01-3 二つの戦い_なお通り魔は関係ない模様
すんません、風邪が長引いて遅れました
3話です。ようやく戦闘シーンです。でも、ある事情があり戦闘シーンはほぼカットです。←よし、ぶちのめす
《Who kills whom》は『誰が誰を殺すのか』という意味です。書き忘れていました、すいません
「……」
街の人混みの歩く音、若者たちのしゃべり声、携帯のアラームに飲食店の挨拶、それらを朝のBGM代わりに会社へと足を進める。仕事へは歩きで行くことに決めているその男は、とても気分がよかった。
(こいつらは殺されるだなんて全く思っていない。私が少し本気を出せばすぐに死を迎えるというのに)
ああ、愉快だ。呑気に生きているこいつらに不意打ちで死の絶望を与える。一瞬だけ見える死にたくないという思いが顔に出るあのザマ。愉快で堪らない。胸が踊る。もっと見たいと欲してしまう。
「……フフフ」
-次はいつ殺ろうか-
男は誰にも気にとめられない程度に笑いながら街の中を歩いていった。
少なくともその薄ら笑いだけは誰にも気付かれなかった。
「ハハッ、誰だよ全く」
つまるところ、他の要因でその男はつけられていた。殺人鬼の弟子に尾行されていることなど知らずに笑っている。
ついでに尾行している方も実に嬉しそうで好戦的な笑みを浮かべていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
私ことこの俺篠崎灯吏は目の前の三十代半ばの男を絶賛尾行中だ。ちなみに制服なので多少目立っているがそんなことはどうでもいい。それより今はこの中背中肉のおっさん(?)だ。
(つか何でこいつ朝からこんな殺気を出しまくっているんだ?俺的には嬉しいが馬鹿なのかこいつは?アホなのか?警察に職質でもかけられたいのか?通り魔なのか?……おい待て通り魔だと!?)
「……まさかとは思うが通り魔か?」
だとしたら今から殺すか?いや、無理だ。この時間にこんな人混みの中で殺しにいくのはほぼ不可能に近い。それに通り魔じゃない可能性だってある。その可能性は限りなくゼロだと思うが。
(それにしたって)
この殺気はおかしい。今にも人を殺しそうな雰囲気を醸し出しているのにそれと同時にまだ人を殺さない、そんな矛盾めいた殺気だ。
(ま、どっちにしたってやることは変わらないか)
-この尾行でおっさんが通り魔犯人だと確信したら倭さんには悪いが次の被害者が出ないうちに始末する-
そう判断し尾行を続けた。続けようとした。
-ザ、ざざ・・・ザザザザ・・・ザザァァァッッ!-
頭の中に直接ノイズを叩き込んだかのような歩くのでさえ困難になってしまうほどの不快感に襲われる。くそ、なんだこれ。俺以外には影響が無いようだが、一体どうなっているんだ。
「まだ早いですよ。殺人鬼さん」
「ッ!?……なぁ、俺は君みたいなシュミワルコスプレ娘の知り合いなんざいないんだが、何故君は俺のことを知っている?」
「お-しえなーいよー」
俺の頭上に真っ黒のローブを着た中学生のような体躯の少女がいた。
-この距離で俺が気づけなかった、か。それよりここ何処だ
どうやら知らないうちに相手の手に落ちていたらしい。いつの間にか見たことない路地裏に連れられている。そしてもうひとつ、この女どういうトリックで浮いてる否、空中に座っているんだ。
しかし今は、はっきり言ってそんなことはどうでもいい。それよりあのおっさんを追うことが今は先決なのだ。だから
「失せろ。遊んでる暇が無ぇんだよ。また今度俺のトコに来てくれ。その時に目一杯お前と遊んでやる」
「やですよ」
そう言って少女はまるで空中に階段があるかのような歩き方で地面に降りて、楽しげに言った。
「わたしは今あなたに相手して欲しいんですよ」
「あっそ」
_瞬間
バァッンンッッ
ある程度本気でその少女に向かって地を蹴り疾走し、拳を握り降り下ろした。が、
「あれ?もしかしてその程度ですか」
-あなたって聞くほど大したことはないんですね
放った拳が何もない空中で止まった。そして頭の中で目の前の少女の声がまた響きだす。
「アハ」
-アハハハハハ
まるで鉄でも殴りつけたかのような衝撃と痛みを拳に感じつつ、後方へと距離をとる。声のせいで頭痛がするがそんなのは気にならなかった。
「あ~あ、もう少し期待してたのに」
-殺人鬼って殺すこと以外はダメダメですね
その言葉で俺はキれた。通り魔や倭さんのことが完全に頭から消えさり、目の前の少女をどう殺すかに思考を切り変えた。
殺人鬼は凶悪そうな笑みを見せ、少女に向かって小さく、「行くぞ」とだけ呟き再び疾走した。凶器は無いが殺れるだろうと根拠のない確信を持ちながら。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あの夜、奇妙な少年と一言だけ言葉を交わすと心臓あたりにナイフが刺さっていた。
「……」
「グッ、ガァッ!」
口から血の塊が吐き出され、背後からもう一本ナイフが突き立てられ、首の動脈部分を切り裂かれた。
依頼を達成したのに死んだせいで時間を無駄にしてしまい依頼料を貰いに行くのが遅れ、依頼料を値切られ、マスターに大笑いされたのは記憶に新しい。
(全額現金って聞いた時点で仕事断るべきだったな、あの野郎、やっぱり値切る気満々だったじゃねぇか)
