらないくらいに明るくなっていたのだ。光源らしいものは見当たらないが明度が増していたのはーー湖、そのものだった。湖全体が光っている。暗闇ではわからなかったけど、深い、だけど恐ろしいほどに透き通った青を湛えているのが分かる。
「な、何だこれ?!」
「すげえ!……ってこれ何だ?!水が光ってるのか?!」
高い天井の岩肌は隅々まで照らされ、その一面にきらきらと、大きな網模様が揺れて映し出されていた。それはとても綺麗な光景だったけれど、僕らは自分の目を疑わずにはいられなかった。僕が、ルチアを見たあの時と同じに。
さらに、僕は湖に身を乗り出してルチアの視線の先を探る。するとどうだろう。段々と、奥に白い、発光しているものが見えてきた。それは明滅を繰り返して、何か蠢いているようにみえた。
「マルコー!あそこ、あれ何だ?!」
「!、…シオン、これってまさか…!」
はじめ何かの生物かとも思ったが、違う。だって光はどんどんその範囲を広めてきている。奥底から、沸き上がってきている。
「おい、これがルチアが見てた光、ってやつなのかよ…?!」
「分からない…!でもこんなことって…、」
このまま待っていたらこちらまで溢れ出してくるのではないかと思うくらいに、物凄いスピードで範囲を増しているのだ。
僕らはその光景に段々と恐ろしくなってきて見合わせた。
「シオン、一旦離れたほうがいいんじゃねえか。なんかやばそうだ!」
「ああ!……ルチア、こっち!」
マルコーがその場を離れると同時に僕はルチアの手を引こうとした。だが、
その手はするりと僕の指を通り抜ける。
「ーーえ?ーー」
僕らの夏は
その一瞬で、終わりを告げた。