願い(7)
「僕は特に、マルコーみたいに外の世界を見てみたいとは思わないけど、それよりも世界の中の仕組みを知りたいかな。」
「お、始まるか?無粒子論!」
僕は再び空を仰いで、視界に幾億の星を満たした。
「宇宙の始まりとか、仕組みとか考えてると、やっぱりわくわくするんだよ。この空みたいに、戦争が始まる前は世界中綺麗だったと思うし…法則を解いて、人間にもそれが再現可能かもしれないって考えると、わくわくする。…ああ。そうだったら世界中を回ってみるのも悪くないかも。」
「じゃあ、シオンは夢を叶えてる最中だね。」
「そんなことない。無粒子論が完全に受け入れられる時代が来るとして、本格的に研究するには相当の設備が必要だろうし、人手だっている…それこそ、世界中の。そんなことを実現する能力は、僕にはないよ。」
「俺たちがいるだろ!始めは誰だって少人数なもんだぜ?まだ勉強中だけどな!」
「お父さんにも、言ったら喜ぶんじゃない?」
「父親は…関わりたくない。」
僕はげんなりとしてそっぽを向いた。
「まーいいじゃねえか、それも家庭の事情ってやつだろ。えっーと、どこまで聞いたんだっけ?……『ゼロ』までいったとこか?」
ルチアは頷いて肯定する。
「『ゼロ』……全ての無粒子の生まれる場所、だったっけ。この星空も無粒子からできてるなら、本当にどこにあるんだろうね?シオンの話を聞いてると『アカシックレコード』に近いから、多分私たちの目には絶対見えないんだろうけど。」
「いーや、ルチアには見えるだろ。何せ視力2以上だからな!」
「それ、引っ張らないでよ。」
「へへへ。それよりほら、ルチアで最後だぞ。願い事、何にする?」
「……そうだね、……………。」
マルコーが楽しそうに聞く。しかしルチアはうつむくようにして黙りこんだ。
「?、ルチア?」
さっきまでの話し声が途切れて、辺りは急に静けさを取り戻す。そして、ルチアは空た。気付けば、辺りには次々、見たこともないくらいの流れ星が次々に流れていた。流星群、というやつなのだろうか。僕たちはその信じられないほど綺麗な景色のなかでしばらく言葉を失っていた。
「ーー私は、何もないよ。」
流れていく星空の中こぼれたのは、それとは対称的な一言。僕は聞き直した。
「何も?」
「うん。前の私はね、友達がほしいって思ってた。でも今は、シオンとマルコーが友達になってくれたからね。叶っちゃったんだよね。こうして話せてるだけで、私には十分。」
「…ルチア。」
「でも、時間が止まってほしいかな。この夏休みが、ずっと終わらなければいいのに。」
「なんだよ、夏休みが終わったからって会えなくなるわけじゃないだろ?」
「…… ううん。学校のあとには、すぐ家に戻らいといけないから。」
「今みたいに自由時間とかはないの?」
「ある日はここにくるよ。でも…ここも、多分閉められる。今年の夏休みの間だけって、警備の人が言ってた。」
僕ははっとする。……そういえば、そうだった。僕らの存在はすでに把握されている。僕はルチアと話せなくなるなんて考えてなかった。だけど、本当はこうして友達になるなんて、成し得られることではなかった。何故ルチアの家がそこまで厳しいのかはわからない、ただ、彼女の家は僕たちが近づけるような家柄でないこと確かなのだ。
「じゃあ………夏休みが終わったら、会えなくなるのか?」
ルチアは少し困ったように微笑んだ。
今にも消え入ってしまいそうな、そんな表情。
その儚さが星の光に映し出されて、
一瞬にして僕の瞳の中へと滲んでいった。