表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑から始まる神殺しの起源  作者: イズシロ
第2章 「物語る素性」
26/38

解消できない疑問と

 オウレンの言葉はシオンにとって――いや、周にとって大きな衝撃をもたらした。

 それは以前のシオンが弱いということに。



 だとするならば今のシオンの力は一体なのなのか。その疑問は深まるばかりで解決の糸口を掴めずにいた。また闇の中をもがくように、手を振り回す。

 だが、決して何も掴むことがないことを周は理解していた。



(もっと情報がいるな)



 この身体に秘められている力は明らかに不自然だ。到底人間に成せる能力の限界を突破している。

 そんなわけのわからない力の正体を掴めない内は表だって動かないほうがいいのかもしれない。

 やるならば徹底的に命の灯が付き果てるまでだ。



 【復讐】言うのは易し行うは難し。

 神はいる、とシオンは言い切れるものの、それが実在し肉体を有しているかは定かではない。神についても調べることは多いだろう。



 殺す方法は何も一つではない。

 だからこそ、その選択を間違わないためにこの世界についてもっと知るべきだ。



「弱かったか……フフッ……クククッ、そうか、だが今は違う。神をも殺してみせるさ」

「で、まずは何をするんだ?」

「信奉者どもひたすら殺す。神父も司教も神官も全てが対象だ」

「そうなると国をも敵に回すか、冒険者も動くだろうな」

「なんだ、ビビったか」

「いいや、最高だ。強い奴ならば何だっていい。理由は出会っただけで十分だ」



 そんな闘志を燃やすオウレンにシオンは「お前も大概狂ってるぞ」と茶化すように言葉を挟んだ。



「神に喧嘩を売ろうとするお前ほどじゃねぇ。だが、国を相手取るんだ二人じゃ現実的じゃないな」



 こういう所はオウレンの知るシオンとは明らかに乖離する。

 前もって脳内で試算を出してから発するからだ。行き辺りばったりがこれほど似合わない奴もいないだろう。



「わかってるさ、今は力を蓄える」

「いいねぇ~ゾクリとしてきたぜ」



 城門の手前辺りでシオンは気になっていた疑問をぶつけた。それは今までの話の腰を折るには十分な重みだ。



「で、本当は何歳なんだ?」

「――!! 27だっつってんだろ」

「おいおい、いくら俺に記憶がないとは言え馬鹿にしてるのか?」

「お前だってたかだか19の小僧だろ」

「ほう、俺は19なのか」



 こんなやり取りにオウレンは2年前をつい思い出してしまう。前のシオンもオウレンに対しては親父と呼ぶほどだった。何度注意しても改めるつもりがないようで最後にはオウレンが諦めたほどだ。

 だからいつかのやり取りを思い出して頬を緩めた。

 しかし、そんな追想に浸っている所に。



「気持ち悪い奴だ」



 顳顬こめかみに青筋を立てて「んのやろぉ」と拳を作るオウレンにまたしてもシオンが横やりを入れる。



「そんなことより本当にわかるんだろうな」

「あぁ、お前の連れだって言う子が取った宿か。俺もここでは少し長いからな」



 というのも道中、処刑場から助けてくれたのがユイネという一人の少女であることをオウレンにも話してある。

 そして彼女が今【フィンテル】内に隠れていることも。

 しかし、シオンは宿の指定をしなかったため場所がわからなかったのだ。それもわかるはずもなく咄嗟の機転であるのだから避けられないことだったのだが。



 そんな時にオウレンが少ない情報からいくつか絞ってくれたのだ。

 持っていた金額に見合った宿という程度だが、シオンがオウレンの評価を腕っ節だけでないと付け加えたのはこれが要因だ。



「厄介事に絡まれてないといいが」

「それは大丈夫だろう。今この街にいる冒険者は少ない。最近は依頼も減って来たから何でも食いつく節操のない奴らはこぞって出払っているからな」

「そうか」



 そう応えるシオンの気は無事を確かめるまでは晴れないだろう。



「腕の方は大丈夫か? 結構深いと思ったが」



 腕の一点を差す。これはシオンが肉ごと抉るような突きによって出来た傷だ。もちろん回避しなければ腕ごと持っていかれたのだが。


 

 オウレンは問題ないとばかりに腕を上げ。



「そんな軟じゃねぇよ。これぐらいなら回復薬を使うまでもない」

「回復薬ってというと傷薬みたいなものか?」

「本当に何もかも忘れちまったんだな」



 そう言うと腰から一本のポーションを取り出して見せた。

 半透明の溶液が入っている。スカイブルーと言えばいいのだろうか、澄んだ色をしていた。



「これは大体中間ぐらいの品だが、これぐらいの傷ならすぐ治る。元々これらは教会が生産している物だったんだが、神への信仰が広まったために各地で売られているな」



 その言葉にシオンは目を眇める。



「とするとこれには何か神聖な物が含まれていると?」

「…………そうなるな。お前が言う神ってのはクルストゥエリアのことだろ」



 頷き肯定すると。



「もっともクルストゥエリアが信仰される一つがこの回復薬なわけだな。他にも神器があるか。まあいい、回復薬ってのは地脈を伝って湧きだす不思議な源泉だ。そこに教会が建っているんだがな。それを薄めて精製しているのがこの回復薬だ。原液なんかは逆に治癒し過ぎて害になる。最高級品は身体に害が及ばないギリギリの濃度らしい。もちろん回復薬はこれだけじゃない、金のない奴は薬草から作っている回復薬を使うが、まぁ劣化版だわな」



 教会とは言え一括りにできない理由がある。これはアースウェイン法国に市場を独占されないためだ。教会とは言っているがこれは公儀的な意味合いを持つ。そのため各国にある教会はどの国にも属さない。国家間の協定で不干渉と定められおり、資金源は各国から排出されている。これには冒険者組合も一枚噛んでいるのだが。今はいいだろう。



 饒舌に語るオウレンだが。



「本当に忘れたのか、こんなのは常識だぞ」

「仕方ない。覚えていないものは覚えていないんだからな」



 そう話し合う二人は何事もないように検問所を素通りする。

 その際にシオンは腕を上げて本来なかった物を見せた。それは冒険者を証明する翡翠のプレートだ。これは冒険者組合が発行する正式な身分証明書だ。

 これがないと検問所で検査を受け、通行税を支払わなければないないため事前に奪っておいたほうが良いということをオウレンから言われていた。

 ついでに言えばもう一つ、ユイネの分もある。ちゃんと注視しなければ本人確認ができないものの、ここでは軽く見せるだけで通して貰える。

 それも冒険者というのは外に出て行くため、一々検査していられないらしい。



 さすがに血が付着した衣類のまま通ることはできないため、シオンはマント返して全身を包みこんでいる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