表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋(仮のタイトル)  作者: まほろば
異国にて
18/46

トラブル



助けてくれた本の女性は高等部の3年でリゼの侯爵領の隣に領地があるそうです。

小さい時からリゼとは仲良しでつい口を挟んでしまったと笑っていました。

それからは図書館で会うと少しお喋りします。

そんな彼女から紹介された弟さんは明るくて彼女とそっくりでした。

「弟は2年なの。私が卒業して困ったら相談しなさいね」

「ありがとうございます」

嬉しい話でも本当に相談できるはずはありません。

図書館で会ってもお互い目礼するだけでした。

そんな中、学校の創立祭の話が聞こえてきました。



リゼの話では創立祭は毎年10月で立食のパーティーだそうです。

「授業の後だからみんなそのまま会場に行くのよ」

「このままで良いの?」

ホッとしながらリザに確かめました。

「そうよ」

「良かった」

「ルナはパーティーって聞くと緊張するんでしょ」

「苦手」

リゼには本当の気持ちが言えました。

「大丈夫よ。着飾るのは先生方とこの町の町長たちだから」

リゼは悪戯っ子のように舌を出して笑いました。

「創立祭が終わると社交の季節だもの。パーティーはこれからよ」



社交の季節になるとほとんどの貴族が王都へ移動するそうです。

リゼの両親の侯爵夫妻もそうで、学校が冬休みになってからリゼも王都へ行くとか。

「3学期が始まるまではパーティーばかりだわ」

リゼはげんなりした顔を私に向けました。

「頑張って」

「ルナも行くんでしょ?」

「私は…、この国の国民じゃないし、パーティー苦手だから寮で待ってるわ。楽しんで来てね」

リゼは驚いた顔をして『一緒に行こう』と言ったけど丁重に断りました。

侯爵夫妻も私的なパーティーではないから私を連れていけない、と言ってくれたそうです。

「ルナが行けないなんて…」

「侯爵令嬢として頑張ってきてね」

「代わりに創立祭は一緒ね」



創立祭は楽しい催しになりました。

この日は父兄も参加できるそうで侯爵夫妻も来ていました。

侯爵夫妻の警護の人が会場を見張っていて、近付いて来ようとしたアッサムは止められていました。

本の彼女も弟と参加で、パーティーが終わったらゆっくり話そうね、とリゼと約束していました。

「僕は友達と約束あるから」

彼女の弟は少し離れて待っている同年輩の少年を見て言います。

「彼って…ブレックファースト伯爵家の?」

彼女が弟を見て言葉を濁しました。

気になって、私もそっと待ってる彼を見ました。

一瞬男性なのに『綺麗』な人だと思いました。

でもそれは一瞬で直ぐに中性的な…知的な雰囲気の人だと思い直しました。

「女なのが恥ずかしくなるわ」

彼女は複雑な顔で弟と彼を見送ってました。



「彼はアールグレイ・ブレックファースト伯爵。春にお父さんが亡くなって爵位を継いだの」

自然に視線が彼を探しましたがもう人に紛れて見付かりませんでした。

「…弟さんと同じ年?」

「ええ」

亡くなった伯爵は浪費家で彼に残ったのは借金と小さな屋敷と特産も無い僅かな領地だけだそうです。

「彼のお母さんは彼が小さい時に病気で亡くなって、後妻に虐められて育ったらしいわ」

「そうですか…」

「伯爵が亡くなった時にその後妻が金目の物を全部持って次の再婚相手に嫁いだそうよ」

「…え」

幸せな子供時代とは言えなかったけど、それでも私には『親』がいたのです。



「入学して直ぐアッサムに桑の育て方を教えていたじゃない。出来るなら彼の力になってあげてね」

「…はい。彼から言ってきたら…ですけど」

「それで十分よ。その時はお願いね」

「…はい」

その時は大変な約束をしてしまった、と焦る気持ちが強くて本気で考えてませんでした。

創立祭が終わると年末の試験が始まって、結果は5位で終わりました。

1位から4位の顔ぶれを見ると5位に入れたのが奇跡でした。

始業式までの20日間は、冬休みが始まる前から長く感じましたが年末年始の5日間を除けば図書館が開いてるそうなのでそれだけが救いです。



冬休みになった寮は思った以上に寮生が残っていました。

土砂崩れで帰りたくても帰れないのだと気付いたのは新学期が始まってからです。

図書館の利用者は5人も居なくて、寂しい年末年始になりました。

年も明けて寮に学生が戻ってくるようになると図書館の利用者も増えました。

その中に彼も居ました。

時々私を見て、諦めたように顔を伏せます。

きっと…本の彼女に言われたけど話した事もない私に話し掛ける勇気が無くて意味不明な動作になっているのでしょう。

私の方から切っ掛けを作るべきなのでしょうか?

