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殺人鬼の弟子_《Who Kills Whom》  作者: K糸
夢の中で見る夢を 《Breaking Dead Night》
19/23

03-4 悪夢の主_彼と彼女は蚊帳の外

せめて月一話


そんな風に頑張ったが無理だった今回。こんな速度で更新していたらゲオルギウスを書くのはいつになるやら。マジで更新速度を上げたい……

 小さく鋭くそして、速い。その突きの連射を灯吏は完全にはさばけずにいた。こんな攻防を繰返し灯吏の服からは血が飛び散っていた。


(やべぇな、速度の差がありすぎる。今はギリギリ読めているが、これ以上速くなったらアウトだ)


ーだが、俺の勝ちだ


 そんな確信に近い感想を覚える。口元を緩め腹部へと突くように蹴り跳ばす。あまりにも振りが大きいそれは難なく避けられる。

 アインはそんな灯吏に疑念を覚えていた。


(何故……)


 普通に考えれば素人でも分かる。灯吏()の力ではアイン()の力を覆す事は不可能。今の二人の力関係はそんなものだ。だが、灯吏は笑っている。まるで勝つのは己だと確信するかのように。


(どうする。速度ギアを上げて突き放すか……それとも一撃フェイントを放ってその隙に逃げるか)


 今回の目的は彼を倒すことではない。ならば逃げるのが賢明だ。そもそも、ここで倒せなくても二度と会う予定もない(あったとしても即逃げるが)。と、するならば


(退くか。まともに相手にしたらこちらも危険かもしれない)


 後方に一歩下がる。その瞬間、灯吏は一気に距離を詰めた。


(大丈夫。私より遅い。簡単に逃げ切れる)


 事実、灯吏の攻撃は当たらない。逆にアインの剣戟は灯吏体を数戟ほど掠める。その際に溢れた血で灯吏は体勢を崩し更にアインの攻撃をその身に受けた。しかし、灯吏の笑みは消えない。それどころか、更に笑みは深くなっていく。


「いやいや、驚いたわ。結構やるねぇ、アンタ。ホントに噛ませ犬には丁度いいや」

「……まだ、私を噛ませ犬扱いですか?一撃もまともに食らってないとはいえ私は本気であなたを……」

「だから、だよ」


 血の塊を吐き捨てながら言葉を遮った。殺気を肌で感じながら言葉を聞いた。


「殺す気がないんだろ?なら俺には勝てないさ」

「どういう……」


 首筋へと迫る鈍く輝く一閃を紙一重で躱し_


「えっ」


 _放たれた弾丸の様に吹き飛ばされた。


「バカな……ッ!?」

「手ェ抜いて格下()イジめて楽しかったか?ま、そりゃ場合によるが楽しいだろうな」


 着地したアインを見下ろすように笑う灯吏はそのまま一気に駆けた。その速度は先ほどの比ではなく、今のアインに迫るほどだ


「くっ!?」

「アンタはさ、俺に勝てないよ」


 銀の剣が灯吏の額を狙う。が、それは大鋏に挟み込むように止められた。


「うそ……」

「事実さ。まぁ、アレだ。アンタが俺に勝てないのはとても簡単な事だ。

 アンタと俺とでは純度が違うんだよ。要はアンタは不純過ぎる。戦うのに殺す気がない?バカかよ、テメェ。剣握って、振り回した上で、「逃がしてくれ。私はやることがあるのよ」だなんて言っても説得力の欠片もねぇだろうが」


 灯吏は淡々と言葉を紡ぎながら考えていた。


_何故、こんなにもコイツにイラついているんだ。

_何故、こんな思ってもないことがペラペラと出るんだ。

_何故、俺は___


「あぁ、話が逸れたな。要はアレだ。()()()()()()()()の業じゃ()()()()()()()()には勝てない、殺しきれない。実力の差だとか、実戦経験の量とか、修練の質だとかそんな下らないモンは関係ない。

 ただ単にアンタの殺意が不純だ。そんな程度の低い殺意ならどんな奴を相手にしたところで勝ちたくても、殺したくても何一つ何にも勝てないし殺せもしない。そういうことだよ」


 薄く笑むと大鋏をアインへ向ける。


「仮に殺せ(勝て)たとしてェ?そんな擦りきれた勝利の苦汁を飲んで何になる?それだったら永遠に敗け続ける方がマシだね」

「何で……」


ーだったら俺達は永遠に敗北者でいい。そんな価値の無い勝利は要らないだろ?誰だってきっとそうさー


「何であなたが彼と同じような事を……!?」


 アインの疑問へは答えずに大鋏を振るう。


「彼ってのが俺には分からない。だがな、そんな事より俺を殺さないと死ぬぞ?()()


