夏の終焉(7)
「なんだか、シオンがいれば何でも乗り越えられる気がしてきたよ。」
「自分で乗り越えなくていいときだって、あるんだよ。その時は、僕らを頼って。」
「本当?じゃあ全部交代してもらおうかなあ…」
「う。…僕はルチアほど頭がよくないから代わりにはならないと思うけど…」
「ふふ、冗談。だけどシオンだって十分頭いいじゃない。普通、中学生には物理化学なんて分からないよ。」
「前に言ったけど、それ以外はからっきし。僕は好きなこと以外興味ないから。」
「右に同じ。」
「特に興味ないのは?」
『…社会科。』
二人の声がぴったり合わさると、僕らは互いに目を細めて小さく笑いあった。その時間は僕にとって、あるいは一番幸せな時間だったかもしれない。ルチアの本当の気持ちをずっと知りたかった。本当に断片的だけど、それを打ち明けてくれたのが何より嬉しくて。僕は何だか使命感にうたれたのだった。何があってもルチアを傷つけたりさせない。
その時、
僕は進行方向に振り返り、ルチアが顔を上げた。遠くから何か聞こえてくる。洞窟内を反響して微かに聞こえてきた、マルコーの声だ。言葉ははっきり聞き取れないが、僕たちを呼んでいるようだ。僕らは一瞬見合わせてから、駆け出した。過去にルチア一人で歩けていた道だ、さほど進みにくいということはない。走り続けると程なくして遠かったマルコーの声が近付いてくる。
「おーい何やってんだ!早く来いよ!」
僕らは緩やかな坂を降りていき、暗闇の奥深くへ誘われていったのだった。真っ直ぐ行くとカンテラの薄い明かりが向こう側に見えて、それを頼りにいくと、今までとおった道よりはるかに開けた空間に出た。その端の方でマルコーが明かりの中心に立っていて、僕らは息を切らしながら駆けよった。
「やーっと来た。…なあ、ルチア。ルチアがいつも来てたとこって、ここか?」
「…うん。そうだよ。これ以上は進めなかったと思う。」
ピチャリ
近くで聞こえた水音に僕は反応する。思わずカンテラをそちらに向けると、息をのむーー何故なら僕らの目の前に広がっていたからだ。
「これは…地底湖?」
「みたいだな。俺も初めて見た。」
僕のつぶやきにマルコーが頷いた。暗闇で分かりにくいが、照らしてみると確かに、僕らの前には広々とした水面が、空間一杯に静かに横たわっていた。
「…ここ、何もなかった筈なのに…いつの間にーー」
ルチアは湖のたもとに立って目を伏せる。その隣に、僕らもしゃがみこんだ。
「へーそうなのか?きっと潮の満ち引きなんだろうな。確かこの草原の裏は海だっただろ?きっと引いたときに水が取り残されるんだよ。俺達よく分かんなかったけど…随分下まで降りてきちまったんだなあ。」
「?」
ふと、僕はルチアの視線が気になった。どうしてだろう。普通に水面を見ているだけの筈なのに、なんとなく、マルコーとは違うところを見ているような感じがする。それから僕らは少し何も言わずに湖面を見ていたが、ルチアが何時までたっても微動だにせず一点を見つめているので、やっぱり気になった。




