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7話 余計な事に首突っ込まないのは賢い選択だと思うけどなー

 その日は春香からのメールの着信音で目が覚めた。

 携帯画面の眩しさに眠い目を細めて文字を確認する。


【今日は一人で登校してね】


 7時45分、本来起きる予定の時間より5分、いつも起きる時間よりは10分早い時間だったが不思議と気持ちよくベッドを抜け出す事が出来たのでそのまま登校の支度を済ませて、いつもより少し早い時間に家を出た。


 いつもより通学路が賑やかな気がする。いつもはギリギリの時間に登校しているせいか、学校近くに行くまであまり同じ学校の生徒を見ることはない。10分違うだけでこんなに違うもんか。


 5月に入って随分と暖かくなってきた。そのお陰か今朝も気持ちよく起床することができたし、ひとりで静かな気持ちで散歩するのもたまにはいいかもしれないな。


そんな年寄りじみた考えを寄せていたところに、平穏をぶち壊す不愉快な声が聞こえてきた。


「あぁ?!ほーら持ってんじゃねぇかよ!」

「か、返してください」

「あぁ!!なんだぁ?!!」

「ひっ・・」


 見ると細い路地に時代錯誤と言うかコテコテというか、いかにもな不良が3人、メガネを掛けた小太りの学生を囲っていた。不良たちに囲まれた男は鞄を体の前に構えて縮こまっていた。どこまでも、いかにもといった構図だ。

 世間一般的にいういわゆるカツアゲというものだろうか、裏路地に一歩入っているとはいえ、人目があるのによくやるな。

 せっかく人が珍しく真面目な時間に登校してるというのに気分の悪いものに出くわしてしまった。

 というか、よく見るとメガネの学生は同じクラスの巻谷まきやじゃないか?

 関わったことはないが、一応クラスメイトだし顔と名前くらいは覚えている。

 こういう時はどうするべきなんだろうか。子供同士の喧嘩ならこの前の彼女みたいに止めに入ることもできるだろうけど…やっぱりスルーか? ここは見なかったことにして関わらないのが賢い選択だろうか。仮に助けるとして自分が出ていってどうなるか。

 自分は決して腕っぷしが強い訳じゃないしなんの助けにもならないと思う。それにそもそも、親しくもない人が困っているからといって助けてやろうという正義感も正直持ち合わせてない。

 俺以外にも気付いてる奴はいるだろうに、誰も助けに行かないってことはみんなそうなんだろう。今の時代、あんなのにわざわざ自分から関わろうとするやつなんていない。


 そんな思考を巡らせながらなんとなく向こうから見えづらい位置をとってその様子を見ていると、俺の横を過ぎて1人の男が不良たちの方に向かって行く。男が不良たちの前で立ち止まると、不良たちは一斉に振り向きその男にガンを飛ばす。


「んだてめぇ!なんか文句あん…のか……、三下…」


 そう、不良たちと対峙した男は先日、橋で見かけた三下だった。

 三下は不良が手に持っていた巻谷の財布を奪い取ると、なおも無言で悠然と立っている。


「………ちっ」


 不良たちは舌打ちを残してその場からノソノソと不健康そうな足取りで退散していく。

 三下は取り返した財布を巻谷に差し出す。巻谷は恐る恐るそれを受け取ると、逃げるようにこちらに走ってきた。

 道路に飛び出した瞬間、俺とぶつかりそうになり、一瞬目があったような気がした。

 巻谷のやつ、助けてもらったんだから一言礼くらいいえばいいのに。

 それにしても三下は人助けなんかして、実はいい奴なのか?

 そんなことを思いながら現場に向き直すと三下がこちらを睨んでいた。今度は気のせいじゃない、俺のことを不動で睨んでいる。

 その目には敵意とも思える感情を感じた。

 目を逸らしたらが負けになってしまうような、よくわからない対抗心が少しだけ芽生えたが、そんな馬鹿らしいことに意地になることもないとその場を離れようとした時、三下はやってきた大人に声をかけられた。


「ちょっと君」


三下に声をかけたのは2人の警察だ。


「ここで恐喝が起きてるという通報があったんだが」

「……」

「ちょっと話いいかな」

「知らねぇよ」


 何を考えているのか、三下は警察に対しても口数少なく、愛想もなくなにも話そうとしない態度だ。


「助けないの?」


 背後から春香が声を掛けてきた。


「お前、いたのか」

「まぁねー、それよりいいの?見てたんでしょ?連れてかれちゃうよ~」

「え、ぁ…あぁ、でも」

「でも?関わるのは面倒?他人事だから関係ない?見てた人は他にもいる?」

「いや、そういう訳じゃないけど…」

「そうなの?余計な事に首突っ込まないのは賢い選択だと思うけどなー。例えそれで罪悪感を感じてしまうとしても」

「は?」


予想外な饒舌に一瞬、何を言われているのか理解できなかった。


「巻谷君の事だってそう。どうせ自分には何もできないからって、仕方ないからって自分に言い聞かせて許してもらおうと思ってる。自分から、自分の罪悪感から」

「お前…なに言って――」

「すみませーん!」


 俺を無視して彼女は三下の方へと駆け寄っていった。


「この人、からまれてる私を助けてくれたんです。逃がしてもらったんですけど心配で戻ってきちゃって」

「お前……」

「本当なのかね?」

「はい、なんでこの人は悪くないです。ほら、遅刻しちゃうし行こっ」

「あぁ君達ちょっと。一応話を…」


 警官の制止を振り切って春香は三下の手を引っ張ってその場から走り去る。


「ほら、いくよ」

「お、おぅ」


 彼女の言動と行動に呆気にとられていたが、一声かけられて促されるままに俺も一緒に走ってその場を後にした。

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