願い(4)
僕らは正面から入口に向かわず、脇の方に回り込んでいく。カメラも電力要らずのセキュリティもないことは下調べ済みだ。地点まで来ると、マルコーが柵に向かって重りつきのロープを投げた。ヒュッと風を切る音がして、ロープを引いてみると確かな手応えを感じたようだった。どうやらうまくからまったようだ。それからマルコーは素早い動きでロープを伝っていく。父親譲りの軍人の技だろうか。前から僕はこの姿を知っているから驚きもしないが、相当なレベルだ。僕もそれにならって登った、久しぶりだったので少し手間取る。早く来いよと急かされたが、こんなのについていけるのは多分僕ぐらいのものだろう。
うまく内に入り込むと、ロープを回収してあらかじめ目印をつけた獣道を辿っていく。そうすると、計算通り、あっという間にあのいつもの草原につくのだった。下の道より 草原は鮮明に夜の光に照らされていた。
「まだ空はみないどけよ。」
とは言われたもののどうしても見えてしまうものはあって、一部見えてるだけでも、すごいという言葉が自然と沸き上がってくる。当然だ。街の中とは、見えてる空間の広さが全然違うのだから。何とか見ないように手を額の上でかざすと、マルコーも、それに習った。
「あと…このチャンス、無駄にすんじゃねーぞ。シオン。」
「チャンス…?ーーって、」
一瞬困惑したが、この言い方。何だか聞き覚えがある。
「お前まさか…また、そのために?」
「当たり前だ!お前自分で告白したいって言ったんだろーが!」
「…待て、そこまでは言ってない。」
「言わなくても顔に書いてあんだよ!距離を縮める究極の機会なんだから、告白の内容くらい考えとけっての!」
「いや…その、」
何だか3人でいるようになってからというもの、すっかりセットで友達関係になってしまったから、そこから告白なんて…逆にお互いを知らない状態からより気まずいだろう。それに僕は、目の前のマルコーに比べたら比較対照にならないほど何もできなくてーー
「あっちだ!」
考えが終わらないうちにマルコーが駆け出していく、まるで初めてここに来たときのことを繰り返してるみたいで、何だか滑稽だった。僕はため息をつきながら、またマルコーにつれられて、あの大きな屋敷の方にかけていく。
「あーまだ誰か起きてんのかっ!この時間はいつも誰も起きてないって言ってたのに!」
僕もはっとしてそれを見る。確かに一階の大きな窓には、カーテンの向こうに明かりが灯っていた。多分大きな燭台でも複数おいているのだろう、わりと明るい。
「…でもこの時間はルチアは部屋にいる約束のはずだよ。一階の人間に、気付かれずにやるしかない。一人だか二人だかは分からないけど。」
「今回はいつにも増して慎重さが必要ってことか。腕がなるぜえ…」
「とにかく裏に行こう。ルチアにも、今日出来そうなのか確認した方がいいよ。」
裏に回り込むと、確かにあの角の窓にうっすらと明かりがあった。するとマルコーはそこら辺の小石を手にとって窓に投げつける。
カツン、
投擲もやはり安定している。ここまでは段取りどおりだ。あとはルチアが出てくるかだ。しかしーー
「あれ?」
2分くらいたっても出てこないのでマルコーはもう一度石を投げた。同じようにカツン、と小さく音がなった。でも、それから5分、10分くらいたっても彼女は出てこない。