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初恋(仮のタイトル)  作者: まほろば
未来に向けて
41/46

卒業と行き違い



領地の不作が大臣に『絹』を閃かせたとカラは言います。

「陛下の『大臣を信じたい』の言葉をお父様も信じたの」

カラに頷いて見せます。

でも本当は公爵もカラも今日のこの結果を知っていたのでは、と思いました。

「ストレートが隣国から戻ってくるまで家へ滞在してね。戻ったら陛下から話もあるし」

「隣国からって?」

カラが言葉を短縮するから全然意味が掴めません。

「ストレートはルナを迎えに行ったのよ。今日みたいに港で待ち伏せされたらこの前みたいに連れ去られるからって」

「…そう…なのか」

ストレートのカラへの『愛情』を見せ付けられて苦しくなりました。

カラが心配するから…ストレートは…。

それだけじゃなくて…カラの私への『愛情』も…。



出迎えてくれた公爵は私を見て港の結果が分かったみたいで肩を竦めます。

「嫌な思いをさせてしまったね」

「いえ…」

カラが先に屋敷へ入っていくのを見ながら何れから口にするべきか迷いました。

「何を言いたいか分かるが、ルナフが困る結果にはしない。仮の地位も1ヶ月もすれば消える。ルナフはルナフで結婚の準備をするが良い」

まるで私が誰かと結婚するかのような公爵の言葉につい強く見返してしまいました。

刺さる言葉の棘に顔が歪みます。

「…その顔だと何も聞かされてないか」

公爵の視線は港へと向きました。

「ストレートからの手紙に書いてなかったのかい。一言も?」

公爵が何を言いたいのか分かりません。

下を向いていると公爵は更に聞いてきます。



「カラメルからの手紙は届くんだね」

頷いて顔を背けました。

「ストレートからの手紙は?」

切なくて言葉に出来ませんでした。

「先週出たばかりだから戻るまで3週間は掛かるか…陛下との謁見をそれまでずらそう。今はストレートに確認すのが先だ」

公爵の言っている意味が分からなくて知らず体は後ろに逃げていました。

やはり、戻ってきてはいけなかったのです。

私の怯えたようすに公爵は表情を和らげました。

「心配しなくても爵位と領地の話はまだ公表されていない。大臣が先走って言って回ったが私が否定してある」

公爵は私を安心させるように笑った顔を見せました。

「今は誰が何を言っても信用出来ないだろう。ゆっくり心と体を休めると良い」



玄関から動かない私たちを迎えに戻って来たカラに一言二言何かを言うと公爵は私を奥へ促しました。

「明日から毎日お茶会だから覚悟してね」

「え…」

陽気なカラの声に思わず足が止まってしまいます。

「ルナの帰国を知らせてあるからみんなが訪ねてくるの。3年分話そうと待ち構えてるから覚悟して」

悪戯っ子みたいなカラの笑顔に涙が止まらなくなりました。

「カラ…これからも友達で居てくれる?」

今まで怖くて自分からは聞けない事を何かに背中を押される形で聞いてしまいました。

「勿論よ」



「クラシック先生への手紙を頼みたいの」

「良いけど決定は陛下との謁見の後って聞いてるわ」

カラが不思議そうに言いました。

学園の教師を決めるのも陛下なのかもしれません。

クラシック先生からの返事は直ぐに着て帰国したお祝いの言葉と、やはり『謁見』を待つようにとありました。

「早速謁見のドレスを作らなくちゃね」

カラは嬉しそうに服屋を呼びました。

ですが、現れたのは見慣れた服屋の人ではなく貴族のような雰囲気の青年でした。

同年代に見える青年は洗練された仕草で私のドレスを見立ててくれました。

気のせいでしょうか。

青年が来てからカラの表情が明るくなった気がします。

青年の雰囲気も優しく変わったと思うのは私だけ?