今度からは全部振り込みにしようと自分の中で決定した。
ビルの屋上で5メートルほど先にいる眼鏡をかけた理知的そうな女に拳銃を向けながら殺され屋_穂坂倭はそんな回想をしていた。
「まさか殺され屋に銃を向けられるなんて思いもしなかったわ。いつから殺す側になったのかしら」
「俺は昔からどっちもだ。殺される側だし殺す側でもあるんだよ」
そう、と微かに聞こえた瞬間だった。女が一瞬のうちに自身の真後ろにあるビルの扉に向かって歩いていた。そして、自分の体が動かなくなっていた。
「お前、俺に何をした!?」
「死なないから問題ないわよね」
無視するようにそう言ってその女はその場を去った。
女が消えて数分後に襲われた激痛で俺は初めて殺されたと認識し、理解した。この殺される痛みは慣れないな、と軽く自嘲し意識を手放した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ッッ!」
「ラァァッ!」
確実に追い詰められていた。2、3分前に大したことがない、といったのにもうあと少し圧されたら倒され、殺される程に彼の拳が手刀が足刀が、眼前を駆け抜け、頬を横切っていた。だが、まだ彼に勝てる要素はあるのだ。落ち着いて全ての攻撃を処理すればいい。
「よぉ」
攻撃の手を休ませずに彼は尋ねてきた。
「何で、さっきの能力を使わないんだ?それとも使えないのか?」
「……」
彼の攻撃が激しさを増した。しかし答えない。あくまでもう後が無いほどに追い詰められたふりをする。実際はまだ余裕はある。それにこの策が失敗しても大丈夫だという保険もあるのだ、心配することはない。だから、安心して追い詰められた振りをすればいい。わざと隙を開けてあげればいい。
「ツゥァアァァッ!!」
彼が大振りの、それこそとどめだと言わんばかりの気迫で蹴撃を放つ。狙い通りだ。
蹴りの軌道線上の空間を固定化させ蹴りを止め、素早く拳銃を懐から取りだし、撃つ。勝った、彼を越えることが出来た、そう勝利に酔おうとしたそのときだった。
「馬鹿か、お前は」
「え?」
彼は銃弾を避けていた。その一瞬後に腹部に衝撃と鈍い痛みが走る。殴られ、吹き飛ばされ、背後の壁に叩きつけられる。
-分からない、どう避けたんだ。そんな暇与えなかったのに。
「何で?どうやって?」
「決まっている。お前のやろうとしていた策が読めた。ならあえてそれに引っ掛かればいい。そして、そいつを利用する。そもそも俺は蹴りを途中までしかやる気はなかったしな」
つまり、彼は蹴りのモーションを途中で戻して、そこから体の重心を動かすことだけで銃弾をかわし、即座に体制を立て直し、殴り飛ばした。
「はぁはぁ……かはっ」
「お前を一発ぶん殴って頭冷えたよ。さて、何で尾行を邪魔したんだ。俺の邪魔をしたってお前にメリットは無いと思うんだが」
「そんなの答えると思いますか」
「ああ、答えないだろうな。だからアンタが代わりに答えてくれ。そんな所でこそこそしてないでこっちに来いよ、バレバレだっての」
「流石にばれてたか。ならしょうがないかな、ここでひかせてもらうよ」
「逃がすとでも思ってんのか?」
「逃げられるとは思っているよ」
そう言って_どんな能力やトリックを使ったのかは分からないが_一瞬で少女と共に姿を消した。
追えないことはないが今は追わない方がいいだろう。隣のビルの屋上を見つめながら灯吏は盛大にため息をついた。
尾行を失敗、得た情報もそれなりにはあるがそれよりもあの二人に邪魔をされたことが痛手だった。あの二人に邪魔をされていなかったら、今日あいつが犯人じゃないかどうか分かっていたかもしれない。
今日は学校に行けそうにないな、そうぼんやりと思考しながら隣のビルの屋上を目指した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「無事ですか、倭さん」
「死んでないって意味なら無事だ」
「そもそもあなたは死なないだろ」
そりゃそうだ、そう言って彼は寝転がったまま言葉を続ける。
「こんな場所で何してるんですか」
「少しな、手紙を貰って呼び出されたんだ。通り魔についてのな」
「もろ罠だろ、それ……」
「まぁな。自分でもどうかしてたよ。だけど手掛かりらしきことが書かれてたからあえて来たんだ」
「それでこのザマだと?流石にカッコ悪すぎでしょ」
「……返す言葉もないな」
でしょうね、と言い切り倭さんに手を差し出す。倭さんはそれをつかまずに立つ。何の意趣返しだ、こんにゃろう。
「で、だ」
「ええ、分かっています。通り魔の目処は立っている、後は追い込めばいいだけだ」
「後は追い込めれるだけの証拠……か」
「それは作ればいい。期待してますよ、殺され屋さん」
「任せろ、依頼されたんだ。仕事はきっちりやってやる」
そう言って彼は屋上から去っていた。時計を確認して、午後からの授業は間に合うな、そう心のなかで呟き屋上を後にした。
-この通り魔事件の結末はだいたい予想が出来た。後はそこに持っていけばいいだけだ。-
この時、灯吏は重大なことを忘れていた。相手は死体を消滅させているということを。恐らくは物質を消し去れるであろうことを。
『彼らの生きる非日常』はあと1話+エピローグ+番外編+人物設定で終わりの予定です。次回が長くなったら分割するかもだけど