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初恋(仮のタイトル)  作者: まほろば
中等部卒業まで
13/46

夏休み



支度に忙しいカラを訪ねたら逆に支度を急かされました。

「まだ支度してないの?速くしないと始まっちゃうよ」

カラはパーティーが当然の口調で話してきます。

公爵令嬢のカラと自分の常識の違いに気付かされて、すうーっと冷静になれました。

分かってお友だちになった初めを私はいつの間にか忘れていたのです。

「急いで急いで」

「うん」

公爵邸のメイドさんがテキパキと支度を手伝ってくれました。

今日は夏でも着られる白にしました。

「お髪はどうなさいますか?髪飾りの数が少ないので軽くアップになさっては?」

悪意で嫌味を言われているのも気付かずに私はされるがままでした。



パーティーは大きな広間で行われました。

私のパートナーは先ほど言われていた従兄弟の方でして。

「君の髪型個性的だね」

苦笑しながら言われても、何がどう個性的なのか分かりませんでした。

後から少し年上の青年と入場してきたカラが私を見て近くのメイドに耳打ちしました。

耳打ちされたメイドが側に来て『お色直しを』と入ってきたのとは違う扉を指しました。

言われるまま広間を出ると急いで化粧室に連れて行かれ髪を直されました。

「おかしかったんですか?」

従兄弟の方に笑われた話をすると、メイドはさらりと流してにっこり笑いました。



「結いが甘かったのか崩れてましたのでお直しさせていただきました」

メイドは慣れた手付きで結い直すと生けられていた花から白い小花だけを摘んで私の髪に飾りました。

「広間までご案内いたします」

化粧室の出口に公爵家の執事がいて私の姿を確認すると髪を結ってくれたメイドに頷きました。

広間まで来た道を戻りながら何かあったのだと思っていました。

私は気付きませんでしたが、最初髪を結ってくれたくれたメイドはお父様が紹介状も書かず解雇したメイドでした。

都を離れて何ヵ所も転職して、やっと公爵家に雇われた所に私がカラの友人として来てしまったのでした。

可能ならお父様に仕返しをしたかったのでしょう。

その日に解雇されたのを私には知らされませんでした。



次の日からはお茶会と近くの名所見学が日課になりました。

カラと一緒ならどこも楽しかったですが、カラと話したそうな方を見掛けるとそっとカラから離れました。

3度に1度はお茶会を遠慮してカラと話しやすい雰囲気を壊さないよう気を付けたり、私なりに気配りをしたつもりです。

「ルナ。私に気を使ってる?」

「何で?」

「だって、2回に1回はお茶会に来ないし」

拗ねているようなカラに本を『読みたい』からと話しました。

「本当に?」

「本当よ。このお屋敷の図書室は素晴らしいわ。図書館に無くて、読みたくて仕方なかった本が何冊もあるの。出来るなら一日中籠っていたいくらい」

そこまで言ったらカラも納得したのか肩をすくめてお茶会に戻って行きました。



カラの後は公爵夫妻でした。

「この屋敷はどうかしら、居心地が良いと嬉しいんだけど」

「はい、皆さん親切にしてくれて、とても過ごしやすいです」

「そう、それは良かったわ。ルナフは本が好きね」

本が好きな理由は公爵夫妻に話さず頷きました。

もう幼い頃の呪縛から解き放たれたい、と思う気持ちが言わせなかったのかもしれません。

「はい。この図書室は素晴らしいですね。図書館に無くて諦めていた本が何冊もあって、帰るまでに読み終えられるか心配です」

「ならこの屋敷の近くに住めば何時でも読めますよ」

「高等部には行くのかい」

公爵夫妻は然り気無く聞いてきました。



「中等部を卒業したら隣国の高等部に留学が決まっています」

「それはどなたがあなたに勧めたの?」

「学園長様です」

何故かクラシック先生の名前を出すのは躊躇われて、学園長の名前を出して誤魔化してしまいました。

「そうなの、カラメルが淋しがるわ」

公爵夫人は残念そうに言いました。

「私も残念です。でも3年で戻ってきます」

「本当に戻ってくるのね?」

「はい。お城で雇っていただけるよう勉強してきます」

お城が駄目なら家庭教師かピアノの先生になろうと決めていました。

「結婚する道もあってよ。あなたも15歳、ミランの事は忘れて新しい未来を考えても良いんじゃないかしら」

公爵夫人は横にいる公爵を緩やかに見ました。



「結婚は…両親を見てきましたから。全部が全部父や母のような人ではないと公爵夫妻や周りのご夫婦で分かっています。それでも…私には考えられません」

公爵夫人は大きくため息を付いて頷きました。

「そう…辛い思いをしてきたのですものね。そうよね今は考えられないわよね」

公爵夫妻はそこで話題を変えました。

「明後日から海辺の保養地へ行くから楽しみにしていなさい」

「…海、ですか」

「見たことは無いだろう?」

「無いです」

「入り江になっているから泳げますよ」

恥ずかしいですが興奮している自分を押さえられませんでした。

「海に慣れ親しんだカラメルでさえ泳げないんだ。今回は足を濡らすくらいからにしなさい」



途中農地も通ると公爵夫妻は言ってお茶会に戻っていきました。

公爵領の特産を調べてみると真珠と小麦とありました。

真珠の養殖に成功して収入の9割は真珠で、赤潮や黒潮に大きく左右されるので小麦の栽培を始めたと、本に有りました。

海の近くで麦が育つのかと不思議でした。

綿花は塩を嫌います。

昔の祖父の代の話しですが塩を積んだ荷車が横倒しになって荷の塩を道にばらまいてしまいました。

その場は塩だからと放置したのですが雨の後から道に近い綿花が枯れだして、調べてみて初めて塩に弱いと分かった、と祖父の残した覚え書きにあります。

麦は塩に強いのでしょうか?