それからの3週間はまるで夢の中のような時間でした。

懐かしい顔に囲まれて、3年の時間が巻き戻され中等部に戻れた気がしました。

会わなかった3年分の話が尽きると今度は昔の話になって、嫌だった記憶も今は過去に姿を変えていたのでした。

少しずつ話題は未来に移って、誰が誰と婚約したとか、誰と誰の結婚式が何月にあるとか、まるで結婚ラッシュの勢いで情報が飛び交います。

苦い気持ちを胸の奥に押し込めてみんなにお祝いを言いました。

幸せに溢れている顔は美しくてここから逃げ出してしまいたいくらい輝いていました。

その中にカラの話もありました。

「カラが公爵を蹴って侯爵を選んだ時はビックリだったわ」

覚悟していても、やはり話題になれば顔が引き吊りそうでした。



上手く笑顔を貼り付けられているのか不安になります。

「病弱で一時後継者から外されてたんでしょ?」

「今も丈夫とは言えないって聞くわ?」

「そんな方で本当に良いの?」

友人たちがカラを心配して普通なら聞かない事も口にしていました。

確かにストレートは病気をして後継者候補から外されましたが今は治ったはずです。

「公爵家の長男と侯爵の後継者は本命を隠す隠れ蓑だったのね」

カラは申し訳なさそうに私を見て『ごめんね』と言いました。

「どうしても彼と結婚したかったの。でもお父様は許してくれなくて彼も諦めてたし…」

カラは悲しそうに空中を見て言いました。

「公爵の息子とは絶対結婚したくなかったの。平気で私とキャンディーの容姿を比べるのよ」



思わず飛び出した妹の名前に驚きです。

「本当に失礼だったわよね。カラメルだけじゃないわそれ私も言われもの」

「彼も懲りたんじゃない。口が災いして最後は公爵家の後取りから伯爵の婿に落ちたんですものね」

「本当なの?知らなかったわ」

ポンポンと言葉が飛び交って公爵子息が誰なのか私でも分かりました。

「あ、分かった。その時侯爵の後継者をカモフラージュに使ったのね」

「そうなの。公爵の息子を断る口実が欲しかったから。その時の安易な選択を今は凄く後悔しているわ」

カラは私を見て泣きそうになっていました。

「彼には感謝してもしきれないわ」

カラは会えない時の橋渡しも彼がしてくれたと言って胸の前で手を組んだのでした。



むすっとした顔で隣国から戻ってきたストレートを笑いながらカラがからかいます。

「顔が引き吊ってるわよ」

「ふーん」

ストレートはカラから少し離れていた私を怒った顔で見て何処かへ行ってしまいました。

夕食の席にもストレートの姿はありません。

ストレートが居なくてもカラの様子は変わらないので私は気に止めませんでした。

ですが、その夜のカラは様子が変でした。

何処かから来た手紙を見た後急におろおろし始めてストレートを探し始めます。

「…どうしよう、ストレートに戻るよう伝えて」

カラからすがるような目で見られても私にストレートへ連絡する方法はありません。

仕方無くそう話すとカラから驚かれてしまいました。

「…嘘」



「ストレートはこまめに手紙を書いていたわ」

…そう言われても私には届いてないのです。

「だから私の手紙に『同封』して貰えないかって頼んできたのね」

カラは泣きそうな顔を私に向けてきますが私には何も出来ませんでした。

後から分かった話ですが、ストレートの名前は隣国では『要注意人物』でした。

最初の目を引く内容の手紙から差出人のストレートの名前は砦でマークされていたのだそうです。

ストレートが何通書いても私には届かず、全部砦で捨てられていたのでした。

「どうすれば良いの…」

カラは届いた手紙を胸に抱いて泣きそうになっていました。

思い付く限りに手紙を書いたらしく、カラは届いた数通の返事に落胆していました。



そんなカラに私は何も出来ません。

恋人同士のちょっとした喧嘩に口を挟む愚かな行いはしたくありません。

手紙を貰った人たちもそう思ったはずです。

それがカラとストレートだけに…。

「幸せで浮かれていた私が悪かったの、ストレートの気持ちを考えてなかったから…」

カラは泣きそうな顔を両手で隠して自分の部屋へ下がってしまいました。

遅くに戻ってきた公爵は執事から今日のあれこれを聞いた後2階のカラの部屋の方を困った顔で見上げました。

その手には数通の手紙があって、カラに来たのと同じ色の封筒も混ざっていた気がします。

「ルナフは心配しないでお休み」

公爵は何もなかったように私を与えられた部屋へと促しました。

