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8話 とにかくそこだけがすっぽりと消えている

「危なかったね~」


 どうしてこんなことになっているのだろうか。いま、春香を真ん中に挟んで三下と3人で登校している。

 どう接していいかわからず互いに距離感をとりあっている俺と三下の間で、春香はそれに気付いているのかいないのか、1人で楽しそうにしゃべっている。

 春香と三下が知り合いだったなんて全く知らなかった。彼女の口から三下の名前を聞いたこともなかったし、二人がつるんでいるところも一度も見たこともない。

 まぁ今はクラスも違うし、もともと春香の友人関係を把握してるわけではないけど、それでも親しいクラスメイトの話題なんかはよく彼女の口から出るから多少は知ってる気でいたけど。


「二人は知り合いなのか?」

「ん?同じクラスだよ」

「ふ~ん」

「……」


 余りに無言なのも空気悪いかなと思ってタイミングを見計らって話題を振ってみたけど、三下は本当に全くしゃべらないな。

 たまに三下の顔を伺うと向こうも睨み返してきて、それで俺が目を背ける、そんなやりとりが数回。まぁ学校に着くまでの辛抱だ、がんばれ俺。


「あれ、なんだろう」


 自分達の進行方向に人だかりができていた。いつも通学の時に横を通っている公園だ。

 春香はそこへ駆け寄っていく。俺も歩いて追いつき春香の横に立って、人混みの頭の隙間を探り探り中を覗いた。


「なんだこれ…」


 そこには信じられない光景があった。いや、もっと正確に感じたままに言うなら、何の光景もなかった。

 公園が消失している。

 空き地になっているとかそういうことじゃない。まるでゲームのバグでも起きたかのように、宇宙をくりぬいて作った立方体を敷き詰めたかのように一面が吸い込まれそうな黒に覆われてロストしている。その一面は底なしの穴なのか平面なのかもわからない。黒と表現したけど、無であるそれを黒という色で表していいかもわからない。とにかくそこだけがすっぽりと消えている。


 ふと隣に立った三下を見ると、さすがの鉄仮面もその表情を変えて驚いた顔をしていた。

 俺自身もそうだ。現実のものとは思えないものが突然目の前に現れて、それが理解どころかちゃんと認識できているかもわからないという摩訶不思議な出来事にどういうリアクションをとっていいのかもわからないでいた。

 しかし反対側に目をやると、春香の表情は俺や他の人達とは違うような、なにか思う所があるかのように、考え込むような深刻な顔をしているように思えた。


「…春香?」

「え?うん、なに?」


 声をかけると、ふと我に返ったようにこちらに返事を返していつも通りの表情を作る春香。


「いや、なんか怖い顔してたから」

「え?……あぁうん、そんなことないよ。すごいねー!どうなってるんだろう」

「うん」

「あ!時間やばーい!なにも変化もないし行こっか」

「え、あ。お、ぉぅ」


 やっぱり変だ。たしかに朝から2連続で非日常なシチュエーションに出くわしているけど、そうだとしても今日の春香の態度には違和感を感じる。

 今見たものはあまりにも現実離れしすぎているから、それを考慮すると俺の考え過ぎなのかもしれないけど。 

 実際に非日常を目の前にするとこんなもんなんだろうか。周りには携帯で写真を撮ってる人も多数いる。なのにこういったことが人一倍好きで橋の消失が見れずにがっかりしていた春香がローテンションで、むしろこの場から早く離れようとしているように見えたことも違和感のひとつだったかもしれない。




 教室に入るとすぐに巻谷が俺のほうを見た。目が合ったがすぐに向こうが目を逸らした。やっぱり朝すれ違った時に俺の事に気づいていたんだろうか。

 まぁ向こうも何も言ってこないだろうし自分からそのことに触れようとも思わない。


 自分の席につくといつものように宗吾が駆け寄ってきた。


「なぁなぁ聞いた?今度は公園が消えたんだってよ」

「あぁ、それなら今朝見てきた」

「なんだよ、自分だけずーるーいーずーるーいー!」

「どこの子供だよ、その駄々っ子うざいからやめろ。たまたまだよ、通学路だし」

「あぁそっか。で、どうだった?」

「どうだったって言われても…なんか真っ黒になってて、それだけ」

「それだけって、他になんかないのか?」

「他にって言われても、ホントに真っ黒のよくわからない空き地みたいになってて、それ以外に言いようがないというか」

「う~ん、他の奴に聞いても似たような事ばっかりだし。やっぱり自分でみないとわかんないなぁ。俺いまから行って来ようかなぁ」

「今からって、もう先生来るぞ」

「わかってるよ。言ってみただけだよ」


 宗吾はため息交じりに残念そうにつぶやく。

 冗談だと言ってるが、こいつなら本当に今から学校をサボって行きかねないと思う。


「こんだけすぐ2度目があったんだ。また次もあるかもだしな」


 担任が教室のドアを開けると宗吾は自分の席に戻った。


 公園消失の話は既に学校中で噂になっているようだ。――にしても、どうなってたんだあれ。前に噂になった小坂井橋もあんな風に消えてたんだろうか。今回の公園も時間が経つと元に戻るんだろうか。

 あんなの、不思議とかすごいとか偶然とか、そんな言葉で説明できるものじゃない。超常現象というか異次元というか、目の前で目撃した自分でもうまく説明できないし未だに信じられない。あまりに度を越えて壮絶な光景だっただけに、逆にこのあと公園が何事も無かったかのように元に戻っていたら今朝の事は夢だったんじゃないかと本気で思えてしまうかもしれない。


 それほど衝撃的な非日常に出くわしてしまったんだ。その前にカツアゲ現場にも遭遇してるし。

 こういう時はおとなしく過ごすに限る。その日の授業はできるだけ寝て過ごそうと決意した。

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