気になりながら出掛ける日になりました。



海までは馬車8台の大移動です。

私は公爵夫妻とカラと同じ馬車に乗りました。

なるべく親子の会話に口を挟まず聞く事に専念しました。

海へ行く途中に通った小麦畑はやはり海に近い方は塩枯れしていました。

海側から水を引いているのでそうなると公爵は言います。

陸側からだと坂があって運べないそうです。

「水源よりこちらの方がわずかだが土地が高い」

「水車なら水を上げらるかも」

「水車は水の力で小麦を粉にするための物だ」

私は逆な水車の話をしました。

「こうして水車の所だけ高くして汲んだ水が逆流しないようにして、水が足りない時だけ家畜を使って動かせば良いと思います」



公爵夫妻は驚いて早速『検討してみる』と言っていました。

「その先でその水源を使ってる人が居たらこの案は使えませんが」

「私の領地だ否は言わせん」

「それは違います。無理強いは領民の不満を呼びます。そうなれば一昨年の北の伯爵領のように領民が土地を捨てます。働き手が居なくなれば土地があっても活用できません」

「確かに」

公爵は不満を覗かせながらも頷いていました。

「領主と領民は互いに共存共栄を目指すのが安定した生活と収入に繋がります」

言い過ぎた気がして動揺しながら口を閉じました。

国を小さくしただけで、公爵にとっては領地を治める意識なのです。

民は従う者、の意識は消せないと思いました。



「耳が痛い」

公爵が苦笑します。

「十分下調べをしてからにするよ」

公爵が怒ってないと分かってホッとしました。

「これを見ただけでそこまで考えるとはな」

私は祖父の覚え書きの話をしました。

「お祖父様は気になった事は調べて書き残してくれていたので、私の発案では無いです」

祖父の手柄を横取りした気持ちになって必死に弁明しました。

「日頃の勉強の賜物だな」

隣でむくれているカラに公爵夫人が話し掛けます。

「良いお友だちが出来て良かったわね」

「お母様もそう思ってくださる?」

公爵夫人は上手にカラのご機嫌を治してしまいました。



到着した海は何処までも青くて、心が洗われるようでした。

本も持ってきてましたが読むより海を眺めて終わる1日を飽きずに繰り返していました。

カラには呆れられたけど何時間でも見ていられました。

私が海ばかり見てるのを気にしてるのか、公爵夫妻は人を替えて毎日話し相手を同伴させてくれます。

有難い申し出ですが話題は直ぐに尽きてしまい気まずい沈黙しか残りません。

10日の予定の海ですが、7日目で海を見に行くのを止めました。

見に行けば知らない人と気詰まりな1日を過ごさなければなりません。

話題に本を上げでも読んでる方が居なくて、なお気まずくなったりして…。

相手に気兼ねして夕方まで、段々それが苦痛になってきてしまったのです。



「ルナ元気ないね」

「元気だよ」

「私には分かるの、何が嫌?」

私は仕方無くカラに話しました。

「話題も合わないし、互いに気詰まりなの」

「きっと両親は私の近くにルナを置きたいのよ」

「私を?今でも一緒でしょ」

「違うよ卒業したら。家の親族の誰かと結婚してくれたら離れなくても良いって思ってるんだと思う。ルナも考えてみてよ。ずっと私と居たくない?」

「居たいけど結婚は嫌。それなら一生懸命勉強してカラが産んだ子供の先生になるわ」

「私が結婚するのずっと先だよ」

「高等部が終わったら直ぐくらいでしょ?留学しても高等部が終わったら戻ってくるし」



