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初恋(仮のタイトル)  作者: まほろば
学園にて
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学園生活の始まり2



『ごめんなさい。私をカラのお友達から外してください。じゃないとカラに迷惑が掛かってしまいます。今までありがとう』

手紙を届けて貰い私は部屋に戻りました。

涙も出ません。

カラとお揃いの鞄を見ていたら、いつの間にか泣いていました。

初めてのお友達を失うのは辛いです。

沸々と心に怒りが溢れてきて、初めてお父様を憎いと思いました。

小さな時からの事が次々に思い出されて、どれだけ邪魔者扱いされてきたかと思うとこの家に居るのが辛くなりました。

お父様にとって、私は娘ではなく利用する駒なのです。

早く15歳になりたい。

私の気持ちの支えはそれだけでした。



夕方、カルチェラタン公爵夫妻からお父様と私に夕食のお誘いが有りました。

お父様はご機嫌でしたが私は死にたくなるほど辛かったです。

公爵様は私の手紙でお父様に会うと決めたのだと思います。

無理矢理ドレスを着せられて、迎えの馬車に押し込まれました。

公爵家ではカラが出迎えてくれました。

泣くまいと思っても顔が歪みます。

カラは『大丈夫』と私の手を握りました。

申し訳無くて、顔を上げられません。

出迎えはカラと数人のメイドで、客を迎える執事の姿はありませんでした。

爵位は違って同じ貴族なので誘った方が玄関で迎えるのがマナーなのですがそれも無くて、最初からお父様の予想を裏切る展開でした。



カラが案内した応接間に公爵夫妻は居ました。

公爵夫妻は黙ってお父様と私を迎えました。

「座って」

カラが私の手を引いて端のソファーに座ります。

お父様は困惑して居ました。

まさか初めから声も掛けられないとは思ってもいなかったのです。

公爵夫妻はソファーに寛いでカラと私を穏やかな目で見るだけで、そこにいるお父様が見えてないかのようでした。

お父様は公爵が無言を貫くので身動きできません。

公爵様から話す許しが出なければ何時までもこの体制で待つしかないのです。

5分が過ぎても公爵はお父様を見るだけで喋りません。

お父様の顔が次第に歪みます。

無言が公爵様の答えだとお父様も悟った様でした。



「お食事の仕度が整いました」

メイドが知らせに来ました。

公爵夫妻は立ち上がり移動しますがお父様には一言もありません。

カラは私の手を引きます。

「そちら様もお越しくださいませ」

呼びに来たメイドがお父様を促しました。

お父様の目が『紹介しろ』と立ち上がった私を睨みます。

口を開こうとした私の手をカラがきゅっと握りました。

「今日2人目なの。同じクラスで親しくさせて貰ってるから、って。私が学園に入ってからもう10人はみえてるわ」

カラは私に教えるように話します。

それがとても自然でお父様が後ろに居るのも見えていない話し方でした。



私とカラの席は大きなメインテーブルの1番奥の末席で、公爵夫妻とお父様は壁の紋章の前の上手でした。

私とカラの席からではたまに小さく話している声が微かに聞こえるだけで、上手の事は何も分かりませんでした。

「大丈夫。私のお父様にお任せして」

カラは私を安心させるように笑うと頷きます。

「…ごめんなさい」

カラに謝る声が震えて、先が続きません。

公爵夫妻とお父様の間でどんな話があったのか、お父様は帰宅してからも固く口を閉ざして話しませんでした。

それからのお父様は2度と『公爵に会わせろ』とは言いませんでした。



長い2ヶ月の夏休みに入って、私は直ぐに領地へ戻りました。

お父様は『行かない』と頑として腰を上げませんでした。

行って…見えた光景に目を疑いました。

苗木の半分が腐って倒れていて、肥料の臭いが鼻をつきます。

「こんな…」

呆然としている私に畑を任されている老人か教えてくれました。

「旦那様がルナフ嬢ちゃんに言われたと去年何時もの3倍の肥料を撒いたですよ」

「…3倍。お父様が言ったの?」

「はい。『3倍も撒けば去年の分も補うだろう』と言われて…」

それなのにお父様は私に『責任を取れ』と言うのだと思ったら泣きそうでした。



