夏の終焉(2)
「ったりめーだ!俺達の夏休みはこれからだぜ!」
「今までのはなんだったの?」
「前哨戦ってやつだ!」
「ちょっと長くない?あはは、」
ああ、そうか。と僕は納得する。マルコーもルチアも、僕よりよっぽど大人なのだ。自分の気持ちなんて、自分達ではどうしようもないことを吐露しても、どうしようもないことを分かっていて、だから自分が変わることでそこから乗り越えて、割りきることの出来る人間なのだろう。
それに比べて僕と来たら、いつでも現実に文句ばかりを垂れて、何が出来るでもなく黙っているだけなのだから。その結果が、これまでの陰気な生活になっていたのだろう。マルコーが声をかけてくれなかったら、きっとあのまま一人だった。なんの生産性も面白みもない人間で腐っていくだけだった。だから、僕も二人のように前を向いていくべきなのだろう。きっとそれが大人として成長するということで、僕も彼等にに習うべきなのだ。
僕はそう思った。
「今日は本当にありがとう。今日のことはもう私には十分すぎるくらい、忘れられない思い出になったよ。こんなこと、一人じゃ絶対できなかったし。」
「へへー、まあ俺達だから出来たことだな!」
「僕は何もしてないけど…。」
「そんなことないよ、だって、シオンがいなかったらこうはならなかった。」
「ほんとだぜ。立ち入り禁止のところに堂々と毎日通うなんて、よっぽど心臓に毛が生えてなきゃできることじゃねえ。」
「それは気付かなかったから、」
「あの入っちゃいけなさそうな雰囲気でカメラを見落とすのもなぁ…」
「………。見えないものは見えなかったんだ、仕方ないだろ!」
「ありがとう、気付かなくて。ふふっ」
最近マルコーが僕を茶化し始めるとルチアもそれに乗る癖がついてる気がする…勘弁してほしいものだ。僕はため息をひとつ吐くことで取り敢えず仕切り直した。
「ルチア。今日はまだ終わってない。今度はまた見つからないように部屋に戻らないと。」
「うん、ロープはそのままにしてあるから大丈夫。」
「よじ登る方が大変なんだ。僕が登りかたを教えるから。」
「そう?」
「安心していいぜルチア。俺がしっかりこいつに叩き込んだからな。技術は間違いないぜ。」
「…いこうか、ルチア。今日は、もう遅いから。」
「………。うん。」
ルチアは名残惜しそうにまた空を見ていたが、やがて取り直したように笑って頷く。
「足元、暗いから気をつけて。」
「ありがとう、シオン。」
僕が手を差し伸べると、ルチアは手をとった。ひんやりとした、細い指。今にも力なくすり抜けてしまいそうだ。僕がこう感じているということは、ルチアには僕の手が暖かく感じられているのだろうか。僕はせめて彼女の手をしっかりと握って、足場の悪い丘の上で転ばないように気をつけながら手を引いていくのだった。
そうだ、しっかりとしなければいけないのはルチアではなく、僕たちのほうだ。こうして夏休みの別れがなかったとしても、いつ前線に駆り出されるかも分からない。ルチアを守るために、いつだって、そういう覚悟は決めておかなくてはならないだろう。だから、この得られた一時は当たり前じゃない。だからこそ、悲しむのではなく楽しむべきなのだ、と。マルコーの言っていることが今になってやっと分かってきて、本当に、自分の考えが浅かったのだと知る。失笑だかなんなのか分からないが、なんだか笑みがこぼれた。




