02-1 事件の始まり(前編)_篠崎灯吏の初恋
彼女にふられた事を笑いながら友人達に話したらみんなで焼肉パーティーをやろうということになった。いい友人を持ったなと感じる今日この頃←貴様のことなんざどうでもいい
そんな二章の一話です←どんなだ
今から二年と半年ほど前 篠崎灯吏_中学二年生の十二月
部屋の外は冬の季節らしく雪が降り、空気を凍えさせている。そんな冬空の中、そんな事は知らんと言わんばかりに蒸し暑い部屋があった。暖房も効ていることもあるが、やはり一番の要因は二人が現在進行形で行っている行為のせいだろう。二人、少年と肌の白い外国人の女は、あるホテルの一室にいた。
その部屋のなかに二人の影が存在している。手足が使えないくせに目だけが異様に殺気だっている少年に女はかつてないほどの興奮を覚え、その綺麗な顔に妖艶な笑みを浮かべ彼の唇を奪った。少年は自分の口のなかに入ってきた舌を噛みきろうとするがそれは叶わなかった。女は残っていた少年の服を脱がし、自分も一糸纏わぬ姿になる。少年はまだ諦め悪く抵抗しているが、もはやその抵抗に意味などない。それどころか彼女の興奮を加速させているのだから、意味がないを通り越して逆効果だ。
ここまで説明すればどういう状況なのかだいたいの察しが付いていると思うが、敢えて簡潔にだが説明させてもらいたいと思う。
要するにどこにでも居そうな中学生こと少年_つまり殺人鬼の弟子こと篠崎灯吏(当時:十四歳)は手足を縛られ襲われていた。言うまでもなく性的な意味で。しかも、かなりがっつりと。
(何故だ。どうしてこうなったぁ!?)
全くである。
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こんなことになってしまった理由は、全て殺人鬼に原因があった。以下その際の二人のやり取り。
「ふざけんなッ!何で俺がそんな事しなくちゃいけないんですか!?」
「何でって私が賭けに敗けたからだろうがよ。お前は何を言っている」
「アンタの方がが何言ってんだよ!だいたい三百万ぐらいポンとアンタは出せんだろうが」
「確かにそうなんだがな相手方にお前を事を話したら、お前をすげぇ気に入ったらしい」
「えっと、だから?」
「だからな、灯吏。私の金じゃなくてお前の体で払え、ってのがアイシャのご要望なんだ。そんでもって私は敗けたから発言権がない。とりあえず弟子」
そして彼女はある方向に指を指し、愉快そうな声音で呟いた。
-お迎えだ-
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
灯吏はその後、女_つまりアイシャに前述したホテルに連れ込まれ上記のような状況に至った。
当時の灯吏は、現在の灯吏や名を捨てる頃と違いまだ常識や良識に捕らわれており感性も一般人らしい一般人であった為に、殺人鬼は、
「私の弟子は一生、女を抱けないんじゃないか?」
という見当外れな心配をして、師匠として自分の愛する弟子の為に気を使った(灯吏視点で見ればかなり有り難くない気の使い方をした)ためである。
分かりやすく言うと会話での殺人鬼の発言は全て嘘であり、本当は殺人鬼の方からアイシャに頼んだのだった。唯一の事実は灯吏の話を聞いたアイシャが本当に灯吏の事を気に入ったぐらいで、それ以外は賭けの話も、それに敗けた話も、その結果灯吏を売ることになったのも、全て嘘。
余談だが、この件が灯吏にバレて殺し合いという名の大喧嘩に発展したのは年を開けた頃の話である。
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「聞くと見るとは大違いとよく言うが、本当にそうなんだな。ますます君の事を気に入ったよ」
「……そりゃよかったですね」
「ああ、全くだ」
ピロートークと言える程の色気のある会話ではないが、アイシャは満足げな声音で灯吏に話している。対する灯吏はその真逆のような雰囲気を醸し出している。が、アイシャはそんな態度も可愛いと思っているため逆効果もいいところだった。
「そうだ灯吏、話は変わるんだが君は戦闘を殺人鬼から習っているんだろう?」
「?ええ、そうですけど」
ある意味当たり前過ぎる質問されて灯吏も困惑する。そんな灯吏に構わずやけに真剣な表情でアイシャは続けた。
「灯吏、もし君がよかったら私に戦い方を教わらないか?」
「へ?」
「君の戦い方はいささか殺人鬼に似すぎている。このままいけば君は殺人鬼の劣化模倣に必ずなる。それにだ、君は基礎を教わらずに応用だけを学んだような印象を受けた。恐らく殺人鬼が君にそんな教え方をしたんだろうな。だからな灯吏、私は君に戦い方の基礎を教えたいと思っているんだ、どうかな?」
「……そこまで冷静に分析されると怒りもでませんね」
抵抗する際の戦闘で感じた感想と共に、アイシャは灯吏にそんな提案をだした。灯吏はしばらく迷ったような表情を見せたが、その提案を受けることに決め、殺人鬼とアイシャの二人から戦闘を習うことになった。
思えば、この提案を受けたことが今回の事件の発端だったかもしれない。
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「相変わらず生活感がない部屋ね」
「野郎の一人暮らしなんてこんなものでしょう?」
「男の一人暮らしはもっと部屋が汚くて臭いものよ。なのに何なのよ、この無駄に無駄な物がない無駄なスペースだらけの部屋は。エロ本の一冊も無いの?」
「……会長、本題に入って下さい。でないと叩き出しますよ」
死体が残らない通り魔_藤間明彦と殺し合った二週間後の夕方。バイトが入ってなかったので久しぶりに手間がかかる夕飯でも作ろうかと思ったら、如月環つまり会長が家の前に立っていた。電話では話したくない内容だと言い、俺の家の前で待っていた。
そこまでは良かったのたが、
「他人の家を漁るな!」
「漁ってないわよ。灯吏君の好みを調べようとしただけだもの」
「本当に家から叩き出しますよ」
「つまり私と一緒にデートに行ってくれるの?嬉しい!」
「……会長、そろそろキレていいですか?」
ご覧の通り俺の部屋をエンジョイしていた。具体的にはベットの下を覗いたり、タンスを漁ったり、冷蔵庫の中身を見て今日の夕飯の献立を考えていたり(しかも当初作ろうとしていた料理を当ててきやがる)。これでキレない俺は多分いい人だ。うん。
「ごめんなさい灯吏君」
ふざけていた表情から一変した様子で俺の前に来た。その変化にやや戸惑う。
「……本題に入りたくなかったのよ、話したら灯吏君はきっと向こう側に行っちゃうから……」
「?それってどういうことですか?」
会長は悲しそうに俺に話しかけた。
「アイシャさんを殺した人が分かったわよ」
「……え?」
「そして、灯吏君。その子はあなたを狙っているわ」
「……環さん。詳しく教えてくれ」
「分かってるわよ。そのために来たんだもの」
大鋏よりも鋭い絶対零度の殺意をその瞳に光らせ、篠崎灯吏は自身の初恋の相手を殺したであろう人物についての話に耳を傾けた。
これは模造少女の嫉妬と羨望に、そして殺人鬼の弟子の初恋と不始末に、それら全ての決着をつけるための戦いだった。
最初の方大丈夫ですよね?直接的な描写を書かなかったから、セーフですよね?