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殺人鬼の弟子_《Who Kills Whom》  作者: K糸
戦乙女の憂鬱 《Shrike And Valkyrie》
23/23

04ー1 汝は殺人鬼なりや(前編)_殺され屋のバイト

いや、本当になんて言い訳するべきなのか

すみません約1ヶ月くらいパソコン使えなかったけれどこれはあまりにも遅すぎた。本当にすみません

六月 『模造少女』から約一ヶ月後


 人の出会いと言うのは実に奇妙だ。


「へぇ、この人はアレかな?お前らの夜のオカズ?」

「ぅ……あ……ぁぁ……」

「あぁ?死んだのか?」


 先程、瞬時に眠らせた黒髪の女性の乱れた服装と髪形を直す。


 あの『黒い柱(あの女)』に干渉されて以来、自分の異能力が制御()()()()()()()。昔ならば使う際には死を覚悟しなければならないほどの負荷が掛かったというのに今はなんともない。

 今夜、異能力の試運転を行っているとこの状況ー女性が男達に襲われている現場ーを見つけ駆けつけた次第である。


「あぁ、良かった。本当にギリギリだったな。なぁおい。念のために聞くが、まだ彼女は処女(綺麗)なままなんだろ?」


 男は男達は答えない。それも当然だろう。

 十人の男達は残らず総て死んでいる。



喉を抉られ、


心臓を貫手され、


手足を千切られ、


首を飛ばされ、


腸を毟り出され、


頭を潰され、


内臓を棄てられ、


体を半分に斬られ、


骨を砕かれ、


血管を裂かれ、


 男達は死に絶えていた。


「この程度で死んだか……って我ながら酷いな。過剰過ぎたかね、こりゃ。やっぱり最近、調子おかしいわ。『黒い柱(あの女)』のせいか?」


 誰にも聞かれない言葉を呟き、女性を見つめる。綺麗な人だと素直に感じた。


「あー、この人どうしようか?こんだけ死体がある以上、警察とか頼るわけにもいかないしな」


 自宅。いや、アウトだ。俺にあらぬ罪が課せられる。生まれて以降、殺人と銃刀法以外の犯罪は犯したことがないのに。

 如月家。これもアウト。この女の人が俺や先生をはじめとした異常者に巻き込まれてしまう。しかも、この人の事をどう説明したらいいか分からない。

 マスターのカフェ。……悪くはないが、倭とヒキニートが面倒だな。

 勿論、一般人の友人達は却下以前の問題だ。こんな面倒に首を突っ込まさせる訳にはいかない。

 つまり、


「…………アレ、この状況って詰んでね?」


 そう、どうしようもなく詰んでいる。灯吏にとって一番選びたくない方法しか最早残されていない。


-殺害。


 脳裏にその方法が浮かぶ。


「うわぁ……選びたくねぇ」


 異能力を使用して一部始終を確認していた灯吏だから言える。この女性は何の落ち度もないただの被害者だ。ただ、帰宅していたらコイツらに襲われたと言うだけの一般人。はっきり言って、殺しにくいなんてレベルじゃないほどに殺せない。

 自分に向けて敵意や殺意があれば条件反射で殺せるが、この人は気絶しているだけ。しかも、今回に限って言えば眠らせる際に顔を見られたという点を除けば絶対に殺さなければいけないという明確な理由がない。

 加えて言えば、単なる被害者を自分のためだけに殺せる程灯吏は冷酷になりたくない、そう考えている。一般人なんて安楽死の目的以外で殺したことはないのに。


「ん……あぁ」


 彼女は目を覚ました。あぁ、不味い。今度はまともに顔を見られた。殺さなくてはいけないかもしれない。いっその事、この状況をエサにして黙っておくように頼む(脅す)か?多分、精神衛生上のダメージが一番少ないのはそれだし。

