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2話 殺したの、私なんだよ

延々と続く一本道、等間隔に並ぶ街灯、代わり映えしない街並み。自分がちゃんと前に進んでいるのか、もしかしたら同じ場所をぐるぐる回っているだけなんじゃないかという錯覚に陥る。

それにしてもいったいここはどこなんだ…いや、なんなんだ。やっぱり普通の世界じゃない。なんで俺、こんなとこにいるんだ。

しばらく走ると彼女の後ろ姿が見えてきた。と、そのとき、背後から雷が落ちるような轟音が聞こえた。足を止めて振り向く俺に彼女は怒鳴る。


「ほら、止まってないで!急いで!」

「お、おう」


再び足をすすめる二人。後ろからは断続的に落雷のような音が続いている。必死に走る最中、彼女の横顔が目に入る。その口元は少し笑っているようにも見えた。


「おいっ…ハァッハァ……なんかお前、楽しんでないか?」

「え?そぉ?」


同じ距離を走っているはずなのに、俺はこんなにもへばっているというのに、彼女は息一つ乱さず涼しい顔をしている。


「なんなんだよ…さっきのあれ。ていうかホントどこなんだよここ」

「なにが?」

「なにがっておまえ……はぁ…全部だよ!おまえはわかってんだろ。ってかわざと俺に隠してんだろ」

「さぁ~」

「さぁ~って、お前…」


轟音が近づくにつれて地が揺れる。徐々に激しくなるそれにあの黒球が迫ってきているのを感じた。振り返ると、霧にぼやけて不気味に光るふたつの黄色い月が目に留まった。


「悠、もう少しだからがんばって!」


そう言った彼女は遥か前方を指差していた。その先には高さ数百メートルはあろうかという扉が悠々とそびえていた。


「でかっ、なにあの扉」

「あそこまでいけば大丈夫だから」

「よくわからんけどとにかくあそこまでいけば助かるんだな」


と、そうはいっても轟音はすぐ後ろまで迫ってきていた。霧を抜けて目視できる範囲まできた黒球はとても凶暴な容姿をしていた。ボウリングの球に削岩機をつけたようなそれは街の建物を、地面を、まるでせんべいでも喰らうかのように砕きながらこちらに向かってきていた。先程からぼんやりと浮かんでいた2つの黄色い光はどうやらこいつの目だったらしい。目と言ってもどうみても生き物じゃないからなんの為に付いているかはわからないが。


「てかずっと追っかけてきてるあれはなんなんだよ!」

「あれ?あれはね!あっ……さぁ、なんだろうね」

「『あっ』ってなんだよ!おまえ絶対知ってるだろ!…………答える気なしかよ」

「いいからいいから、ほら走って」


相変わらず息一つ切らさない彼女は笑顔で言う。こんな危機的状況だというのにまるで緊張感がない。


「くっそ、とにかくあそこまで行けば助かるんだな」

「そゆこと」

「はぁ……ったく、こちとらもう限界だっての……。助かったら全部話してもらうからな」

「うんうん、その調子。それじゃあがんばって。――――元気でね」

「言われなくても、っておい!」


隣を見ても言葉を投げかけたはずの相手がいなかった。振り返ると彼女はその足を止めていた。俺も思わず立ち止まって声を荒げる。


「おい!なにやってんだ!」

「悠は行って。私はここまでだから」

「ここまでって、なに言ってんだよ!さっきのやつがもうそこまで来てんだぞ!」

「悠。さっき私の手がすり抜けたの覚えてる?」


そう言葉を口にする彼女は少し眉をひそませて少し悲しげな表情を浮かべていた。


「もうね、私と悠は同じ世界の人間じゃないの。それに、悠は本当に何も覚えてないみたいだけど」


俺を見据える彼女の目線が鋭く強張った。


「悠を殺したの、私なんだよ」


は?……俺を殺した?何いってんだ?わけわかんないだらけのこの状況でどれだけ衝撃的な発言が飛び出そうとももう何を言われているのか全く話が入ってこない。ただ自分が理解できているのは目に見えている危機的状況だけだ。


「わけわかんねぇこと言ってないで、とにかく逃げるぞ!」

「こないで!」


彼女は歩み寄ろうとした俺に静止をかける。


「とにかく悠は行って。お願いだから私の言うとおりにして」


懇願するように言葉を発する彼女の顔には、ここまで走ってきた時までの余裕な表情は残っていなかった。街を喰らう黒球は霧を抜けてその全容を目視できる程に迫っていた。


「それじゃあ悠、元気でね」


そう言うと彼女は自ら黒球に向かって歩き始めた。


「おい馬鹿!―あっ」


彼女に駆け寄ろうとしたが疲労困憊な足は既に限界を超えており、力が入らず崩れるように膝をついてしまった。俺はただ、黒球に歩み続ける彼女を見ていることしかできなかった。


「くそっ、動けよ……。おい!待てって!止まれよ!それじゃあねってなんだよ!おいっ!」


なんとか脚に鞭打って少しでも彼女に近づこうとするがまるで力が入らない。ここまで走ってくるのに必死過ぎて、こうして立ち止まるまでこんなにも疲弊していることに気づかなかった。俺の彼女に叫び続けるも、その声が彼女が届くことはなく、無情にも黒球は迫り、そして俺の目の前で彼女を飲み込んだ。

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