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処刑から始まる神殺しの起源  作者: イズシロ
第3章 「断面の再構築」
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星器《アストラル》【フラウソラス】

 【万天軽量】【不砕硬化】はどちらも実戦に身をおいていればいずれは身に付く類の能力アビリティだ。

 【万天軽量】は使用する武具全ての軽量化を可能にする。練度によっては羽のような軽さにまでできるという話だ。

 【不砕硬化】は武具の硬質化。本来持つ武具の材質そのものを硬質にするのではなく保護膜によって武器の負荷を失くすことを硬化と比喩して呼ばれている。無論その強度も練度によって千差万別だ。



 しかし、【万天】【不砕】が付く能力は上位アビリティを示していた。その示す効果は絶大である。



 壁面を跳ねながら距離が詰まる。



「ハハッ、まだまだあ! 魔技【陰投蛇邪】」

「――――」



 刃先がぶれ、残像を残す。

 いくつも【ペイジクライム】の刃先がオウレンの胸目掛けて射抜かんと壁を弾いた。



 それを前にしてもオウレンは表情一つ崩さない。

 腰を落とし刀を抜身のまま腰に添えた。居合の型、これはハロルドも警戒している剣術だ。

 その威力、速度を一度見た時に圧倒的な鬼才と確信したほどに。



 地の利がなければ確実に殺されるのはハロルドだろう。しかし、この狭い空間において居合は確実に封じることができた今、敗北はない。

 苦し紛れのあがきだろうと。



「無駄無駄無駄アァァ!!」

「…………」



 オウレンは最初に抜いた鞘が足元に来ていることを把握していた。いや、そうなるような位置取りをしているのだ。

 それは本当に乾いた音だった。



 中空に蹴り上げられた鞘は横にぶれた【ペイジクライム】の刃先を全て覆う。

 そう、無機物に対して跳ね返る性質がある以上貫通することはない。



 ガキッと鈍い音が鳴り、刃先は真横に向かって方向を変える。

 1秒程度の遅延。それがオウレンの狙った結果だ。



 そして腰で待機する刀の刀身――その表層が砕けた。

 弾かれた鞘【ペイジクライム】が張り巡らせた刃の檻、その僅かな隙間でオウレンとハロルドの視線が交錯する。



「星器|【フラウソラス】」

「――!!」



 一瞬の瞬き、光ったのかすら判断ができない刹那。脳が認識すらできない瞬速。

 オウレンは最後まで刀を抜かなかった。否、一閃させて戻していた。



 長大な刀の刃渡りではこの狭い廊下の壁面が邪魔で抜き切れることができないはずだ。


 

 ハロルドは【ペイジクライム】の刃先が中空で停滞していることに何も感じない。

 そんなことよりも斜めに走った壁面の亀裂に眼を奪われていた。



 オウレンは終わったと言いたげに姿勢を戻す。

 直後【ペイジクライム】が刃先から順に破砕音を立てて砕け散る。それが自分の手元まで近づいてきた。



「なっ!!」



 柄の手前で砕け散った直後、胸の辺りが焼けるような熱を帯び……ブシュッと血が噴出する。



 オウレンの刀は眩いばかりの光を宿していた。一度刀を抜けば確実に敵を葬る。

 振るわれた刀はミクロ以下にまで薄くなり全てを切り裂く。

 しかし、これは居合などの一瞬にしか使えないため斬り合うことができない。



 ハロルドは頽折れるように膝をついた。荒い呼吸が傷に響くが身体が酸素を欲している。

 斬られる、死を実感するのは初めての事だ。

 なんてあっけないものか、と朦朧とする意識でただ自分の膝だけを見下ろす。



 オウレンはまだ息をしているだろうハロルドの元にゆっくりと歩き出した。鞘を拾い刀を戻す。嵌め殺しの窓から外を見降ろす。



「片付いたか」



 言葉通り外にはシオンとユイネ以外誰も見当たらなかった。

 終わったと告げるようにシオンと眼が合う。中へとユイネを抱えて入ってくるところだ。姿が見えなくなった所で窓に線が入っているのに気が付く。

 そして窓が今になってずれる。



「結構壊した、か?」



 壁面に走る剣線はたぶん問題はない。【フラウソラス】は全ての弊害を切り裂く。それが狭い空間というアドバンテージがあろうとも関係無いことだ。しかし、振り切った際に窓ガラスまで巻き込んだため眼を凝らさなければ気付けないほどの線が走っている。

 何かの拍子に割れると思われた。



 無様な男だと見下ろすオウレンにハロルドは呼吸ができないとわかっていても口を開く。



「な、何故……お前が【四天英雄】の宝刀をも、持っている」



 【四天英雄】は300年前に起きた人間と魔物との抗争。これを機に冒険者組合が設立されたのが今は置いておこう。

 この抗争は魔物とは言え、どちらかというと悪魔に近い存在と言われている。

 【六翼災忌ロクヨクサイキ】と呼ばれた天災の如く魔物が6体、人類を滅ぼさんと現れた。これは600年前に起きた魔物の爆発的な発生とは異なる。



 その内2体を【四天英雄】が命と引き換えに討伐を果たしたのだ。

 名前の通り4人の英雄……これはチームだったとも言われている。

 そして使っていた魔法具は星器アストラルの中でも最高峰と目されている。現在その一つだけがカルステインにあるのだが、他の星器については行方がわかっていない。

 倒した時に滅んだとも言われている。



 3体の【六翼災忌】は当時の神器使い、使徒によって倒されたという記録が残っていた。現在ほど神器の使い手を探すのは難しかったため、当時は神器使いが4人しかいなかったのだが。

 数年掛けて確実に滅ぼした。

 最後の一体は封印されたとも神器使いが倒したとも言われている。



 冒険者の中では最後に残った魔物を滅ぼす栄誉を夢見る者もいれば、【四天英雄】が使ったとされる星器を探そうとする者も少なくない。



 足を止めてオウレンは見下ろし、「お前が知る必要はない」と冷淡に告げた。

 特段隠すほどのことでもない。剣を極める上で最上の刀を持つのは扱く当然のことだ。

 剣の道は単純に腕だけを鍛えれば良いという問題ではない。それに見合った武器があってこそ更なら高みに昇れる。



 たとえ奪ったとしても、オウレンにとっては然したる問題ではなかった。



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