 思考が混乱しはじめた刹那、


「しゅ……らいく」

「…………ぁ」


 吐息のように小さく声が漏れる。まるで電撃をもろに浴びたような、そんな衝撃だった。


ー初めて本名を呼ばれた


 そんな訳が分からない感想が心を満たした。あぁ、もうどうでも良い。ここの死体も彼女を口封じなど先ほど考えていたリスクなど、総てがどうでもよくなった。


「全く、俺も酔狂なもんだな」


 彼女は再び意識を失うように眠り始める。よく、眠れるものだという場違いな感情を彼女へと向けて一先ず彼女を自分の部屋へと連れ込んだ。

 一晩だけ、共に居たい。訳の分からない感情だったが、悪い気はしない。


「なぁ眠り姫、キスしたら目覚めてくれないか?君と少し話してみたいんだ。俺を灯吏以外の名で呼んでくれ」


 自分でも何を言っているんだと思ったがそれさえどうでも良い。唇を奪おうとして止めた。そんなものは死体共(奴ら)と同じだ。

 彼女の服や肌を血で汚さないように抱き抱える。人の目に入らないように、自宅へと戻り。そして、


「あの、貴方は誰なんですか」

「俺は……」


 コレが彼女との初めての出会い。あぁ、綺麗な人だと思ったが声も綺麗だな。一目惚れだったよ、これは。


「俺は人殺しだよ。ただの殺人鬼だ」

「…………え?」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「それが俺と楓さんとの馴れ初めだよ。な、ボーイミーツガールなラブストーリーだろ?」

「な~にが、ボーイミーツガールなラブストーリーだ。ただのお前の殺人記録の一部だろうが」


 電車に揺られながら殺人鬼の弟子__篠崎灯吏の恋人の話を聞いていた殺され屋__穂坂倭。

 現在、二人は殺され屋の仕事の為にある場所へ向かっている。


「最近はお前絡みの面倒事に巻き込まれてたからな。なんか殺され屋の仕事も久しぶりだな。本当はそうでもないんだけど」

「誉めるなよ。死にたくなるだろ?」

「誉めてねぇよ。お望み通りぶっ殺すぞ殺人鬼の弟子」


 電車から降りても二人はこんなノリで軽口を叩き合う。そして、


「時間だ。依頼者の元へ行こうか」

「ヤー」

「……お前は何時からドイツ人になったんだ」


 二人は依頼人に__篠崎翔子(しのざきしょうこ)、灯吏の従姉妹である女性の元にたどり着いた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 ここから先は倭には語らなかった。まだ片付いていない事があるから。


「人殺し……?」

「……って言ったらどうします?」


 きょとんと呆けた顔を浮かべる彼女へミネラルウォーターを渡し、自宅を連れ込んだ経緯(八割程度捏造)を話す。


「そうなんですか。この場合はきっとお礼を言うのが道理なのでしょうね。ありがとうございます」


 愉快そうに笑いながらリビングへと戻る。


「一応、病院と警察へ行った方がいい。最初から行けと言われたらそれまでだが、貴女を助ける時に少し荒事をやらかしたせいで警察に頼れなかったんだよ。だから、申し訳ないが貴女一人で行ってくれ」

「ですが、それは……」

「まぁ、俺が怪しいとかは分かりますし、そういう疑惑はちゃんと警察に話しても大丈夫ですから」

「いえ、そうではなく。……その、服が」


 あぁ、そうか。悪いと思い服を脱がさなかったんだ。土や埃で服が汚れている。


「……少し大きいと思いますが女性用の服もあるよ。それを着て何処かで服を買うというのは?まぁ、色気も何もないただのシャツとコートですけど」

「それを使ってもいいんですか?」

「ええ、構いませんよ」


 美夜の服を引っ張り出し、一瞬こんな物で良いのだろうか逡巡したが他に手段もないかと開き直り彼女へと渡す。


「これを」

「ぁ、ありがとうございます」


 部屋を出てため息を吐き彼女へのこれからの対応を考える。


(最悪、警察行きだよな……)


 証拠抹消はマスターを頼っていないため不十分。指紋や毛は残していないし靴も捨てた。顔も徹底的に潰したし、財布や携帯も処理した。異能力で周囲に人が居なかったのも確認済み。だが、死体はあの場に残っている。身元が割れるのも時間の問題だ。それに今朝パトカーのサイレンが聞こえた。もうニュースでも取り上げられる筈だ。

