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15話 とにかく見つけろ、話はそれからだ

 間一髪、反射的に伏せて鎌は当たらなかった。ライターもうまく攻撃を避けたようだ。

 その動作で少年の覆っていたフードが脱げる。あらわになったのはウェーブがかった薄桃色のショートヘアに冷たさを感じさせるように透き通った白い肌だった。ていうか女の子だったのか。


「てんめぇまだ!」


 イレイザーが少女の振り切った鎌の柄を掴み、そのまま投げ飛ばす。鎌の柄から手を離さなかった少女は本棚に叩きつけられ、壊れた本棚と一緒に埃に沈む。


「壊さないでくださいよ」


 ライターは命を狙われた直後だというのに大した事でもなかったかのように冷静な態度で愚痴をこぼす。


「え、あ、ちょっと…大丈夫、なんですか?」

「あ?これ?おまえ心配してんのか?消されかけたってーのに」

「だってなんか、小さい子だったし」

「なんだ?お前ロリコン設定だったっけ?」

「違いますよ!」

「違いますね」


僕の否定の言葉にライターも重ねてきた。


「違う…」


 さらに否定の言葉が倒壊した本棚の下から聞こえた。少しでも雑音があれば消えてしまいそうな儚い声。

 瓦礫を押し退け少女は立ち上がる。

 後ずさる僕の態度を見て少女は口を開く。


「心配しないで、私はあなたの味方」


 

 あどけなく幼い容姿とは裏腹に、幾億も闇を知っているような鋭い眼光を光らせて、少女は俺に向けてそうつぶやく。

 彼女の目を見て、それから警戒心から自然と大鎌に目がいく。

 それに気づいたのだろうか、彼女が鎌を持っている手を広げると鎌は影になりその手に吸い込まれるように消えた。


「パニッシュ」

「ぱにっしゅ?」

「私の名前、パニッシュ。罰するもの」


 彼女はそう名乗った。


「罪がなにしにきたんだよ。こんな狭い所でブツ振り回しやがって」

「帰る」

「おい!………ったくどいつもこいつも、めんどくせぇ」


パニッシュはイレイザーの静止を無視して部屋の奥に消える、イレイザーも特に追う事はしなかった。


「んで?こっちは話終わったのか?」

「え、えーっと…なんな話でしたっけ?」

「あなたを主役にするという話です」

「あ、あぁ。あはは、そうでしたね。ちょっと今の出来事が衝撃的すぎて飛んじゃってました」

「しっかりしてくださいよ。あなたは主役になるんですから。あの程度の事で…」

「あの程度って!殺されかけたんですよ!大事ですよ!」


 さっきのがあの程度?その程度なのか?もしかしてこの先あの程度の事なんて幾らでも待ち構えてるかのように言わないで欲しい。


「あぁはいはいわかったわかった!いちいち声を張るな、めんどくせぇ。とにかくお前はイレギュラーを探して正体を突き止めろ。世界を狂わせている奴が必ずいるはずだからよ」

「イレギュラー、ってなんですか?」

「この状況を作り出したやつが必ずいる。真理世界の事なら俺達も手を出せるが、創造世界ではお前がなんとかしなきゃなんねえ。違和感を感じるもの、記憶と違うもの、非現実的なもの、少しでもおかしいと感じたものすべてを疑え。世界のズレを修正しないとどうにも手が出せん」

「えっと、具体的にはどうしたらいいんですか?」

わからん」

「え、いやわからんって…」

「とにかく見つけろ、話はそれからだ。とりあえずいくぞ」

「どちらにいかれるんですか?」

「どこって、送ってくんだよ。もう話もいいだろ、創造世界に返す」

「え、俺もっと聞きたいこと――――」

「どうせ聞いたってほとんどわかってねぇんだろ。夢じゃないってこと理解して、自分のやることがわかればそれで充分だ。おら、ついてこい」


 イレイザーの勢いに押されて後ろをついていく。ライターも言葉をかけることなく目で僕を見送る。

 色々話は聞いたけど、結局のところよくわからなかった、なにもわからなかった。

 俺はまた今の状況を何一つ理解することなく流されるままになるのか。


 外にでるとそこは一本の道だった。そう、初めて真理世界に来たときに彼女と走った道に酷似していた。


「もう一件寄るぞ」

「え?」

「パニッシュの所だ」

「パニッシュってさっき僕を殺そうとした――」

「そうだ。だけど違うな、さっきあいつが狙っていたのはおそらくお前じゃない、ライターだ。そいつを確かめにいく。一応言っとくが、あいつには気をつけろよ」

「気をつけろったって、あんな鎌で襲われたらどうしようもないですよ!」

「違う、パニッシュじゃない。ライターだ」

「ライターさんですか?」

「そうだ、パニッシュが狙うってことは罪があるってことだ。お前にとってな」

「僕にとって?」

「まぁいずれ…いや、できればそれを知る機会がないに越したことはないな」

「はあ」


 歯切れの悪い言い方。でもイレイザーのそれは不思議と悪い気はしない。

 真理世界は僕にどれだけの情報を与えるべきか量っている。

 だけどイレイザーさんのそれは隠しているというよりは面倒なのか、もしくは僕の事を思ってという事が伝わってくる。

 なんでだろう、イレイザーさん、フェイト、ライターさんの3人の中で一番ムカつく人なのに、すぐ怒鳴る嫌な人なのに。唯一俺に気を回してくれている人だともどこかで感じていた。だから嫌いになりきれないところもまたムカつく要因となった。


「うわぁ…さすがの俺でもちょっと引くわぁ」


 気づくといつのまにか扉の前に立っていた――が、これはなんとも…、


「うわぁ……」


 思わず俺も声が漏れていた。

 建物の前面に、ボロボロに廃れて流れた錆びが流血のようにこびりついた巨大な猫の顔の装飾。元が素直にファンシーな作りだったであろう事が伺える分、余計にその不気味さを増している。

 まるで惨劇でも起きたせいでキープアウトされてそのまま数十年間放置された遊園地の入口ようだ。


「おら、いくぞー」


 ファンシーなお化け屋敷に目を奪われているうちにイレイザーはさっさと中へ入っていった。


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