マム〜もう一つの私たち〜
西暦2556年。人類はついに地球外知的生命体の存在が期待できる惑星を発見した。その星は青とも紫とも言えない海をもっていて緑に覆われていた。それだけではない、恒星の光が当たらない夜の部分から光を放っていることも確認したのだ。
人類が宇宙にでて550年ほど立ってようやく我々以外の知的生命体にあえるのだ。
本当にながかったと思う。
私は仲間の知らせで人工冬眠から覚めた時から興奮しぱなしだった。そして、ついにその惑星を間近に見た。あまりの美しさに足が震えた。青い海があり陸には緑がある。そして白い大気が巨大な玉を取り巻いていた。暗い宇宙にぽつりと浮かぶその星はまさに言葉にできない美しさだった。私たちの乗った宇宙船はどんどん惑星に近づいていった。
「いよいよ着陸ですね」
仲間が私にいった。12人しか宇宙船には乗っていなかったがみんな目をときめかせて着陸の瞬間を待っていた。一体どんな生物がいるのだろうか、本当に知的生命体はいるのだろうかさまざまな期待を背負いながら宇宙船は大気圏へと入った。大気圏に入ったからには、ここはもう宇宙じゃないんだ。もうこの星についたのだ。
宇宙船は森の木が途切れて空間になっているところに着陸した。空はまだ日が高いところにあるのにピンクともオレンジともいえない色をしていた。 また空にはクラゲのような傘をもった透明な生き物が浮かんでいて木も地球のものより貧弱そうに見えた。
大気の成分は奇跡的に地球に似ていて、重力は地球の8分の1。1日の平均気温は5℃。
私たちは、念のため防護服を着て外に出た。そして万が一に備えて銃ももってきた。
重力が希薄なせいか普通に歩くよりジャンプして歩いたほうが、早く移動できた。
しばらく歩くと少し開けた場所についた。
目の前を見ると町のように家のたった空間が広がっていた。また、一番奥には城のように立派な建物まであった。だが、どれも私たち人間がかろうじて入れるほどの大きさの入り口しかなく、家の大きさも人間の家と比べて一回りほど小さかった。そして町には人間とは違った生き物が歩いていた。
耳が長くうさぎのようだが、足は短く二足歩行をしていた。全身厚い毛皮で覆われ、服もまとっている。 そして、お互いその生きものどうしは、言葉のようなものでコミュニケーションをとっていた。
私たちはその光景を見たとき歓喜のあまり抱き合った。言葉をしゃべって家たてて、店のようなものもある。これは紛れもなく知的生命体だ。
私たちはその生き物を詳しく知るため1匹をサンプルとして持ち帰ろうとした。その時だった。
「やめなさい!」
人間の言葉で誰かがそういった。
だが、その声に覚えはなく、ふわふわした人間の声とは違う声だった。
そして、ちょっと下を見るときらびやかな豪華な服をきたその生き物が立っていた。仲間はそっと捕まえたその生き物を地面におろした。
「あなたたちは地球人よね。あなたたちのことはずっと昔から知っているわ」
私たちの前にいる豪華な服をきたその生き物がいった。
「あなたたちがここにくるのも私たちは知っていました。」」 私たちは何がおこったのかわからない状態になっていた。見知らぬ生き物から話し掛けられて、しかも地球の言葉で。しかも、私たちがここにくることを知っていただなんて?!
「まぁ、そのうちわかるわ」
私たちが驚いたような顔をしていると、生き物はそういった。
「あ、あなたたちはなんという生き物なんですか?」 仲間の1人が勇気を出していった。
「『マム』って昔からいわれてるわね
そして、惑星の名前は『トロコフォア』
でも、呼び方なんて関係ないわ〜どうせ深い意味はないんだし
まぁ、ゆっくり話しましょ」
マムはそういうと一瞬のうちに全く別の場所へと移動した。私たちはさらに驚いた。目前には私たちが普通に入れる大きさの入り口のある建物があった。
気が付くと夕方になっておりピンク色だった空はさらに濃い色にそまっていた。
「ここに…入るんですか…」
「そうよ、話すことなんかいっぱいあるから」
建物の中も私たち人間が普通に通れるほどの広さがあり、さっきの町の建物とは明らかに違っていた。私たちは、マムに案内されてある部屋へと入った。部屋につくまでもたくさんのマムたちとすれ違った。
部屋の中には、また私たち人間が座るにちょうどいい椅子と机があった。なにか明らかに私たちがくることがわかってて、そのために作られたような建物だ。
「そこに、腰をかけなさい」
いわれるがままに横一列になって12人が座りマムの方を向いた。
「わたしは、この星のあなたたちの星ふうにいえば、王と言えるかもしれない。テル・ゼイミーよ」
「なあ、ゼイミーさん