「3日待って。お祖父様の書斎で何か良い方法があるか、調べるから」

その日から必死に探しました。

土を水で流しても染み込んだ肥料は流れません。

土を生き返らせる方法は見付かりませんでしたが、緩和する方法に使える物は有りました。

「山から土を持ってきて畑の土と混ぜて。良い機会だから畑を広げましょう」

「綿の苗は?」

老人は今まで世話をしてきた苗に未練が有るのは分かっていましたが、今はお金を作るのが1番大切な事でした。

「あの状態では収穫は望めないの、残念だけど抜いて全部焼いて、そしてまず畑を整えて。私はその間に次の手を考えるから。ごめんね」



必死でした。

これから過剰な肥料の土地に植えて、冬の前に収穫できてお金になる物。

辿り着いたのはピクルスでした。

植える野菜を変えて、冬まで2回収穫出来て保存が出来てお金になります。

綿花ほどの収入は望めませんが、野菜を2回植えることで過剰な肥料が土から減るので来年は綿花の苗をまた植えられるはずです。

老人に指示を出して、1回目の収穫までは領地に居られましたが、2回目は学園も始まるので老人に任せるしかありませんでした。

「来年は綿花に戻すから今年だけ頑張って。肥料は1年おきで、今年は撒かないでね」

「旦那様に言ってくだされ」

「私が言ってもお父様は聞いてくれないわ…」



都の家へ戻ると家の中の空気が変わっていました。

居なかった2ヶ月で何が変わったのか、私には分かりませんでした。

思い付くのは…お母様と妹でした。

もう3ヶ月もすると社交の季節になります。

私はお父様はお母様と妹を呼び戻すと思っていました。

去年が思い出されて、覚悟しながら2学期が始まりました。

カラとのお茶会も再開されて、2人だけの時に少しだけ辛かった話もしてしまいました。

胸の中でお父様の仕打ちがしこりになっていて誰かに聞いて貰いたかったのです。

カラに話せて気持ちが凄く楽になれました。



学園の合間に届く領地からの『順調』の報告に胸を撫で下ろします。

お父様との一方的な約束もこれで守れそうで安心していましたが、その報告を聞く度にお父様は不機嫌になりました。

「来年はまた綿花を植えられると思います」

「言われなくても分かっておるっ。お前はわしに向かって自慢したいのかっ!」

怒りっぽくなったお父様と段々会話も無くなってしまい、私の気持ちの支えはカラだけでした。

お父様の態度が変わったからか、執事も使用人も私への接し方がぞんざいになった気がします。

お父様からも使用人からも顔を見る度に嫌そうな顔をされるので必要な時意外部屋から出なくなりました。



学園から家に帰っても不機嫌なお父様が居て…自然に私は学校の図書館で時間を潰して帰るようになりました。

図書館は中等部と高等部の真ん中にあって、共有の施設になっています。

中に大きな6人掛けの机と椅子が10組置いてあって、上級生の姿がありました。

上級生が勉強している所へ入っていくのは怖くてビクビクでしたが、家へ帰るよりましでした。

図書館には色々な本があって、読みたい本がたくさん有りました。

貸し出しをしていないので家で読めないのが残念です。

借りて帰れたらきっと今より家の暮らしが辛くなくなるのに、と思うほどでした。



気持ちが休まる場所が図書館しかなくて、私はほとんど毎日閉館近くまで図書館に居ました。

図書館で本を読んでいる時だけが私の安らぎでした。

毎日通っているので自然に使っている方々の顔を覚えてしまいます。

利用する方の中には高等部の方もいるので失礼の無いように会釈してすれ違うようにしていたら、返してくれる方も何人かいてその中の1人を最近はつい目が追ってしまうのです。

明らかに上級生でした。

大人びていて、もしかしたら高等部の方かもしれません。

かの方を見掛けるのは週に1度か2度で、会えたその日は幸せで夜も辛くありません。

名前も知らない方を、ひっそり胸に思う気持ちはカラにも言えませんでした。



私の予想に反して、お父様は社交の季節になってもお母様を迎えに行きませんでした。

不思議に思いましたがお父様の言葉が辛いから口を閉じていました。

侯爵夫妻も社交の季節になって領地から帰って来ましたが長期留守にしていたのでする事が山のようらしく、侯爵夫人から簡単なりんごの成果と『落ち着いたらお茶会に招くわね』と書かれた手紙が届いただけでした。