 携帯のニュースを見ると昨日の事がトップ記事にあった。が、


「五人だと?」


 昨日殺した十人の半分も死体が確認されていなかった。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「久しぶりね!アカリちゃん」

「ええ、お久しぶりです翔子さん。あと、アカリちゃんは止めてください」


 作り笑いで対応する灯吏に倭は微妙な視線を向ける。何だその呼ばれ方は、そう言いたげに。


 篠崎翔子しのざきしょうこ。灯吏の従姉妹でありモデルをやっている女性。


「……アカリちゃん?」

灯吏とうりって読み方かえたら『あかり』ってなりますよね?だからアカリちゃん」


 依頼人である篠崎翔子が鼻歌混じりにコーヒーを淹れながら説明をする。


「お前、年上関連で苦労してんな」

「是非同情してくれ。それより翔子さん、彼に仕事の話を。

 じゃあ、倭さん。また後で」

「あれ?アカリちゃんコーヒーは?」

「いや、自分は倭さんを連れてくるのが仕事なんでそこまで気を使って貰わなくても結構です」


 自分は殺され屋と個人的な親好を持った一般人。それが今の灯吏の設定だ。後で録音を聞いて関わるかどうかを判断しろ、それが倭との打ち合わせで決めた事柄だった。


「それじゃ会いたくない奴に会いますかね」


 部屋を出て風に当たる。海が近いせいか少し風が潮っぽく感じる。


「出てこいエセ軍人。居るのは分かっているんだよ」

「……」


 そこにいたのはアインではなかった。


「お前、誰だよ?ハゲのマッチョメン?」

「……」


 目の前の存在は何も言わずに金色の鍵を見せる。


(あれは確かアインも持っていた鎧を召喚する鍵だったはず)


 認識した瞬間即座に距離を取り、投擲用のナイフを指の間に挟み計八本一直線に投げた。


「■■■・■■■」


 意味不明な発音を聞くと何故かそれの意味を理解する。()()()()()()


術式ルーン起動(ロード)


 光の盾とも言うべき障壁が一瞬でナイフを()()させた。


「ま、そうなるよな」


 そして、その現象をさも当然のように納得している自分がそこにいる。

 大鋏を抜き相手に見せびらかすが全く発狂する様子が見えない。精神が強いのか、元々狂っているのか。そんな値踏みをするように灯吏は二つ疑問を投げ掛ける。


「アンタは俺を殺す気か?」

「……」

「シュライク=ベーデ、その名前に覚えはあるか?」

「……」

「ハッ、無視かよ。態度悪ぃな」


 左手の大鋏を逆手に右手の大鋏を直手に構え、


「俺は今からアンタを殺すぜ?理由はないに等しいがな。アンタも武器を出したらどうだ?徒手空拳がスタイルか?それとも俺如きに武器は要らないか?」

「……」


 またしても無視。灯吏は一つため息を吐き疾走。間合いの中に捉え首を裁たんと左の大鋏を振るい-


「……分からないわ」

「あぁ?」


 首にクリーンヒットしたものの、血の滲みが若干出来ただけで、首を落とすどころか傷一つつけられなかった。そして、灯吏はそれも当然のように納得し受け止めている。


「どうして、貴方のようなどこにでも居そうな快楽殺人者にマスターが拘るのかしら。あの方の考えが読めないのはいつもの事だけれど、今回はかなり異質よ。答えて、貴方は彼の何なの」

「……」


 今度の沈黙は灯吏のものだった。

 今、灯吏は悩んでいた。この約二週間に渡るストーカー被害生活の中で一番悩んでいた。


(筋肉が隆々とした髭の似合うマッチョメンが女口調だと?)