この建物はさっきの町の建物と違って明らかに人間サイズに作られているんだけど、これは、俺たちのために作ったのかよ?」
「さぁね、そのうちわかるわ」
マムのゼイミーはさらっと答えた。
「も゛〜なにがそのうちわかるわだよ全然わかんねぇよ」
仲間の1人が身を乗り出しながら怒鳴った。どうやら突然すぎる変化にノイローゼになってしまっているようだ。
「だいたい、なんでおまえなんかのいいなりに」
暴れる彼を彼の両隣の人は必死で押さえた。
「だから、いつまでたっても下等なのよ」
ゼイミーがぼそっといった。
「な゛に゛〜」
「こら〜落ち着いて」
両隣の人はさらに強く押さえた。
「行っておきますけど、地球の人間はもう絶滅したわよ」
ゼイミーがそういうとみんな固まった。さっきまであばれてた彼も一緒に。
「そんなぁ…」
「あなたたちが地球を出るときもかなり地球の環境は汚染されていたでしょ
地球の平均気温はわずか100年で14.5度もあがった
多くのかつて熱帯雨林だったところは砂漠化し多くの生物が絶滅していった
地球の温度の上昇に伴って多くの地球上の水はとけ、氷の大陸とも言われた南極はすでに緑に覆われる大陸に変わり、ツンドラ地帯や永久凍土に眠っていたメタンは大気中に放たれて温暖化に拍車を掛けた
また、氷がとけたことにより多くの氷に閉じ込められていたウイルスが眠りから覚め、新ウイルスに対して抗体のない当時の生物は大きな打撃をうけた
それは、人間も例外なく…
人間は自業自得だからいいがほかの生物はたまったものではない
でも、こういう環境の変化に一番弱いのも実は温室の中で何不自由なく育った人間なんだから
あっけないわよね
産業革命がはじまってからわずか450年ほどで人間は滅んでしまった
明らかに人間の産業革命は人間という種の寿命を縮めたと思うわ
とは、言ってももう種としてはかなり年寄りだったけど…
でも、あと5000年は多く生きられたと思うのに」
ゼイミーはさらっと地球人類の最後について語った。
「あ、でもあなたたち12人がまだいるわね」
「ゼイミーさん今のことは本当なんですか?」
「ああ本当さ」
わたしたちはそれでも人類が絶滅したなんて信用できなかった。あたりまえだよ。全く見知らぬ生き物にそんな、重いこといわれて信じられるほうがおかしい。
「ゼイミーっていったっけ
なんであなたはそんなことを知っているの?
私にはいまいち信用できないのだが…」
するとゼイミーは私たちの前に惑星の姿を立体映像で映し出した。その映像は物凄くリアルにできていて、まさにそのままずっと縮小したような美しさだった。
でもそれにみとれている余裕はなかった。海の上に浮かぶ大陸はほとんど茶色から灰色のような色をしていて、南極だけが緑色をしていた。
「かわいそうだが、これが現在の地球の姿だよ」
ゼイミーは少し悲しい表情を浮かべて言った。
かすかに名残のあるその大陸の形からもはや受け入れるしかなかった。中には泣きだすものまでいた。
「じゃあ、どうしてあなたたちはこんなに離れた地球のことを知っているんですか?」
わたしは、問いかけた。その問い掛けにゼイミーは一呼吸おいて答えた
「私たちマムはあなたたちが機械文明を築くずっとまえから高い文明をもっていました
機械文明は怖いもので遺伝子の変化で能力を手に入れていくよりはるかにリスクが少ないし時間もかからない
だから、恐ろしい勢いでさまざまなことができるようになっていく
そこに満足というものはないからほおっておけば、いくらでも技術は発達する
でもそんなときに忘れがちなのは、環境への影響、ほかの生物に対する影響よ
あたかも、惑星が一つのいわゆる知的生物だけのもののように勘違いして一人勝になってしまう
でも、実際生物の生態系は1つの大きな生き物のように連鎖しあっている
小さな歪みならすぐに修正できるけど、おおきな歪みはそうはいかない
それを考えないで自分の利益だけで技術を発達させていったらいつかは崩壊することなんてよく考えればわかることよ
このトロコフォアも大昔はマムが支配する惑星だった
でも、ある時気付いたの
このままでは私たちも含め全トロコフォアの生物が絶滅してしまうって
それから、私たちは技術を環境に向けたの
さっきもいったしあなたたちもよくわかってるとおもうけど技術の進化はすごいわ
ひとたび自然のほうに目を向けたら自然環境は一気によくなるわ」
そうなんだ…
たしかにそうだ自然環境をよくするほうに科学を向ければ驚くほど早く環境を整えることができたかもしれない でも、現実はそれができないで地球人類は絶滅してしまった。
でも、どうしてそこまでわかっていて私たちを助けてはくれなかったのだろうか?
