子は親を見て
「こら! お食事中に、テレビばかり見るのはお行儀が悪いわよ!」
和やかな一家団欒の時間に、雷がぴしゃりと落ちる。息子の行儀の悪さを見かねた女が、耳をつんざくような怒号を上げたのである。
しかし、それを浴びせられた息子はというと、素直に従う素振りを見せず不服そうに口を尖らせる。
「そんなあ。パパだって、ご飯食べないでずーっとしゃべってるお姉さんばっかり見てるよ? そんなに言うなら、パパのことも怒ってよ」
(子供って、よく親のことを見てるよなあ……)
男は決まりの悪そうに、リモコンに手を伸ばしてテレビの電源を渋々切った。
「こら! 指をしゃぶっちゃ駄目だってあれだけ言ってるのに、どうしてやめないの!」
和やかな一家団欒の時間に、またも雷が落ちる。息子の癖を見かねた女が、ヒステリック気味に怒鳴り散らしたのである。
しかし、それを浴びせられた息子はというと、素直に従う素振りを見せず不服そうに口を尖らせる。
「そんなあ。パパだって、怖い顔して爪を噛んでることがあるよ? そんなに言うなら、パパのことも怒ってよ」
(子供って、よく親のことを見てるよなあ……)
男は妻からの鋭い視線から目をそむけ、おずおずと背中を丸めた。
「こら! どうしてお友達のことを突き飛ばしたりなんてしたの。お友達が怪我でもしたらどうするつもりなの!」
居間に流れる重々しい空気を裂いたのは女の一喝。それはこれまでの説教とは一線を画し、並々ならぬ怒りが随所ににじみ出たものであった。
しかし、それを浴びせられた息子はというと、反省する素振りを見せず不服そうに口を尖らせる。
「そんなあ。パパだって、会社の人の背中を押して階段から落っことしてたよ? そんなに言うなら、パパのことも怒ってよ」
妻からの驚愕の眼差しに、男は不気味な笑みを顔に貼りつけながら無言で問いに答える。
(本当、子供って親のことをよく見てるよなあ…………)