夜会が始まるとお父様はお一人でパーティーに出席するようになりました。

そしてその夜会でお母様の不在を訪ねられると、お母様の里へお母様が勝手に融資した資金の返還を求めていて、その返済が無ければ離縁すると周囲に公言したのです。



それが逆に自分の評価を下げるとは気付いていませんでした。

お父様には聞こえない所で『妻に騙されていた間抜けな男』と噂されていて、侯爵夫妻の耳にもその話は入っていました。

侯爵夫妻は私と噂を天秤に掛けたと思います。

私の知識と、お父様の悪い噂を比べて、侯爵夫妻は私を選びました。

だからと言ってお父様を止める事もしませんでした。

お父様の評判が落ちれば下の兄のように私を里から引き離すのに好都合だと思ったからです。

そんな噂の後に、私が夏から領地で奔走していた話が社交界に流れてしまったのです。

噂を流したのはお隣の領主で、お父様が経営に行き詰まって捨て値で土地を手放すのを待っていたのです。

見張っていたのですからお父様が経営を投げ出したのも知っていて、大袈裟に話を広めたのでした。



それは話題に飢えていた社交界へ一気に広まってしまい、そしてお父様の耳にも入ってしまったのです。

噂は過去も掘り返します。

お母様の事も噂に拍車を掛けました。

聞いた時のお父様の怒りは凄まじく、私が余計な事をしたからだと酷く叱られました。

「お前のせいでわしは『13歳の娘に助けられた恥さらし』と笑われたんだぞっ」

弁解する事も許されず、私は部屋に閉じ込められました。

どうすれば良かったのか…私には分かりません。

あんなに必死に頑張った事が逆に私を追い詰めました。



年が明けて直ぐ、お父様は私を学園の寮へ入れました。

「お前の顔など2度と見たくもない」

お父様の冷たい言葉に何も言えず、私は翌日から寮で暮らす事になりました。

最初、お父様は私の費用を払わないと言ったそうです。

ですが学園長が『教育は親の義務』と払わないなら『国王に報せる』と言ったので渋々払うと約束したと後から聞かされました。

「あなたの未来のために今は勉学に励みなさい。努力は必ず自分に幸福となって戻ってきますからね」

「…はい」

泣くのを堪えて学園長室を出て、早足で寮の個室に戻ったら涙が止まりませんでした。



泣き疲れて気が付いたのです。

これで…高等部に上がらず中等部で学園を卒業すれば、私は家から解放される…と。

自分が婚約している事も忘れて、私は本気でそう思っていました。

あのミラン様と妹の事以来ミラン様にはお会いしていなかったので、その時の私の中から婚約の言葉は完全に抜けていました。

婚約より私にはカラの方が大切でした。

私は急いで寮に入った事をカラと侯爵夫人に手紙で知らせました。

家へ招待を送ってカラに不愉快な思いをさせたく無かったのです。

カラは返信で慰めてくれました。

多分…カラの手紙で気持ちの糸が緩んだんだと思います。

目が覚めた時は翌朝になっていました。



寮は静かで、女子寮に残っているのは私みたいに戻る家が無い者ばかりです。

寮は男子寮と女子寮があって間はかなり離れています。

新年を祝う曲が寮に居ても聞こえてきて、こんな年越しを後2回も繰り返すのだと思うと消えてしまいたいほど切なくてお父様を恨んでしまいました。

家に居ても部屋で1人ですがここのような孤独感は感じませんでした。

寮を預かっている先生が残っている生徒を食堂に集めました。

「新年のお祝いですよ」

先生は食堂の長いテーブルに人数分のケーキを並べました。



先生はキーマン・クラシック先生、歴史の教師と寮官を兼任しています。

ご主人を病気で亡くされて寮の寮官になられたそうです。

中等部の2年を教えているので来年はプラス教え子になると思います。

「ルナフさん、寮には慣れましたか?」

「…はい」

引き吊った笑いで答えます。

文句を言って自分から環境を悪くしたくはありません。

「そうですか、無理はしないでね」

心を見抜かれているような言葉にギクリとしてしまいました。





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