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1話 ほんとにわかんないの?

気が付くとそこにいた―――



俺は道の真ん中に倒れていた。あたり一面、濃い霧に覆われていて周囲を見通すことはできない。街灯の明かりだけが道の両脇に沿うようにぼんやりと並んでいた。


「怒ってる?」


背後から声が聞こえた。振り向くとそこには彼女が立っていた。


「ごめんね、巻き込んじゃって。私のせいでこんな事になっちゃって……」


少しうつむいて申し訳無さそうに話す彼女。どんな時でも明るくポジティブなのが取り柄の彼女にしては珍しい、普段あまり見せることのない表情だった。


「だけど、ちょっと嬉しかったな。(ゆう)があんなに大胆だなんて思ったことなかったから。ちょっとカッコ良かった。ぁ、こんな状況で嬉しいなんて言ったら怒る?でも、嬉しかったから、そう思ったから。ありがとね」


少し照れくさそうに俺を褒めてお礼を言う彼女。しかし俺自身は今の状況が全く理解できていない。ここが何処なのか、どうして自分がこんな場所にいるのか、彼女が何の話をしているのか。


「なぁ」

「ん?なに?」

「どこなんだここ。なんで俺たちこんなとこにいるんだ?まったく訳わかんねぇんだけど」

「悠、頭でも打った?いや頭くらいは打ってるだろうけど。あ、わかった。やっぱり怒ってるんだ。イヂワルで言ってるんでしょ」

「いや冗談じゃなくて。本当に今の状況がわからないんだけど…」


改めて周囲を見回してみる。暗い空の下、相変わらずもうもうと霧が立ち込めており視界は最悪だが、やはり自分の見ず知らずの場所であろうという事は感じ取っていた。かろうじて、等間隔に続く街灯の明かりに照らされてうっすらと背の高い影がそびえていることに気づけた。建物だろうか。

あたり一周に目をやって、再び彼女に視線を戻す。よく見ると彼女の姿にも違和感を覚える。白いワンピースに身を包み、裸足で立っている。こんな清楚な格好の彼女を見るのは初めてのような気がする。

自分はというと、変哲のないフードパーカー、至って普通の普段着だ。


「ほんとにわかんないの?」


必死に訴える俺の顔を覗きこむように、不思議そうな顔をして屈む。まるで今の状況を自分も理解していて当然と言わんばかりの不思議がりようだ。

とりあえずいつまでも尻をついているのもなんだし立ち上がろう。


「はい」


その動作を察してか、彼女は俺に手を差し伸べた。


「おう、サンキュ」


俺は素直に好意を受け取り、彼女の手を取ろうとした。が、お互いの手は触れ合うことなくすり抜けてしまった。彼女に掴んでもらう事を前提に荷重をとっていた俺は予想外の事にバランスを崩し、再び道に尻をつく。

すり抜けた自身の手を疑いの目で睨んでから、その目をそのまま彼女へと向ける。


「なぁおい、今、手が―」


彼女も自分の手を眺めたあと、その手をそのままアゴへと持って行き、そのままブツブツと考え事を始めた様子。


「これって……」

「なぁおいって、今、手、すり抜けたよな」

「だったら…もしかすると……」

「なぁ聞けよ。おい!」

「とりあえずいこっか」


不可解な現象に声を荒げる俺などお構いなしに自分の意見を押し付けてくる。


「いや…俺の話聞けよ」

「いいから早く、ほら立って」


俺と距離を置くかのように背を向けて、立ち上がるよう催促する彼女。その言葉は先ほどより少し冷たくなっているように感じた。


「じゃないと食べられちゃうよ」

「は?食べられる?食べられるってなんだよ」


瞬間、側面の建物を突き破って巨大な黒い球体が道路に飛び出してきた。


「はぁ!!!なんじゃこりゃあ!!!!」

「ほら立って!走るよ!」

「えっ、ちょ!」


彼女は俺を置いて駆け足で霧の奥へと行ってしまった。

黒球から機械音のようなものが聞こえてくる。目の前のゆっくりと回転して向きを変える。そこにはまるで目玉のようにひかる2つの黄色い光が浮かび上がっていた。

これは非常にまずい。なにがまずいかはわからないけれど直感が全身に全力で逃げろと命令を出しまくっていた。


「だあああああああああ!!!!!」


すくむ足を叫びでごまかし、急いでその場を離れる。全力を振り絞りただひたすらに霧の中へ消えていった彼女の影を追った。

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