彼にも勇気が必要でしょうが私にも必要です。

行動に移す前に、ブレックファースト伯爵領を調べてみました。



彼の領地は海が無くて平地の様でした。

場所的にはリゼの領地より更に奥で『片田舎』と呼ばれる場所でした。

過去の収穫を見ると肥料を撒いてないのが数字で表れています。

肥料を撒いて…初め綿花を考えましたが土地が狭いので予想の収穫量では1年暮らせません。

綿花が駄目なら野菜や収穫まで年月が掛かるリンゴやブドウ、オレンジも駄目です。

なら…それで思い付いたのは桑でした。

蚕を育てるまではいかなくても春に苗木を植えれば秋には収穫できます。

お茶にしたり薬にしたり、桑は利用の幅が広いので少ない面積でも暮らせるだけの収益は期待できると思えました。

彼の領地の土の質にも依りますが、アッサムの湿った領地と違い希望はあります。

そこまで調べて彼に声を掛けました。



「…あの…」

「は、はぃ、あの…あ、あの…」

互いに緊張してて先が進みません。

やっと彼が話始めたのはそれから5分以上経ってからだと思います。

「あの友達に…言われて…」

「はい…」

彼はつっかえながら自分の窮状を話しました。

話ながらも彼の表情を諦めが占めていました。

この顔を明るくしたい、笑わせてあげたい。

助けたいと思った最初はそんな思いからでした。

「あの…これを…」

調べて書いて置いた紙を渡しました。

「え…桑?」

初めはがっかりした顔をしていましたが読んでいるうちに表情が変わっていきました。

「…ホントに?」



「畑を整地して肥料を撒いて、苗木を植えて。最初の投資が苦しいと思うけど…」

「友達の家から少し融資して貰えるんだ…5年の期限付きだけど…」

「担保、は土地?」

「うん…」

当然だと分かってますが…少しだけがっかりしました。

本の彼女の家なら…と甘い考えを持っていたのです。

「蚕か…」

彼は不安そうに言いました。

「桑だけでも生産が軌道に乗れば充分融資を返済できるわ」

「そうだね」

「任せられる使用人は居るの?」

「父の代からのおじいちゃんが…おじさんも…」

おじさんはおじいさんの息子でその息子も一緒に働いているそうでした。



「肥料は撒きすぎると逆に木を枯らしてしまうから、足りないくらいが丁度良いの」

「撒くだけ育つんじゃないの?」

「今まで何も撒かなかったんでしょ?急にたくさんの肥料を撒いても土地が栄養を吸収出来ないわ」

「あ…確かに」

彼は何回も頷いて渡した紙を見ていました。

「あ…」

彼は慌てて私に向き直ると真っ直ぐ立ちました。

私も慌てて姿勢を正します。

「僕はアールグレイ・ブレックファースト。伯爵です」

「…私は、ルナフ・フランソワーズ。隣の国の伯爵…」

「綿のフランソワーズ伯爵家の令嬢だよね。僕の事はグレイと呼んで」

違う、とは言えなくて口を閉じました。



グレイとの会話でクラシック先生からの手紙が来ない事に改めて気付きました。

陛下はどう決められたのでしょうか…。

あれからもうすぐ1年です。

忘れられたかもしれない恐怖に手が冷たくなって、額に汗が吹き出します。

希望に燃えている彼とは対照的に私はずっしり重い荷物を背負った気持ちになりました。

その日の夜、私はクラシック先生へ手紙を書きました。

もしかしたらもう忘れられていて返事が来ないかもしれません。

それでも書かずにはいられませんでした。

来るかも分からない返事を待つのは辛かったです。

先生が手紙をくれなかったのは私に知らせたくない色々があったからでした。



この1年でお父様は完全に社交会で孤立してしまいました。

お父様は私のせいだと思っていますが、本当は学園で気分で周りを振り回す妹とサロンで取り巻きをはべらせるお母様をお父様が押さえられないからでした。

お母様に言いくるめられているお父様に真実は伝わらないのです。

妹の軽はずみな言動で何組も破談になりました。

だからと言って、妹にその方の求婚を受ける気持ちは無いのです。

