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願い (2)

『え…?』


2人の怪訝な声が重なる。多分、無粒子の話を初めて聞いたときより驚いた表情で、僕に向いていた。恐らく2人にとってはひどく突もない話だったのだろう。でも言ってしまったからにはこのまま進むしかない。


「光の粒、なんでしょ?それって触れる?」

「…ううん。触ってみようとはするんだけど、触れないよ。」

「だったらそれは物質じゃない、きっと素粒子の一種だよ。」


ルチアはすこし固まったかと思うと、

声にして笑った。


それは僕らに初めてそうしたように。さっきまでの寂しい顔が嘘のように笑い転げている。どうやら僕はよほど変なことを言ってしまったようだ。


「まさか、見えるはずないよ。物質の最小単位なんでしょ。確か、シオンの話だと0.1cmの30倍小さいんじゃかった?」


その笑顔でほっとしたけれど、なんだか少しだけ悔しい気持ちになるのだった。僕としては核心をついたつもりだった。


「そんなことない!光ってるなら見える大きさも変わってくると思うんだ。それに素粒子は僕らの目に見えなくても、空間中を飛び回ってる。」

「それが見えてるってことか?!まじかよ、素粒子って星みたいに見えるのか?かっけー!」

「あはは、よしてってば、じゃあなんで私にしか見えないの?」


僕はとにかく虚勢を張った。


「普通は見えないさ。ルチアの目が特別なんだ。」

「何!そういうことだったのか!よっぽど目がいいんだなー視力いくつだよ?」

「普通だよ。まあ……目はどっちもいい方ではあるみたいだけど。」

「ほーらやっぱり、どっちも2以上だろ?ちくしょーっ2より先は行ったことねえー!」

「誰もそこまで言ってないよ!」


マルコーが頭を抱えると、二人で笑いあっていた。僕は少し本気で言っていた節もあったが結局笑い話で終わってしまった。でも、ルチアがいつもの笑顔を見せてくれたからそれでよかった。僕も輪に加わって笑う。


「あ、そういえばさ!星って言えば、今月の充電日もう少しだったよな。」

「ああ、確か明日だったと思うけど。」


僕は何でもなく答えた。充電日とは、いわゆる市の電力の差し押さえことだ。戦争で数多くの施設や資源が破壊され発電手段がほとんどなくなってしまった今となっては電力は貴重だ。ITなんて、昔流行っていたノートパソコンですら余程の都会でないと使えない。僕らは必要最低限の電力を配布されている。原始的な手記だったり、電球や蝋燭に頼っているような生活。それでも電力が足りなくなるから、月に一度は一日中町中の電気が止められることがある。だけど殆んど電気を使わない僕らにとってはもう慣れた日常の一部なのだ。


「それがどうかした?」

「いや、ここからだったらさ。星がきれいに見えるんじゃないかなーって思って。きっとすげーぞ!ルチアが見てるのに負けないくらいな!」


マルコーは薄闇のなかで空を仰いだ。町の向こうに見えなくなったであろう夕日の赤と、迫り来る夜の青で、広い空は綺麗なグラデーションに染まっていた。


「確かにすごいだろうな…」

「ルチアはこっから見たことあるか?充電の日にさ、」

「ううん。夜は家で課題やんないといけないし、夜までには帰らないと怒られるんだ。」

「なんだ、抜け出したりできないのかよ。」

「えっ…考えたことなかった。そんなこと出来るのかな。」


ルチアは戸惑ったようにそっと唇に人差し指の背をあてる。


「おいマルコー、あんまり無理させるなよ。ルチアはお前みたいなのじゃないんだから。」

「どういう意味だこら!…だってさ、こっから見ないなんて勿体なくねえ?俺見てみてえなー、せっかくの夏休みだぜ?」

「天体観測なんて宿題も今時出ないしな。自由研究とか言って出れないのか?」

「そしたら出れたとしても付き添いの人がいるかな。」

「あー…やっぱだめかなあ。」

「……でも、出来るかな。」


ぽつりとしたその呟きに僕らは顔を向けた。


「私も見てみたい。…連れ出してくれる?私のこと。」


どっちに向けられた言葉なのかは分からないが僕らは顔を見合わせると、マルコーがニッと口元を上げた。

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