 首に叩きつけた左の大鋏へ更に力を込めながら、下らない思考を巡らせ一つ結論を出した。


「そうか、これがギャップ萌えか」


 全く違う。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

マスターのカフェ


「いらっしゃい小春ちゃん」

「こんにちは。美夜さんいますか?」


 マスターが視線を向けた先に、だらけきった姿勢でコーヒーをすすりながらサングラス越しに何かの資料を眺めている美夜の姿があった。

 小春は呆れながら美夜へと話しかけた。


「美夜さん、篠崎は何処にいるか知っていますか?」

「ん~?灯吏?穂坂の仕事の手伝いで奴に付いていったが。あいつに何か用なのか?」

「……美夜さんには関係ないですよ」


 美夜の視線を避けながら一歩後退る。


「何だその微妙な言い方は?」

「まぁ。……ちょっとね」

「はぁ?」


 顔を上げ小春を睨む。小春はまた一歩後退り、いつでも逃げられるような体勢になる。サングラスを外しながら小春を見据える。


「おい、小春。テメェ何か隠してるな?」

「いや、何も?隠してないよ」

「ほう?」


 壁際にまで小春を追い込み頬に手を添える。


「言え。灯吏の何を知っている?」

「な、何で気になるの?」

「あれが私の弟子だから。そして、それから逸脱し始めているから。だから言え。奴の何を隠している」

「何か真面目な事を言ってるけど手がおかしいよね!?」


 抱きしめるように左手で後ろ髪を弄り、右手で這うように小春の体の曲線をなぞる。


「なぁ、小春。どうして私より胸があるんだ?」

「もはや内容がただのセクハラなんですけど!篠崎の事はいいんですか?」

「灯吏の事を聞くついでにお前を今から抱く」

「へ?」


 ()()いける人だとは知ってはいたが、まさかこんな唐突に来るとは思わなかった。


「マスター、穂坂のベッド借りるぞ。後でチップでも払うから」

「僕じゃなくて倭君に払ってね」

「ちょっと待て!言うから!言うから!!篠崎への用事言いますから!」

「ちっ……惜しかったな」

「何が!?」


 自分の貞操が危なかった事をもう一度意識すると、


「篠崎の恋人って名乗る人が家に来たのよ。今、こっちに連れて来ているんだけど」

「ぜひ会わせろ!」


 美夜の標的が変わったらしい。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 つまらない軽口を叩いた直後だった

 視界が赤く染まる。染まって染まって染まって。思考が軽くなり、体に翼が生えたような錯覚を覚え、背後や死角まで見えてしまう。

 戦うには万全だ。なのに余裕そうに振る舞えない。軽口を叩く気力が湧かない。何より猛烈に死にたい願望に駈られる。そして殺したい衝動が大きくなる。


「ーーーッ」


 ()()、だ。はっきりと自覚したのは学校の悪夢の後だ。だが、双子と戦った時からこんな兆候は少しだが存在した。

 右の大鋏を心臓部を目指して突き刺す。だが、それは体を後方へずらすことによって綺麗にかわされる。左を直手に持ち替え、一瞬も止まらずに連戟を開始。だが、


「何のつもり?」

「チッ……クソッ」


 自分の動きが全く噛み合わない。これまでのように戦うことが出来ない。何かに動きを制限されているような、そんな感覚だった。

 一瞬の隙を作られ、腹部に鉄拳が深々と刺さる。


「グッ……ガァッ!」


 よほど格上でなければ避けられる筈の攻撃も今は何故か避ける事も受け流す事も出来ない。口許から溢れている血が鬱陶しくてたまらない。


「クソが……何なんだよ、これは?どれだけ無様晒さなければいけないんだ」


 立ち上がり大鋏を再び構える。飛び出そうとした瞬間__


ーープルルルル……プルルルル


 無機質な着信音が響く。それに気を取られた隙に女口調のマッチョは居なくなっていた。


「……もしもし」

『よ、商談終わったぞ。少しお前にも手を貸して欲しいことが出来た。大丈夫か?ってか今お前は何処にいるんだ?まさか殺し合いしてるとか言うなよ』

「少し散歩してただけだ。問題ないよ。すぐにそっちへ戻る」


 電話を切り己の手のひらを見つめる。明らかに向こうは止めを指すことを躊躇っていた。それが何を意味しているのか分からない。


「生かされたか……連中何が狙いだ」


ーそして、次は助かるのか否か。戦えるかどうか


 大鋏をホルスターに直すと灯吏は倭の元へ向かった。

絶賛絶不調・灯吏君。

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