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初恋(仮のタイトル)  作者: まほろば
未来に向けて
44/46

別れ



体に力が入って吊りそうでした。

かの方は明日の城には来ないはずです。

そう思っても二の腕を掴まれたあの時の痛みは色褪せる事は無いと思います。

無意識に二の腕を擦ろうとした手の手首が赤くなっていました。

「あ…」

さっきストレートが掴んだ場所です。

………。

嫌でもかの方とストレートが重なって…それが怒ったお父様と重なりました。

…怖い…。

この先…もし同じ事があったら…考えるだけで身震いが出ました。

ストレートなのに…怖さは消えてくれなくて…。

赤くなった手首をもう片方の手で隠して…目を瞑るしか出来ませんでした。



「ルナフ?」

肩に手を置こうとしたストレートから思わず体が逃げていました。

怖さが先になってしまったら此処に居るのも苦痛に感じてしまって…。

無意識にじりじりと後退しているのでした。

「ルナフ?」

ストレートが不思議そうに聞いてきます。

嫌々と首を振って部屋の出口へ視線を向けました。

「手首をどうしたの?」

友人の問いにストレートがハッとします。

「ルナフごめんつい」

近付いてくるストレートから必死に逃げました。

今は…ストレートと一緒にいたくありませんでした。

「ストレートがしたの?そんな痕が付くほどこの子に何をしたの?」



「僕の気持ちを知って貰いたかった。はめた指輪を外そうとするから外されたくなくてつい掴んでしまったんだ」

ストレートは動揺した顔で話しました。

「彼女が怯えるほど強引に?」

ストレートが後悔する顔をして近付いてきた時、私は叫びそうになっていました。

嫌だと首を振りながら後ずさって…何処かへ逃げたくて…。

「メイド長を呼んできて、速くっ」

友人が立ち尽くしてるメイドを走らせました。

「ストレート、一生嫌われたくなかったら今日はもう近付くな」

「しかしもう明日に迫っているんだぞ」

怒って怒鳴るストレートに友人が諭すように言いました。

「ストレートが怒鳴れば彼女はなお怯えるよ、分からないの?」



ストレートが顔を歪めて1歩引きました。

「朝までにどうするか連絡するから、彼女は怯えている、ストレートから離して落ち着かせてあげて」

駆け付けてきたメイド長に私を預けて、ストレートの友人は帰っていきました。

私を客室へ通した後メイド長はストレートから話を聞いてきたのでしょう。

私に事情を聞いてきたり諭したりはしないで休ませてくれました。

侯爵夫妻が居た頃とはメイドもほとんど変わっていて顔見知りは1人もいない気がします。

「夕食はお部屋にお運び致します」

メイド長はにこやかに笑って部屋を出ていきました。

1人になってやっと冷静に考えられる気がしました。

明日までに自分の気持ちを決めようと必死に考えました。



この気持ちのままストレートと結婚する勇気は私の中にありませんでした。

それなら…。

初めの予定のまま学園の教師を望みたい。

それがダメなら平民の中に紛れて静かに暮らしたいです。

トレートと暮らす事に怯えてる今は明日のお城が怖かったです。

もし陛下からストレートと結婚するように言われたら…受けるしかありません。

考えるだけで胃がぎゅって鷲掴みされて吐き気すら覚えました。

明日への不安が膨れて此処に居るのも辛かったです。

「助けて…」

心が救いを求めたのはクラシック先生でした。

夕食を運んできたメイド長に先生への手紙を託しました。



クラシック先生から迎えの馬車が来た時どれほどホッとした事でしょう。

馬車の中でひっそり指輪を外しました。

先生の顔を見た途端涙が止まりませんでした。

「ルナフ、まずお茶にしましょう」

先生に背中を擦られて泣きながらストレートとの事を話しました。

思い出すだけで震えが襲います。

「ストレートとかの方が重なって…そうしたらお父様を思い出してしまって…」

クラシック先生は痕が残っている手首を両手で優しく包んでくれました。

「子供の頃に植え付けられた恐怖は大人になっても簡単には消えないでしょうね」

「…はい」

先生は大きな深呼吸をして聞いてきました。

