夏の終焉(1)
「友達ってすごいね、いつもの一人とは全然違った。楽しかったし、こんなに何でも話せるとは思わなかった。でもやっぱり、いつかは別れるときが来るんだね。だから私が今願うとしたら………その別れがなくなることかな。」
それはまさに、普段僕が考えていたことと同じだった。僕たちには、人間には逃れられない。こうして築き上げた絆も、いつかは消えていくものだ。例え死ぬときまで一緒でいられるとしても、僕らの時間は、存在は有限だ。
終わりがあるから今が素晴らしいって誰かが言っていた。でも僕はそうは思わない。どうして何かには終わりが必要なのだろうか。どうして出会いには別れが必要なだろうのか。どうして、この時間が永遠じゃいけないのか、分からない。ーー理解はしている。ただの無い物ねだりだってことは。議論する価値もない。そう理解しているはずなのに。
「大丈夫だって。」
マルコーは明るく笑いかける。
「一生会えなくなるわけじゃねえさ。二人ともそんなしょんぼりすんなって。それに、俺はさ、心の中に残る思い出って必要だと思うんだ。仮に三人で会えなくなったとしても、思い出せれば、その中でまた会える。過去の中にこの時間が消えたって、俺たちが覚えてるかぎりは、一緒に過ごした事実が消えることはないさ。だからさ、俺達が忘れないような、そういう時間をすごせればいいんだよ。」
「……そうだね。マルコー。」
流星が流れていく、見れば段々とその数は減っている。程なくして終わるのだろうことが分かった。しかし、僕らは目を外さなかった。どうか今この時が終わらないように、この流星が、いつまでも止まないように。
やがて、空が沈黙した頃に、僕はルチアの方を見た。ルチアは、胸の前で自分の手を握りしめている。ゆっくりと目を閉じて。祈っているように見えた。そして何か、横から視線を向けられているような気がする。マルコーが何かを僕に促しているのかもしれない。だけど、今の僕にはなにもかけるべき言葉が見つからなかった。
ルチアがこの家から切り離されて自由の身になれば、僕らは別れなくて済むだろうか、そう考える。だけど、こんな子供にルチアの家をどうにか出来る術なんて、見つからない。あの国防相の娘なのだから、口出しなんて出来る筈もない。
僕はどうしたらいいか分からず、ルチアの祈りをただ、見ていることしか出来なかった。
そんな自分に、苦しいもどかしさを感じずにはいられなかった。
するとーー
「あぁー、見れたー!」
マルコーがぐっと伸びをして頭の後ろで手を組んだ。
「でも俺ら相当運がいいぜ。警備の人が許してくれたこともそうだけどさ、まさかさ、この日が流星群に当たるとは思わねーよ。あははっ!」
満点の星空は変わらず僕らを包み込んでいる。だけどマルコーの、そのいつもの調子で、僕はさっきまでの世界とは違う、現実に戻ってきたような気がした。ちゃんと地に足がついてる感覚が戻ってくる。それは夢から醒めたような寂しさがあるものの、何故か、さっきよりも少しだけ気持ちは楽になったのだった。
「本当に、凄かった。マルコーが言ってくれなかったら、僕もこんな凄いの見る機会なかった。」
「なあ、来てよかっただろー?夏休みの課題その一終わり!」
「…その一?」
悪戯っぽい声と表情で、いつのまにかルチアはマルコーに向き直っている。正直驚いた。まるでさっきまで目を閉じていたルチアとは別人で、ここに来る前の楽しげなルチアに戻っていたのだから。