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12話 自分の彼女まで代わって気づかないもんかよ!

「………っん、ここは…」


 気がつくとソファに伏せていた。

 少し頭痛を感じる頭を抱えながら、体を起こして辺りを見回した。周囲はぎっしりと本の詰まった本棚が延々と並んでいる、まるで図書室のようだ。


 どこだここ、俺はどうしてこんなところに。

 思考を巡らせ、記憶の糸をたどる。

 たしか公園で……巻谷が不良達を………それから春香がいて………そうだ、地面に飲み込まれたんだ。


 ――――夢か?


 いや、夢と言ってしまうには生々しすぎる。それに事実として今、自分は見知らぬ場所にいる。さっきまでの出来事が事実で、そのあとになにかあってここにいると考えるしかないと思う。

 ここがどこかわからないけど、じっとしててもしょうがないしとりあえず動くか。

 ソファを降りて、規則正しく並んだ本棚の通路を適当に散策する。静寂の中、一歩進むたびにフローリングの軋む音が耳に触れる。薄暗い室内を暫く歩いていると人の声が聞こえてきた。

 他にあてもないし、物音を立てないようにしながらそちらへ向かった。


「だから!それをてめぇのシナリオでなんとかしろってんだよ!」


 会話している一団を目視できるほど近づいたところで聞こえてきたのは怒声だった。

 本棚の影に身を隠したままそちらを覗き込むが、相手の姿は思うようには見えなかった。


「ライターとフェイトが揃ってんだ!どうにだってなるだろ!」


 随分と怒っている様子だが、その声はどこか聞き覚えがあるように思えた。


「あ、気づいたんだ。おはよー」


 明らかにこちらに声が向けられた。

 特に敵意があるようにも思えなかったし、なにより他にあてもないわけで、俺は素直に出ていくことにした。

 俺に声をかけたのは、見た感じ小学生っぽい透明感のある少女。その横に怒鳴っていたと思われる白髪に無精ヒゲの男。向かい合うように黒コートに黒いハット、小さな丸メガネを鼻にかけた初老の男性がいた。


「くそっ!!」


 無精ヒゲの男は机を叩いて苛立ちを見せる。随分と機嫌が悪い様子だ。


「だいたいてめぇはなにしてたんだよ!あっちでノラリクラリと!」


 唐突に無精髭の男が矛先がこちらへ向けられた。


「ちょっとやめなよ~、記憶がないんじゃしょうがないでしょ」

「だからってよぉ、自分の彼女まで代わって気づかないもんかよ!」

「そんなもんですよ、人なんて」


 俺はこの人達に前にどこかで会っているような気がする、絶対に見覚えがある。でも喉元まで出掛かってるのに思い出せない。


「お久しぶりです。といっても前回は一目合っただけでしたが。改めて自己紹介を。私はライター、記す者です」


 そう挨拶した男は、黒服・黒帽子に丸メガネを駆けた、神父を思わせるようなロングコートで紳士的な雰囲気をまとう中年男性だ。

 ライターは握手を求めているのであろう右手を差し出してきた。

 俺もそれに応えて右手を出し握ろうとしたのだが手を握る瞬間――いや、手を握り合うはずだった瞬間、互いの手は振れること叶わずにすり抜けてしまった。


「えっ……」

「ふむ、まだこちらには干渉しきってないようですね」


 そうなることを想定していたのか。ライターにはまるで驚いた様子がない。

 前にも同じような事があった気がする。そう、あれはたしか――


「そうだ、思い出した!あなたたち、この状況、ずっと前に見た夢と同じだ!」


 手に触れられずにすれ違った瞬間に湧き出た記憶。

 前に見た夢で春香と同じやり取りをした事があった。そしてその夢の中にはこの3人も登場していたのを思い出す。


「あぁ?なんだ、お前今の今まで忘れてたのか。っつかまた夢かなんかだと思ってんじゃないだろうな」

「えっ…いやまぁはい」

「………………はぁ、どんだけ現実逃避なんだよお前」


 そう言ってきたのは白髪の男だ。


「現実逃避って、こんなもん信じる方が現実逃避だろ。なに言われたって信じられないし信じたくないし夢だと思ってるよ」

「夢なら痛くねぇよなぁ」


 男は歩み寄ると僕の頬に指を伸ばした。だけどその指は俺を捉えることができずにすり抜けてそのまま空を切った。


 「クソっ。ホントつまんねぇやつだな」


 男は理不尽としか思えない悪態をついてソファに横柄な態度で腰を落とす。


「この場合、主役の言うことももっともですよ。ずっとあちら側にいたんですから夢だと思って当然でしょう。彼の事はあまり気にしなくていいですよ、口は悪いですが素直じゃないだけですので」

「うるせー!」


 白髪の男はバツの悪そうな顔をして椅子を蹴り飛ばし、部屋の奥へと消えていった。


「さて、本題に入りましょうか。なにから話しましょうかねぇ」


 ライターは人差し指で眼鏡を持ち上げながら笑顔を見せる。


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