カラを誤魔化しの言葉で納得させてしまいました。

その時急に思い付きました。

留学を終えたら…隣国でそのまま暮らそうか…と。

きっと公爵夫妻は結婚したカラの側にずっと私を起きたいんだと思います。

そう思ったら、毎日毎日誰か彼かを付き添わせるのはその意図が有るからだと分かってしまいました。

でももしそうなったら…お父様がどんな行動に出るか考えるだけで胃がキューっと痛くなります。

私に利用価値があるとお父様が思っている間はしがらみから逃れられ無いのです。

価値より親子の縁はどうやっても切れないのだと思ったら諦めに負けそうで、お父様、お母様から逃げるためなら隣国で暮らす事も厭わないと私に思わせました。



それからは極力カラと居るか1人で居るかしました。

公爵夫妻もカラに聴いたのかそれからは無理強いはしなくなりました。

読書三昧の夏の終わりに、今年のフランソワーズ伯爵領の綿花は平年並みまで持ち直した、と伝わって来てホッとしました。

帰りの馬車の中で、公爵夫妻から年末年始のパーティーの話が出ました。

今年の冬は社交界デビューの年です。

公爵夫人は今からカラのドレスのデザインや色をあれこれ検討していました。

「ルナフのドレスも作ってあげるわね」

「いえ、そんな…」

「お祝いだから作らせてね」

嫌を言わせない口調で公爵夫人が言いました。

「それが終わったら3年会えないんですもの」



2ヶ月振りの寮に戻ると何故かホッとしました。

寮には何時もの居残り組の顔があって帰ってきたんだと実感しました。

「ただいま帰りました」

「お帰りなさい。楽しんで来ましたか?」

笑顔で迎えてくれたクラシック先生に向こうであった楽しかった事を話しました。

「そう、留学の話はしてきたのね」

「はい、公爵夫妻は私を親戚の誰かと結婚させてカラの側に置かせたかった感じてした」

「断ってきたのでしょう?」

先生は確かめるように聞いてきます。

「はい、卒業してからも公爵の側に居たらお父様は絶対公爵に取り入ろうとします。それだけはさせられません」

「そう言う意味では無いのだけど、今はそれで良いわ」



社交の冬が始まるとクラシック先生が手紙を見せました。

「留学先から手続きが終わった知らせが来てるわ。学費の半額はもう学園長が払ってるから、もう半分はバイトしながら頑張って、私からのバイト代で向こうの寮費を払っておくわ」

「そんなにしていただいては…」

「寮に来てから頑張ってきたじゃない」

先生は『御褒美』だと言ってくれました。

「毎回丁寧に写してきてくれるし。あなたにバイトを頼んで良かったと思っているのよ」

「ありがとうございます」

「それとね…嫌な話だから短く話すわね」

先生は改まって妹の話をしました。



「妹さんね、怪しげなサロンに入り浸ってるの」

「サロン?」

聞いた事の無い言葉に首を傾げました。

「お酒を出すお茶会みたいな感じね。未亡人の伯爵夫人が寂しいからって若い子にサンルームを好きに使わせているのよ」

「そんな所に妹が?」

信じられなくて思わず聞き返してしまいました。

妹はまだ13歳です。

そんな年齢でお酒を飲む場所にお母様が行かせてるとは思えませんでした。

「同じクラスの男子がそのサロンに前から通ってたらしくて、お茶会だと言って連れ出してるそうよ」

聞いても私には何も出来ませんでした。




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