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殺人鬼の弟子_《Who Kills Whom》  作者: K糸
彼らの生きる非日常 《Start Of Days 》
4/23

01-4 無価値な事実_光と銃弾の交差

4話です、そして思いの外長くなったので次話と分割します。

深夜 1時 とある廃ビルへの夜道


 その男の人生は進行形で無価値な物でしかなかった。少なくともその男_殺され屋 穂坂倭はそう思っていた。


 まず生きているものは出生や過程がどうであれ、死ななければならない。そして、死にゆくものは前提として生きていかなければならない。これはどんな生物でも共通の絶対の真理だ。

 だが、穂坂倭にはそれがない。出生、前提、過程、彼にはそれがあるが最後の『結果』だけが彼にはない。


 これは穂坂倭にとっての自身の人生における『事実』だった。死なない自分に意味はない。つまり自身の人生は意味がない。だから自分の(結果)を探した。


 ありとあらゆる可能性を試した。それを効率よく実行するために殺され屋なんてものを始め、続けている。だが、ありとあらゆる死に方も殺され方もまるで意味がなかった。


「だからだろうな。俺は殺人鬼アンタを追い続けた」


 そう。だからこそ、穂坂倭は求めた。最高の殺人鬼である彼女を。自身を殺せる、であろう存在を。自身の人生の『結果』を。


「それなのに、アンタの弟子と組むなんて。全く人生ってよく分からねぇ」


-彼女の弟子。あの少年にも期待していいだろうか?-


 この俺を殺せる者。ある意味では誰でもいいが、やはり殺されるなら殺人鬼(彼女)、もしくは彼女の後継者である篠崎灯吏あいつだろう。


-どうでもいいことを考えている場合じゃないな。今はやるべきことをやろう。死ぬことはその後で考えればいい-


 穂坂倭は夜道を歩きながら仕事に向かった。全て手筈通りにやればすぐに終わるだろう。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


午後8時 カフェ


 篠崎灯吏と穂坂倭は通り魔を殺すための話し合いをしていた。


「……作戦はこれで行くんだよな?」

「ええ。倭さんは予定通りに動いて下さい。マスターはその後の倭さんを頼みます。後は俺がやるべきですから」

「もし、灯吏君の言うところのおっさんが通り魔じゃなかったらどうする?口封じでもするの?」

「いや、それは恐らくないでしょう。倭さんの貰った手紙の内容を考えれば。それも罠ならば、罠ごと殺しますよ。それぐらいは簡単だ」

「……目下のところはこれでいいか。後はあのヒキニートにエサを撒かせればいい。そういう仕事はハッカーの得意分野だ。マスターも頼んでいいんだよな?」

「もちろん、二人の手伝いを僕にもさせてよ」


 三人は十分程度の打ち合わせを終えると、マスターはキッチン戻り、倭は疑問に思っていたことを口にした。


「そういえばお前、素手で戦うのか?」

「え?」

「いやだからな、凶器えものはないのか、って聞いてんだよ。今日の朝、素手でやってたろ。だから疑問に思ったんだよ」

「そういうことですか。ええ、ありますよ。ただ、あまり使いたくない。一人でり合うならまだしも、集団で殺るならあまりにも()()は不向きだ。それに普段から持ち歩いているわけでもないですからね。というか持ち歩くのに苦労するっていうか、まぁそんな感じですね」


-だからそれはどんな凶器えものなんだよ


 灯吏の持っているであろう凶器にそんな感想しか抱けなかった。それをもっと詳しく聞こうとした時


「はいどうぞ。二人ともご飯まだでしょ。腹が減っては戦はできぬ、だよ」


 そう言ってマスターがハヤシライスを持ってきた。


「ありがとうマスター。いただきます」

「……」

「倭君、食べないのかい?いらないなら僕が食べるけど」

「……食べるよ。いただきます」


 ハヤシライスはムカつくほど旨かった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


午後9時 とある会社員


 彼の同僚はもう帰っている連中が大半だ。しかも帰ってない奴も飯を食べに行ったり、タバコを吸いに行ったりでここにはいない。しかし、そんなことは知らんと言わんばかりに彼はパソコンで作業をしていた。彼がまだ仕事をしている理由。それは昨日の殺しの余韻よいんひたっていたためか、仕事があまりはかどらなかったからだ。

 缶コーヒーを片手に面倒そうなため息を吐きながら、書類を作るためにパソコンをにらんでいると画面がいきなりブラックアウトしてしまった。それだけならまだいい、いや良くないがまだ許容範囲になんとか収まる。


