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11話 ただ見てただけの人も悪い人なんだよ

「やめさせたいなら止めればいいじゃない」

「お前、なにやってんだ…」


 春香はジャングルジムの頂上で夜風を浴びて楽しんでいるかのように、目の前の事が何事もないような飄々とした態度で、いつもと変わりない調子で話しかけてくる。

 そっちに目を奪われているうちに、公園に鈍い音が響く。

 2度、3度、巻谷のバッドと服、地面が染まっていく。


「あ~あ、また見過ごしちゃった。よっと」


 遊具から軽やかに飛び降りた春香が俺の横に立つ。

 助けを求めてきた本人が無事どころか、この惨劇の中を余裕の笑みでいる。

 これをどう理解すればいいのか、俺の混乱に拍車をかけた。


「学校で習わなかった?ただ見てただけの人も悪い人なんだよ」

「お前…なに言ってんだよ、ってかなにやってんだよ!俺、お前のメールみてここに来て……なんなんだよこれ!」

「何って、見ての通りでしょ?」

「お前、なんでそんなに落ち着いていられるんだよ。殺人だぞ!」

「うん、そうだね。それがどうかした?」

「どうかしたって……」


 春香はとぼけたような表情を崩すことなく、俺の方がおかしなことを言っているかのように言葉を返してくる。


「巻谷君は被害者なんだよ?当然じゃない。でもってそこに倒れてる3人も今は被害者。それじゃあ今この中で悪い人は誰なんでしょ~」


 春香まで巻谷と似たような事を言い出すのか?なんだよその超理論、本気で言ってんのか?絶対おかしいだろ。

 この混沌とした状況下でなにもしてない俺だけが悪者だとでも言い出してもおかしくないくらいのその態度はなんなんだよ。


「ねぇ長瀬君。僕がいじめられてること、知ってたよね?」


 春香と会話しているうちに巻谷が背後に来ていた。

 振り向いてたときにはすでに巻谷は俺にバット振り上げていた。

 驚いた僕はその場から動こうとして、足をもつらせてお尻から倒れた。


「見て見ぬ振りは同罪なんだ。長瀬君も僕をいじめてた一人なんだ。あいつらと一緒なんだぁぁ!!」


 思わず目を閉じ、反射的に手を前面にかざした。

 違うっ!馬鹿っ!動けっ!逃げろっ!これじゃ殴られるだけじゃないか!

そうは思っても体は動かない。顔を背けたままバットの衝撃が襲い掛かるのを待ってる自分がいた。そして―――



 公園に金属音が響く。

 それはバッドが地面に落下し、数回跳ねて転がる音。


 ――殴られて……ない?


 恐る恐る目を開けると巻谷は両腕を振り上げた体勢のまま体を痙攣させ苦しそうな声を漏らしている。

 バットは俺たちから離れた場所に転がっていた。


 なにが起きたんだ?


 白目をむいて口から泡をこぼしている巻谷のその背後に妖しく光る三日月が見えた。それは3メートルはあろうかという巨大な大鎌だった。


巻谷が倒れるとその後ろから大鎌の主である少年の姿が見えた。自分の身の丈の2倍はあろうかという長さの柄、そして3倍近い長さの刃。小学生ほどの体格には似つかわしくないサイズのそれを抱え、ローブのフードをかぶって顔の隠れた少年がこちらを向いて立っていた。


「しに……がみ」


 その姿に無意識に言葉を漏らしていた。

 死神のような様相の少年はフードの奥からかすか伺える鋭い眼光で俺を見下すように睨んだままゆっくりと近づいてくる。

 僕はその場にへたり込んだまま動くこともできず、少年から目を離すこともできずにいた。


 なんだ…俺、殺されるのか


 体は未だにいうことをきかない。近づいてくる少年の姿をただただ見ていることしかできない。


 そのとき、段差を踏み違えた時のような瞬間的な小さな落下感を覚える。

 いや、気のせいじゃない。体が地面に沈んでいっている。


「は?な…なんだこれ!」


 気づいたときにはもう手遅れ、地についていた手足と尻は地面に飲みこまれて抜け出すことができない。

 俺だけじゃない、公園の遊具や外灯、木々も公園一面に広がった闇に飲まれて徐々に沈んでいっている。


「くそ、なんだこれ!動けねぇ!!」


 無駄なあがきだということは重々感じていたが、抜ける気配の全くしない手足を引き抜こうともがく。

 と、目の前で刃を返す音が鳴った。

 自分のことで必死になって一瞬忘れていたが、そうだ――目の前には大鎌を持った少年がいたんだ。

 緊張を走らせながら少年の方へ目をやる。

 少年は俺を見下ろしていたが、なにもせずに背を向けて平然と闇の沼の上を歩いてその場を去っていく。


 よかった――いや、全然よくねぇ!危険がひとつ減っただけで状況はなにも好転してない。


「くぬぬぬぅぅ~ああああくっそぉぉぉぉっぉ!!」


 抵抗むなしく、黒に沈む僕は指一本も動かせないまま成す術無く完全に飲まれてしまった。


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