「カラメルには良い薬だよ」



翌朝、城から明後日の朝に来るよう知らせが届いたのでした。

大臣の思惑を聞かされた事も大きいですが陛下はきっと私に爵位と領地を与えようとは思わないはずです。

それでも呼ぶとすれば、それは学園の教師の話だけに思えました。

夢が叶うかもしれない…。

「ルナの夢ってなぁに?」

翌日憔悴して居間で横たわるカラに聞かれて、目を伏せて答えました。

「…学園の先生か、お城で働く事…」

気持ちを強く持っているつもりでも声の震えは誤魔化せそうにありません。

そっとカラを見れば何かを考えている顔で空中を見上げているのでした。

「結婚じゃないの?」



カラの問いに笑ってる私がいます。

「どんなに身の潔白を訴えても捕らえられた女性を妻にしよう何て思う方は居ないわ」

これから何度似た言葉を口にするでしょう。

カラでさえこんなに辛いのに…口にする度ずきずきと気持ちが歪む気がします。

「…そんな事無いストレートは、手紙に書いてるでしょ」

「心配しないで、ストレートからの手紙はカラの手紙に一緒に同封されていた物しか受け取ってないから」

カラは驚きに目を見開いて起き上がりました。

何かを言いたいらしく口を開きますがそれは言葉になりません。

私は拳を握り締めてカラに言いました。

「結婚式も近いんだもの、そろそろストレートと仲直りしたら?」



カラは信じられないと書かれた顔を私に向けてきます。

そして…顔をいびつに歪めて言いました。

「…私の結婚相手はストレートじゃないわ」

カラは泣きながら私の手を握ってきました。

「え?」

カラの動揺した様子にどう答えれば良いのか分かりません。

相手がストレートじゃないと言われても他の方とは到底思えません。

きっと私は困った顔をしていたのでしょう。

カラは絶望した顔をソファーに埋めました。

「おしまいだわ…」

「カラ…?」

何回呼んでもカラは泣いているばかりでどうにも出来ませんでした。



泣きすぎて目を腫らしたカラが話せるようになったのは夕方でした。

「ストレートは彼と友達だったの。療養していた所が同じだったんですって」

カラの彼と体調をくずしたストレートは同じ保養地のホテルに居たのだそうです。

「彼は小さい時からずっと体が弱くて、10歳になったくらいからもう家では暮らせなくなって…後継者からも外されて…」

カラはしゃくりあげながら続けました。

「私は昔からずっと彼が好きで…でもお父様は許してくれなくて…ストレートが私と彼の手紙の橋渡しをしてくれていたの」



体調が回復してもカラの彼との友人関係を続けていたストレートは、あの初めて会ったパーティーにカラの気持ちを確かめに来ていたのでした。

「ストレートが治った治療が彼にも効いて、完治とは言えないし今でも疲れやすいけど普通に暮らせるくらいになれて」

カラはかの方が後継者から外された時に1度彼を後継者に戻そうとしたのだそうです。

「…まさかカラの彼って…」

「うん…モンターニュブルー侯爵家の正当な後継者…」

驚きで言葉になりませんでした。

「カルチェラタン公爵家が後見人になるって話があった時話してくれなかったじゃない…」



「あの時は公爵家からの婚約の話をストレートとの婚姻の話を盾に断ったばかりだったから…それに財政も立て直せてなくて…どうしても言えなかったの」

カラは苦しそうに下を向いて言いました。

…ストレートの思い人は他に居るのかと思ったら可笑しくなって体の力が抜けました。

「…分かったわ。大切な方とお幸せに」

「せれでは終わらないの」

カラはもっと俯きました。

「終わらないの?カラと彼はこの秋の結婚が決まったんでしょ?」

「彼がストレートと約束していて…」

カラは言葉を濁して顔を背けました。



「約束?」

「ストレートの恋も『応援』するって。ストレートの恋が叶うまで式は挙げないって…」

「…秋に式をするって決まってるわよね?それってストレートの恋も叶っていたからじゃないの?」

聞きたくない話でしたがカラが結婚出来ない方が嫌でした。

「彼から…『一旦取り止めたい』ってお父様に申し入れがあって…、お父様は承知したの」

カラは肩を震わせて泣き崩れました。

「…何で…」

「彼からも…お父様からも『ストレートにどれだけ尽力して貰ったのか自覚が無いのか』って叱られて…」




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