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処刑から始まる神殺しの起源  作者: イズシロ
第2章 「物語る素性」
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狂喜と狂気

 全面から包囲するように横に広がった三つのチームは足早に木の影を移っていった。

 この雑木林は【フィンテル】で活動する駆け出し冒険者にとって良い小金稼ぎの場でもある。

 というのも雑木林は深く切り開いてもある一定の距離から数日と経たずに木が生えてきてしまうため、きりがない。

 そこから逸れた魔物が時折街の周辺に現れることがあり、人間の領域に踏み込んだ魔物を冒険者が定期的に減らさなければならない。無論見回りという役目も担っている。。



 そういった逸れた魔物を狩る仕事は新米冒険者が通る道でもあり、この場にいる冒険者も経験したことだ。だから深く入ろうとも迷うということもなければ気遅れるする理由もない。それも雑木林に棲みついているのが下級の魔物ばかりと決まっているからだ。



 最近は冒険者の増加に反して依頼の数も減り過剰なまでこの依頼に熱心になっている所為か、当分は魔物も姿を見せないと言われている。



 そんな勝手知ったる林に逃げ込んでくれるのはありがたいことだった。

 そう誰もがほくそ笑んでしまうほどに。



 剣を抜き前衛を務めるリーダーは横の仲間へと合図を出す。

 パーティの構成上、前衛としてソルジャーをリーダーが、更に前に踏み出した仲間は盾を前面に突き出し前進する。彼はこのパーティの要である、敵の攻撃を一身に防ぐガーディアンの役目を担ってくれている。

 そして背後の二人は回復を主とするメイジである神官魔法師、もう一人は唯一魔法具を持っているウィザードの魔法師が後方支援となっている。



 この役割分担が冒険者における理想的な構成になる。



 神官魔法師は聖印を宣誓時に教会から授与されるため、冒険者では稀少な存在だ。そのため基本は神官の代わりに中・遠距離として弓を扱うアーチャーか、多彩な攻撃手段を持つスカウトを入れる。

 なお、これは職業ではなく得意とする役職に関する分類だ。チーム内での役割名とでも記憶してもらえれば良いだろう。

 俗人には無縁の名称である。



 その為、神官がいる【ボエンス】では通常の回復薬を常時持参するがこのパーティに関して言えば少量で済んでいる。彼らが買えるような一般的な回復薬とは言え傷が完全に塞がるわけではない。その点で言えば神官が使える治癒魔法は重宝する。



 【ボエンス】のメンバーは前衛を置き、ゆっくりと進んでいた。後れを取ってはいるものの他のチームも視界に納まっている状況は彼らとしても良い位置取りだ。

 全体の動向がわかる代わりに一番手を取られてしまうが、その程度のことは寛容に流せる。どうせ報酬は山分けなのだから。

 後で文句を言われたとしても見知った顔ばかりだ。どうとでも言いくるめられるそれを言わせないために事前に情報と一緒に伝えている。



 そういった手柄云々で報酬の配分を掠め取ろうとすれば冒険者内では爪弾き物にされてしまう。



 だが、標的に逃げられないとわかっていても万が一西側の連中が遅れでもしたら意味がない。彼らも速度上げ身を隠すこともおざなりになった時だった。



「ぐっ……」



 そんな断末魔のような声が離れた場所から微かに聞こえ、リーダーは瞬時に自分のメンバーを確認した。

 しかし、フルフルと首を振る全員を確認し一先ずの安堵を覚える。



「今のはなんだ……」

「があああああぁぁぁぁ!!!」



 戦い慣れているおかげで【ボエンス】のメンバーは聞き逃しようのない叫び声と同時に一斉に身を屈めた。



「おい、何が起こっている」

「今の声は他のチームってことになるな」



 そうもう一人の前衛の男が考察する。



「やられたのか……」

「先手を取られたということか」

「でも……」

「あぁ、逃げられるよりはマシだ。声の方角的には、チッ【コモンズ】か」



 リーダーの男が舌打ちをするのも今回集められたチームの中でも良く情報交換する仲だからだ。お互いにBランクで生き抜くチームのリーダーということもあり馬があったのだが。



「どうするよ、リーダー」

「こんな情報はなかったはずだが、依頼書を覚えている奴はいるか?」



 神官魔法師の男がやせ細い腕を軽く上げた。リーダーが何を聞きたいかということを理解した上で小声で話しだす。



「シオン・フリード、依頼基準はランク不問になっていましたが」

「とするとヘマしやがったな」



 冒険者のランクを不問と明記された依頼書は最低ランクの受理を許可する物だ。つまりBランクの冒険者であれば何も問題はないはず。

 冒険者組合がある程度調査し、国が依頼したのであれば不備はないだろうとは思うが、長年の勘からなのか首の辺りがチリチリと嫌な予感を訴える。

 しかし、この額を聞けばその程度の予感全てが吹き飛ばされてしまう。



「行くかリーダー。白金100枚のためだ。女も入れれば……」



 「あぁ、ここで首を振ったら最高の笑い物だ」とリーダーは上体を上げて前衛の二人で走り出した。



 何かが倒れるような音が周囲から消え、次には奥から阿鼻叫喚が木霊するように連呼される。

 先頭を走りながらリーダーは「くそくそ、何が起こってやがる」と繰り返し怒りを吐き出した。



 密着するように【ボエンス】のメンバーが木々を抜け、低木を切り倒していく。



「一先ず西門から向かった連中と合流だ」

「「了解」」

「了解しました」



 最後に声が聞こえた場所までそろそろ着くだろうと速度を落とし慎重に辺りを窺う。

 ドンッと背後で倒れる音が鳴り、反射的に振り返ったリーダーと同時。



「うっ、ウワアアアアアァァァ!!!」



 ウィザードの男が隣を見て腰を抜かせた。恐怖に慄き神官へと全員の視線が固定される。

 そこには首のない神官が血を噴出させながら倒れていた。

 悲鳴すら上げる間がなかったのだろう。今の今まで一緒に走っていた仲間の悲惨な姿にリーダーはギリリッと歯を軋ませた。



「チクショー!! ぶっ殺してやる!」

「くそが、何をしたんだ」



 リーダーの男とは裏腹にもう一人の前衛の男が辺りを見渡しある物がないことに気が付いた。



(首はどこだ。一体何が……)



 Bランクとは言え背後に回られていたのならば気付かないということはない。そんな恐怖が男に走ったが警告を発する前にリーダーが走り出してしまった。



「くそ、リーダー!! 立てるか早くリーダーを追おう」

「は、はい」



 手を差し出し、魔法師を立たせるが仲間の突然死に未だ混乱しているようだ。無理もない。仲間が死ぬことなど珍しくもないとは言え、こんな最後は前衛の男でも初めてだ。

 最も冒険者歴が長いリーダーでも恐らく理解が追い付かなかったのだろう。



 そしてがむしゃらにリーダーが走り去っていた方角目指して進むとポツンと立ち竦んでいるリーダーの背中があった。

 すぐに警戒をしながらにじりより肩を掴む。



「おい! 独断先行なんてらしくないぞ! 少しはおち……」



 肩を揺すっても振り返ろうとしないリーダーに業を煮やしたが、彼が何に捕われるように視線を注がせていることに気が付き、二人はリーダーの視線の先を追い。



 絶句した。




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