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6話 恥ずかしいから他人のフリしてんだよ、察しろ

 橋に着くと周辺には自分達と同じ目的であろう複数の人だかり、それにパトカーが2台止まっていた。

 警察が動いてるってのは本当だったんだな。


「なーんもないなぁ。おーい!なんかあったぁ!」


 周囲を散策している宗吾がこちらに呼びかけてきたが、何も見つけてないしそもそも探してない。あと、高校生にもなって大声を出すのは恥ずかしいから止めていただきたい。


 川を超えて対岸まで伸びる橋は記憶にある風景と代わりない姿でそこに建っている。

 この巨大建造物が一晩だけ消失していたなんて馬鹿げた話、例えその時の映像がテレビで紹介されたとしても、俺はそれをCGか何かだと疑うだろう。


「パトカー来てるね。ホントだったのかな。橋が消えたっての」

「さぁ、どうだろね」

「おーい!そっちはどうなんだよぉ!」


 こちらの探索状況を聞こうと宗吾が声を大にし続けている。

 恥ずかしいから他人のフリしてんだよ、察しろ。

 あまりにこちらが返事を返さないから、しびれを切らした宗吾はこちらに駆け寄ってきた。


「なんで無視すんだよ、ったく。はぁ…でもなんっもねぇなぁ。つまんねぇの。――ぉ?あれ、三下じゃね?」


宗吾の視線の先には自分達と同じ制服を着た長身の男が一人、橋を眺めていた。あいつは確か同学年の三下鉄平みしたてっぺい。関わったことはないが悪い意味で有名な生徒だったはず。


「もしかしてあいつ、こういうの好きなのか?意外だねぇ」


 宗吾はあごをさすりながら、まるで相手の弱みでも知ったかのような目つきでニヤニヤと三下を見下ろす。その念が通じたのか、三下の視線がこちらに向いた。


「なんかこっち見てるよ~」

「えっ、うっそマジ!やっばいやっばい。ああいうのは関わらないのが一番だよ~ん」


 そう言って宗吾はひとり走ってその場を撤退する。


「あ、ちょっと待ってよ~」


 春香もすぐその後を追う。

 だけど俺はなぜか三下の事が気になってすぐにはその場を動かなかった。気のせいかもしれないけど、三下の眼光は俺に向けられていたような気がしていた。


「おい、なにやってんだー。いくぞーー」

「ぁ、おう」


 宗吾の呼びかけにふと我に返り、俺もその場を後にする。


「結局おもろいもんなんもなかったなー」

「ねー」


 とは言うものの2人の様子は楽しそうに見えた。何の変哲もない見慣れた鉄橋を見ただけだというのにどうしてこんなに愉快になれるのだろうか、この二人は。


「それじゃあ俺はここで、また明日なー」


 宗吾が先に別れて俺は春香と2人になった。


「ねぇ悠、悠はどう思う?」

「なにが?」

「橋が消えたって話」

「さぁ、別にどうとも。確かにこんだけ噂になってるからなにかあったんじゃないかって思ったりもしなくはないけど」

「ふ~ん、そっか。ねぇ、悠はさ、最近なにか楽しいことあった?」

「楽しいこと?ん~、そうだなぁ。最近ないかもなぁ、楽しいこと。……ん?」


 ふと、公園の子供の声が耳に入った。といっても楽しく遊んでいるような声ではない。


「やーい、こっちだぁ」

「返してよぅ~」


 いじめか?ひとりの男の子が3人に囲まれてあたふたしている。宙を舞っているのは体操着袋だろうか。

 真ん中を右往左往している男の子の頭上を越えて投げられた体操袋を、いじめっ子より先に春香が掴んだ。


「こーらっ、だめでしょ。いじわるしちゃ」


 突然の乱入者にランドセルを背負った子供達4人はきょとんとしている。


「仲良くしないと、ね」

「………サバゴンがでたぞー!わーー!!」

「えっ、ちょ…コラー!!」


 一斉に駆け出す3人のいじめっ子達の背中に怒声をあげる。


「サバゴンってなんなのよ…まったく。はい、君もやられっぱなしじゃダメだよー。男の子なんだから」


 男の子に体操袋を返して頭をやさしくポンポンと叩く。泣き出しそうな顔をしていた男の子は渡された体操袋を守るように強く抱きしめると何も言わずに走り去っていってしまった。

 春香に歩み寄ると、春香は淡々とした口調で俺に問いかけてくる。

「サバゴンってなにか知ってる?」

「さぁ…」

「ねぇ、私ってサバみたいな顔してる?」

「いや、魚というよりはもっと肉食獣のような―げふっ!」

 俺の余計な一言は彼女のボディーブローによって遮られた。

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