「ゼイミーさん
じゃあ、そこまで私たちの星のことを知っていて未来もわかっていながら地球を助けてくれなかったんですか?」
私は、思ったことを素直に聞いた。
すると、ゼイミーはまた悲しい表情を浮かべて言った。
「私たちだって助けたかったわよ、同じ天の川銀河の一員として
でも、それはできない
ましてや、己が絶対だと勝ち誇っているときは何を言って聞かないわ
今あなたたちだってなかなか信用できなかったでしょ
だから、普通は自分たちで気付くしかないの」
たしかに言われて見ればそうだ。宇宙からいきなりきて地球の言葉をしゃべる宇宙人からこのままでは絶滅するからやめなさいなんて言われても信用できるわけがない。
でも、私はゼイミーの言葉に少し引っ掛かった。
ゼイミーは普通は自分たちで気付くしかないって言った。これは助けたことがあるって言うふうに聞こえた。
「ゼイミーさん
今普通は自分たちで気付くしかないって言いましたよね?
それは一回でも助けたことがあるって言うことですか?」
ゼイミーは少しドキッとしたように見えたが、しばらくして答えはじめた。
「私たちマムはこの星系の第4惑星のトロコフォアに住んでいる
でも、もう一つ内側のセイピという惑星にも知的生物が住んでいる」
私たちは驚いた。この星系には知的生命の住む惑星が2つもあるなんて!
すると、ゼイミーは私たちを屋上へと連れていった。もう、すっかり夜になっていて空には大小2つの丸い立派な衛星が浮かんでいた。
ゼイミーは屋上にあがるとひときわ明るく輝く青白い星を指差した。
「あれが、セイピよ」
私たちは、息を飲んだ。
「そして昔、あの惑星のペルンスと言う国に私たちの祖先いって科学技術を伝えた
最初は平和的に使っていたわ
でも、自分たちでもそれを進歩させていって大戦争になったことがあるの
私たちの伝えた技術は戦争の道具にされ多くの国を占領し、惑星の環境もどんどん汚染されていった
そんな時私たちの祖先は自分たちでまいた種なんだからなんとかしなくては!という思いから間違った技術の乱用を止めさせた…
今はもうとっくにいい惑星になっているわよ」
そんなことがあったのかぁ…
やっぱりどこの惑星でも科学の発達に伴う環境破壊に苦しんでいるんだなぁ。 そして、地球がそうだったように発達した科学は戦争の道具に使われてしまうんだなぁ。
でも、すごい。星系に2つの知的生命がいるなんて!
「で、その惑星の知的生命はどんな姿をしているんですか?」
「それが、おまえらとあまりかわらない姿をしているよ。
たぶん見分けなんてよくみてもつかないんじゃないか?」
「えー」
私たちは唖然とした。
こんなに離れているのにほとんど変わらない姿の生き物がいるの?
「おまえらのさっきの質問に答えてあげよう
この建物がおまえたちのために作った建物かを
答えははっきり言ってNO
でも、建物や机椅子がおまえたちのサイズに作られているのは、かつてここがセイピ人とマムが一緒に暮らしている町だったから
いまはこの町は外交だけでしか使われていないけど、今でも共同都市はこのトロコフォアにたくさんあるわよ」
もう、ここまで驚くとただ唖然とするしかなかった。それと同時に地球人の宇宙に対する小ささを感じた。
ゼイミーの話を聞くと本当にただ頷くことしかできないんだもの。
「そうだ
あなたたちセイピに行ってみなさいよここよりずっとくらしやすいから
それに、昔地球人が住んでいたという話もきくわ」
地球人が住んでいたと聞いてももう驚かなかった。 普通なら驚くはずだと思うが驚けなかった。ただその惑星にいきたいと思っただけだった。
「じゃ、決まりね
あなたたちを連れていくわあとこれを渡しておくわ」
それは、耳栓のようなものと丸いたまのようなものだった。
「それは翻訳機よ
まずスイッチをいれてこれを耳に入れればまわりの言葉が地球の言葉に翻訳されて丸いのが口の前にいくからしゃべると相手の言葉になってでていくわ」
着けた瞬間からまわりのマムたちの声が言葉として聞き取れるようになった。
「わたしは今自分たちの言葉でしゃべってるけど聞き取れますか?」
ゼイミーが言った。
「はい」
「じゃ、いくわよ」
そのあと私たちは宇宙船に乗るとセイピへ向かった。
いったいどんな生き物が住んでいるのかなどいろいろな期待をふくらませた。でも、その反面地球人類が絶滅してしまったことに戸惑いを隠せなかった。
地球の人類は絶滅してしまったのに私たちだけが生きているなんて少し滑稽なことだと私は思った。これで12人がセイピに行ってみんな死んでしまったら、これで本当にこの世から人類はいなくなる。でもだからこそ生きなければとも私は思った。
目の前にまた、青く美しい星が現われた。地球でキリストが生まれて2556年たった。今この世で地球人はわずか12人です。