「ルナフはどうしたいの?このままそのストレートと結婚して幸せになれるのかしら?」



私が不安に思っていた事を先生が訪ねてきて…。

「怖いのが先で…初めの希望の通り学院に就職出来たら…」

馬車の中でも願っていた事を口にしました。

「そうね。ルナフには話さない話だったのだけど、明日爵位と領地を賜ったらルナフは公爵邸かフレーバー侯爵邸で1年後の結婚式まで暮らす予定になっていたの」

「…え」

思いもかけない話に言葉が出ませんでした。

「思えば私たちも軽率だったわ。あんな事があったからとあなたの気持ちを確かめないで彼の話を鵜呑みにしてしまったのね」

クラシック先生は肩を竦めて私を見てきます。

「隣国のドタバタを笑っていた私たちが似たような過ちを踏んだんですものね」



「あの…私はやはり城に呼び出されるのでしょうか…」

「残念だけど陛下の予定として発表しているので中止にはならないでしょうね。でもその友人は知っているのでしょう?適切な対策を取るはずよ」

諦めながらも一縷の希望にすがって聞いた結果に踞りました。

「私もあなたからの手紙を急いで従姉妹に届けさせたの。この時間なら明日の予定を変更出来もの。だから心配しないで陛下に自分の気持ちを正直に話しなさい」

先生の言葉に涙が出ました。

「あなたは今まで頑張って来たのですもの、神様からご褒美を貰って良い頃だわ」

先生は泣いている私の背中を擦って慰めてくれたのでした。



「今夜は此処にお泊まりなさいね」

一睡も出来ずに向かえた朝は肌寒い雨でした。

夜遅くクラシック先生を訪ねて誰か来ていましたが私は呼ばれなかったので話を聞く事は出来ませんでした。

朝になっても先生からは一言も無いので私からは聞けませんでした。

ただ「大丈夫だから」と何度も言われて送り出されました。

紫色に変色している手首を陛下の前に出すのも躊躇われハンカチか何かを巻こうとしましたが、先生は『隠さず』行くようにとハンカチは巻かせてくれませんでした。

お城からの向かえの馬車に乗る時はキリキリと胃が痛かったです。

緊張して案内された控え室には公爵夫妻が待っていました。



きっとモンターニュブルー侯爵から昨夜の事を聞いているはずです。

ストレートからの『祝福』がなければ結婚しない、カラから聞いたその言葉がズンと肩にのし掛かりました。

私を迎える公爵夫妻の表情は固くて、申し訳無くて部屋の入口から中へ入れなくて、ひたすら頭を下げ続けました。

「辛い思いをさせたわね。昨夜の事はモンタニューブルー侯爵から聞いたわ。もう大丈夫…」

公爵夫人が息を飲みます。

視線は痣の出来た私の手首に釘付けでした。

その表情から聞いていた話より酷かったのだと思いました。

「お願いがあるのですが…」

公爵夫妻にストレートからの指輪を見せて今は返して欲しいとお願いしました。



「やはりか…」

公爵が残念そうにため息を付くので私は顔を上げる事も出来なくて…気まずい空気の中『受け入れて全て丸く収まるなら…』と愚かな事を考え掛けていました。

流されそうな気持ちを引き戻してくれたのは呼びに来たメイドの私を見る目でした。

きっと私の顔は『死人』のように見えたのでは無いでしょうか、

通された『謁見の間』にはストレートが先に待っていました。

ストレートの婚姻を承知して欲しい、との願いがこもる視線が強くて苦しくて…私はこの場から逃げたくて顔を背けました。

扉の前に立っている騎士が重い扉を開きました。

おもむろに入ってきた陛下に淑女の礼をします。

陛下は穏やかに頷いて席に着くと私の名前を呼びました。



「ルナフ・フランソワーズ。1代限りの伯爵の爵位と領地を授けよう」

深く頭を下げた姿勢で陛下の声を聞きました。

絶望に顔を上げられせん。

「モンタニューブルー侯爵から婚姻の希望が出ておるが、フランソワーズ伯爵の意思は固まっておるか。新たな道を希望ならばそれに答えようぞ」

思っても居ない言葉でした。

陛下は私の手紙を読んだ公爵から前夜の話を聞き、ストレートの話には私の意志が織り込まれて居ないと判断されていたのでした。

陛下に直に話す許しを得て、私は学園の教師を希望しました。

「叶うなら母校で後輩を教えたく思います」