「……なんなんだこれは……一体どうなっている」


 画面に赤い大きな文字で書かれていた。


_モシモシ通リ魔サン、早ク来テネ待ッテルヨ。モシ、来ナカッタラ君ハ……


 死ヌ、そう書かれ次々に死とシの文字が画面を塗り潰していく。


「ば、バカな!な、なんなんだ!何がどうしたって言うんだ!?」


 彼が取り乱していると携帯の通知音が鳴り、携帯の画面を見るそこには、ある住所と深夜2時にそこに来るように書かれたメールが出されていた。


「……行く……か」


 しばらく思案し、男はそう言ってニヤリと嫌な笑みを浮かべた。十中八九これは罠だろう。しかし、自分にはこのチカラがある。負けることはない。いや、負けるわけがない。むしろ、こんなふざけたマネをするバカをなぶり殺せる。それだけで、まるで少年のような胸の高鳴りを禁じ得ないではないか。


「ならば仕事を急いで片付けないとな、フフ」


 どんな奴がは知らないが、これから殺しができる、そう考えたら仕事を進める手が早くなっていた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


深夜1時半 廃ビル前


「……ここが指定の場所……だよな?」


 ずいぶんと辛気くさい所に来たが私のパソコンをハッキングした奴は何処にいるのだろうか?いや、いるはずだ。いなければおかしい。


-だから、さぁ早く来い愚か者


 愚か者を待ち受けようと周囲を見渡そうとした時に自身の背後から声が聞こえてきた。制服を着た十代ほどの男だった。


「早いな、三十分も前に来るなんて。暇人というわけでもあるまいに」

「……君が私を嗅ぎ付け、ここまで呼びつけたのか?若いな。もう少し年上を」

「うるせぇよ」

「何?」


 途中で言葉を遮られて思わず声が怒りで震えてしまう。


「てめぇの声なんて一言たりとも聞きたくないんだよ。だから、とっとと死にさらせボケが」

「……吠えたな、クソガキが。今からお前を黙らせてやる」

「だから、てめぇが口を開くなよ。そして二度言わせるな、この変態野郎」


BangバンッBangバンッ,Bangバンッッ!!


 そう言ってその若者おろかものがいきなり拳銃を発砲してきた。通り魔は間一髪のところで拳銃の存在を察しビルの中に入り込み、銃弾を避ける。


「年のわりには足が軽いな、おっさん。なんか鍛えてるのか?」

「黙れと言ったはずだ」

「黙らないさ、アンタを殺すまでな」


 かくして戦いは始まった。夜はまだ明けない。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


-それなりにはやるようだが、貴様は私を殺せない。何故なら私が貴様を殺すからだ。だから、殺すのは貴様ではなく私だ-


 そう心の中で宣言すると、そいつの前に姿を出した。その瞬間、奴は二発、撃ち込んできた。それを回避して異能力チカラを使った。

 両の眼から薄赤い光を放つ。その一つが途中で鉄屑に当たり鉄屑を消滅させる。もう一つは銃弾で防がれた。


「これが死体が消滅する理由か……ずいぶんと物騒なことしやがる」

「外れたか。だが、次は当てる」

「やってみろよ、無駄だから」


 そう言って再び発砲。私はそれを消滅させ、ついでに若者も消し殺そうとする。若者はされをうまく避け、お返しと言わんばかりの発砲。ノズルフラッシュが暗いビルを一瞬だけ明るくし、お互いの姿を確認させる。


「一つ聞かせてくれ。アンタにとっての殺人ってのは何だ?アンタにとっての殺しは価値があるのか?」

「例えば本を読みたいから本を開き、例えば車を走らせたいから車に乗る。ではこれらは生きることに必要あるか?意味が存在するか?ああ、あるとも。意味も理由も大いにある。趣味がなければ人生はつまらない。そういうことだよ。私にとっての趣味でしかないんだよ、殺しなんて!」

「つまり殺すのは誰でもよかったと?」

「当然だ。そんなものを聞いてなんになる?それこそ意味がない」

「そうかよ、だったらアンタの殺しも価値が無いな」


 そう言って彼は撃つ。何度も撃ち続ける。


-ふん、無意味なことを-


 銃弾の間を縫うようにして彼に光を当てた。彼は避けたが、少しかすっていたのだろう。徐々にだが、若者が消滅していった。


「自分のためにしか殺せないか、無様だなアンタ」

「死人に何を言われてもどうとも思わんよ」


 そう言って消滅していくさまを見届けると、すぐに若者おろかものは消え去った。


-あれだけ言ったのに、あっけないな-


 そんな感想を抱きその場を去った。今回の殺しはあまり気分が良くないな。一つため息をつくとビルの外へ出た。


 硝煙の匂いが漂うビルの中では欠片も残さずに若者の肉体が消滅していた。まるでその肉体には価値が無かった、そう証明するかのように、ちりも残さずに消え去っていた。

彼らの生きる非日常、次こそ一応の終わりです。エピローグという名の伏線回収アンド説明とかはまだあるんですけどね。

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