願い(6)
どこまでも、どこまでも、無限に続く光の奔流。それらは静かな白銀の光をたたえながら僕らの視界に一瞬にして降り注ぐ。それはこの街も、海も、世界も、包み込んでいる。きっと宇宙そのもの、と言ってもいい。だって星空は宇宙の一部なのだから、言ってみれば当然のことだ。
僕らは宇宙という大きな存在の中にに生かされている、本当に小さな存在でしかなくて、普段それが見えてないから、僕らはその自覚を忘れて、葛藤とか、憂鬱とか、欲望とか、妬みとかにとらわれたりする。けれどそれらはこの存在に比べれば、本当に下らない、取るに足らないことなのだろう。そんな取るに足らない現実を何でもなく見守っているのが、この果てしない存在なのだ。
「ーーすごい…」
ルチアの静かな瞳が、煌めく。
「うちの庭から、こんな空が見れるなんて。」
「こりゃー思った以上だぜー。なー!俺の言うとおり、来てよかっただろ?これを普段見れないなんてお前んちどうかしてるよな!」
マルコーははしゃぎながら大岩のいつもの位置に座った。ルチアはその左、少し前の方で寄り添う。 僕は右だ。照らされた2人の背がシルエットになっているのが目に映った。
「あ!今流れ星通った!」
「え、どこ?あはは、星が多すぎて分かんない!」
「あそこだって、あ、ほーらまた!」
満天を指差す。まるでどこかのおとぎ話にでも出てきそうな楽しげな風景に、僕はなんだか現実感を感じられずにぼうっと見ていた。ふと、僕はここにいてもいいのだろうかーー何故か、そんな考えにとらわれる。
「ルチアって、こんな風に周りが見えんのか?すげーよなあ!」
「ううん。似てるけど、こっちのほうがずっとすごい。……すごいよ!」
「おーいシオン!見てんのかよ!」
声をかけられて、僕はやっと我に帰る。
「ああ、…ちゃんと見てるよ。」
「お前も探せ、流れ星!」
「流れ星か…この中からだと厳しくないか?」
「あっ!あれは?」
今度はルチアが指した。
「あそこ!動いてるよ!」
「おお!どこどこ!」
「あ、消えちゃった…あ!でもまたあっち!」
だけど、やはりその星空の美しさには僕も目を奪われずにはいられなかった。僕は言葉も出ず、星を見つめていた。マルコーとルチアの会話が続いている。
「すげぇー!めっちゃ出てんじゃん。」
「最初はゆっくり動くけど、結構一瞬でなくなるよね。」
「でもこんだけ流れてれば願い事できるな!なんかあるか?やれやれ、無欲な俺には勿体ないぜ〜…やっぱ金金金、か?」
「うーん…その前に…世界平和じゃない?お金なんて、私にはあってもそんなに意味があると思えないよ。」
「ちぇールチアには貧乏人の世界はわかんねーもんなあ?」
「…マルコー。」
最後の言葉だけ聞き流せず、僕は制した。
「ははは、冗談だってシオン。ルチアは立派なとこな分、色々縛られて大変だもんな。」
「…うん、色々とね。むしろこの家、出ていきたいくらいだもん。」
「はー、まじかよ。勿体ないけど、ま…確かにそう思っても仕方ないよな。」
「じゃあ、もし戦争がなかったら、っていう考えればいいんじゃない?世界中、どこだっていけるし、何を手にいれるも自由だとしたらって。」
ルチアの提案に、僕らは一旦三人で見合わせた。
「いいな!それ。じゃあ俺世界一周する!この世の楽しみという楽しみを全部経験したい!」
「おいおい…何ヵ国覚えなきゃいけないんだよ。」
「5ヵ国、くらいじゃないかな。多分。」
僕の疑問にルチアが冷静に回答すると、マルコーは一瞬体を固まらせてから後ろ頭を掻いた。
「まー…根性でなんとかなるだろ!楽しいことのためなら何でもできるってな。」
「多少なら教えられると思うけど…」
「はあぁ?!ルチア5ヵ国語しゃべれんのかよ!」
「しゃべれはしないよ。勉強させられてるだけ。使わないのにね。マルコーもやる?」
「いやー…3ヵ国語が限界じゃねえかな。」
「3ヵ国でも十分すごいじゃないか…。」
二人の秀才談義には付いていけない。僕はそれ以上踏み込むのは止めておいた。
「ねえ、シオンは?何したい?」