ストレートは絶望的な顔をして何かを言い返そうとしましたが陛下が私の手首の痕を見ているのを知って口を閉じたのでした。



「学園の希望は今すぐは叶えられぬ。春を待つがよい。其までの間は領地を納めるが良い。春にまだ学園の教師が希望ならばそれを叶えよう」

目を閉じて感謝を込めた淑女の礼をしました。

与えられる領地は大臣の領地の片隅です。

これから春までに起こるはずの大臣とのトラブルを考えたら深いため息が出ました。

「モンタニューブルー侯爵との婚姻は1度白紙に戻し気持ちが落ち着いて後改めるが良かろう」

陛下の言葉にストレートががっくりと肩を落としました。

陛下の退室を待ってから、私は公爵に連れられてストレートより先に『謁見の間』を後にしたのでした。

終わってみれば、私の希望がほとんど通った結果になりました。



「役人が爵位と領地の説明に来る。それまで控えの間で待つように」

公爵夫妻の後ろから控えの間に戻りました。

気になっていたカラの事を小さい声で公爵夫人に尋ねました。

本当は公爵に尋ねるべきでしょうが…昨日からのやり取りで話し掛け難かったのです。

「あの…カラは…」

「カラは今朝正式にモンタニューブルー侯爵家へ嫁ぐ事が決まったわ」

公爵夫人はホッとした表情になって『祝福の儀式』を早朝に行った事を教えてくれました。

お城の奥の神殿で陛下と司祭の前で婚姻の誓いを立て『誓約の誓い』に2人でサインするのだそうです。

そして、双方から両親と親族が立会人として参加するそうです。



そう聞いて心からホッとしました。

「今は城の奥の神殿で『婚姻の署名』を2人で書いているわ」

受理された1か月後に結婚式を挙げるのが通例だそうです。

今回は予定が詰まっているので初めの予定のように半月後にあげるのだそうです。

式までの順番を知らないので小さく頷きました。

私は知りませんでしたが、昨夜モンターニュブルー侯爵は日延を希望しましたが日付も招待する方々も決まっていたので公爵が結婚を推し進めたのでした。

公爵に強く逆らう事は出来ず、モンターニュブルー侯爵は渋々その話を受けたのでした。

カラは婚約者の内の葛藤に気付かず喜んでいました。

そんなカラを見る婚約者の表情が冷たく変わるのを見ていませんでした。



それを知らない私は緊張していました。

神殿の儀式が終わったら…。

カラはここに来るのでしょうか…。

昨日を思ったら会うのが気まずく感じます。

気まずく感じていたのはカラも同じでした。

それだけでなく…カラは力になってくれなかった私に苛立っていました。

私がストレートの申し出をすんなり飲んでいればこんな揉め事にはならなかったと今も思っていたのでした。

その空気は精神的に疲れた顔の公爵夫妻にもありました。

居心地の悪い空間にそう待たされず役人が来てテーブルに書類を広げたのでした。

陛下から賜った領地の説明を役人からされた時は信じられませんでした。

驚いた事に賜った領地は昔のフランソワーズ領の半分でした。



もう半分はお父様が都を去った時に別の伯爵の領地になったそうです。

書類にはどう半分にしたのか書いてありませんでしたが、可能なら祖父の日記を手元に取り戻したいと思いました。

後から分かったのですが、その半分に領地替えになったのは大臣の親族でした。

先に領地の半分を選んだ伯爵は屋敷側ではなく綿花の畑を選んだので祖父の日記を取り戻す幸運に恵まれました。

でも、綿花を取れば何も無い場所です。



領地の区分けを役人に聞くと担当している役人が明日から領地に向かうと教えられました。

領地の境界線で揉めているようだと役人に言われて嫌な予感がします。

祖父の日記は気になりましたが本当は帰郷を急ぐつもりはありませんでした。

口にはしませんが、春まで公爵邸に止まれる雰囲気ではないので先に春まで暮らす部屋を探してから帰郷しようと思っていたのです。

ですが、聞いてしまえば早く早くと気持ちが騒ぎました。

「役人の馬車に荷物を乗せて貰って帰ったらどうだい」

早く私との関わりを切りたい公爵はこの機会を逃しませんでした。

「はい…」

私も頷いて公爵夫妻にお礼を言いました。





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