妹の中で、自分の結婚相手は王子だけだとお母様の刷り込みで決まっていたのでした。

それは兄も同じで、美しさの基準はお母様と妹なので縁があっても『美しさが足りない』と自分から壊してしまうのでした。

「妹と容姿を比べる方へ嫁ぐ気持ちにはなりません」

きっぱり言われても、兄には理解できませんでした。



クラシック先生が手紙の返事に迷っていたタイミングで学園長の通達が張り出されました。

それには風紀の乱れを正す目的で数名を退学処分にするとあったのです。

処分されるのは生徒をサロンに引き入れた数人と限度を超えて入り浸る数人でした。

その中に妹とミラン様の名前もありました。

フレーバー侯爵家の後取りはミラン様からストレート・アフタヌーン様に変わったはずでしたが、病気のストレート様を労る事もせず切り捨てた事で親族の信頼を失い完治しても養子の話は無くなってしまったのでした。

そうなるとミラン様を廃嫡には出来ないので次期当主はミラン様のままでストレート様との話し合いを続けている所でした。

そうとは知らないミラン様はストレート様より自分が次期当主に相応しいと侯爵夫妻も思っていると決め込んだのです。

それでは去年の繰り返しなのですが、後継者が決まらなくては侯爵もミラン様を廃嫡に出来ませんでした。



学園からの『退学処分』の知らせは季節外れのブリザードとなり社交界を揺るがしました。

複数の貴族が『廃嫡』の届けを国に出した事で衝撃の大きさが推し量れると思います。

その波はフランソワーズ家に『慰謝料』の形で押し寄せ荒れ狂いました。

妹が学園で何をしていたのか、お母様が私のせいにしても誤魔化しょうがないほどの破壊力でお父様に『支払い』を求めたのでした。

「嘘だ…悪いのは寮に入れたあいつだ」

混乱するお父様を周囲は容赦しませんでした。

「あなたの淫乱娘のせいで婚約が破談になったのは我が家だけではない。誠意を持って『謝罪』と『慰謝料』を払いたまえ」

学園が動いた事で、時期を待っていた貴族が動きます。

お父様は訴える数の多さに驚き、その金額に驚きました。



やっと財政が持ち直した所の慰謝料は再びフランソワーズ家を財政難に陥れました。

それだけならまだしも、サロンでお母様と逢い引きしていた裕福な伯爵が金は出すのでお母様を愛人に欲しいとお父様に申し出たのです。

それでお母様がサロンで何をしていたのかをお父様は知ってしまったのです。

家計はお父様が管理してお母様のドレスも必要最小限しか買い与えなかったのに、この1年でお母様の部屋はドレスと宝石で溢れていました。

お父様は全てがミラン様のせいだと思いました。

妹のモラルの欠落もお母様の心変わりもみんなミラン様と後ろで操る侯爵夫妻のせいだと憎んだのです。

本当なら不貞を働いたお母様を離縁して里に戻すべきでしょうが、お父様は戻さずお母様と妹を屋敷に閉じ込めました。

里に戻せばお母様は迷わず金を積んだ男の元へ行くと思ったからでした。

それだけはお父様のプライドが許せなかったのだと思います。



ミラン様さえ妹に近付かなければ自分の幸せは壊れなかった、とお父様は怒ってフレーバー侯爵家の内情を噂として流しました。

それは巡り巡って自分に跳ね返ってくる事にお父様は気付かなかったのです。

一方侯爵邸でも嵐は吹き荒れました。

ミラン様の『退学処分』を知って侯爵夫人は倒れてしまいました。

スキャンダルから侯爵家を守るために、侯爵は強引にストレート様を養子にするよう動きましたがそれは失敗に終わり、苦肉の策で時間稼ぎに弟の子爵の息子を養子にしてミラン様を後継者から外し対面を繕いました。

ですがその影でこっそりとストレート様との交渉は続けたのです。

その言動は更に親族を怒らせました。

時間稼ぎにされた子はこのままでは子爵家に戻る事も出来ず飼い殺しを余儀無くされます。

それを見てフレーバー侯爵家を見離した親族が1人、また1人と離れていきました。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