 灯吏の瞳が流血のように赤黒く染まる。本人は気付いていないが軽く口元が嘲笑うように上がっている。


「前言撤回しますよ。やっぱりあなたは今ここで確実に殺します」


 アインは美夜の時とは別種の恐怖を感じていた。美夜はまだ大丈夫だ。アレは戦わずに逃げ切れば自然と消える類いの殺意だ。

 だか彼は違う。何もかもが危険すぎる。本来の目的を無視しなければならないほどにこの少年はここで始末しなければ駄目だ。


「ククク……クハハ……」

「…………」

「アッハハハ、ハッハハハハハハハ!!クハハ、アハハハハハハハハッッッ!!」


 腕を広げ喉から血が出らんばかりに狂い笑う。大鋏を血が滴るほど握りしめ、その視線は真っ直ぐにアインの向こう側を見ていた。


「アァ……」


 腕をダラりとおろし___姿を消した。


「■・■・■・■」

「え?」

Rest(レスト) In(イン) Peace(ピース)


 アインの腹部に灯吏の一撃が放たれる。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 突然の来訪者と言うだけでも驚きだが、その後ろが問題だった。


「倭くん」

「分かっている。あのガキが親玉だろうな」


 数十、いや数百の化け物を従えさせている。


(恐らくあのガキ自体は大して強くない。あまりにも体つきに無駄が有りすぎる。殺しなんざ見たこともヤったこともないんだろうな。なら、問題は化け物共(こいつら)か)


 銃を向けながら倭は思考する。銃弾一発では化け物共(こいつら)を殺しきれない。しかし、今装填されているのは二発。背後には非戦闘員が数名。とてもじゃないが倭一人ではどうしようもない。逃げるための時間稼ぎにもならない。なれたとしても二、三分が限界だろう。


「……ァハハ」


 そんな倭の思考を笑うように化け物を率いる少年は小さく声を漏らした。


「何、ニヤついてんだクソガキ」

「うるさいなぁ!!お前に話しかけてないだろオッサン!!」

「誰がオッサンだッ、テメェ!!まだ22だ!!」


 キレる所はそこじゃないだろ、と倭に内心でツッコミを入れつつマスターは少年に話しかけた。


「君が今回の黒幕、そう考えて良いのかい?」

「そう思いたいなら、そう思っとけば?そんなのどうでもいいし」


 生意気な口調でマスターに答え化け物を一体マスターへ向かわせた。が、


ーパンッパンッ!!


 マスターに向かってくる化け物の両目を潰す。そして、それで弾は切れた。服の中にまだ数発あるが装填する時間がない。


「マスター、悪い。今ので弾切れだ」

「嘘ぉ!!」


 ポケットに手を伸ばすがそれより先に化け物から銃を撃たれ弾き飛ばされた。


「無様だね、オッサン」

「……こぉンのクソガキが……」


 倭は素手での戦いは基本的にかなり下手だ。素人相手ならどうとでもなるが、こんな化け物にはほぼ無力に等しい。と言うか、素手で化け物(こんなの)を圧倒する灯吏と美夜がおかしいのである。


「じ、じゃじゃあ行こっか。ひ、緋室さん」

「おい、嬢さん。知り合いか?」

「いや知らない。この人ホントに誰?」


 突然呼ばれた小春は驚きながら否定する。その様子を見ると突然キレた。


「ふ、ふざけるな!!僕の事を知っているだろう!?あの篠崎って奴から聞いてるだろ!」

「……小春ちゃん。まさかとは思うけど彼は例のストーカーなんじゃないか?」

「いや、マスター。流石にそれは……」

「何でアンタらがそれ知ってんだよ。ふざけんな」

「うわ、ドンピシャかよ」


 灯吏から聞いた話が合っていたらしい。事情を知らない学生達は疑問符を浮かべているが気にしている暇がなかった。

 化け物が襲いかかってきた。


「ッ!?マスター!!そいつら連れて逃げろ!!」


 倭は素手で一体を押さえる。しかし、左右から腹部と肩を噛まれる。


「皆、こっちに!!」

「でも、穂坂さんが!」

「大丈夫だ!急いで走れ!!」


 血を溢れ流しながら倭は叫ぶ。全力で逃げろと、振り向かずに走れと。一メートルでも遠くに行け。でないと死ぬぞ。その意味を込め倭はマスターに学生を託し化け物を殴った。


「バカだね、オッサン」

「バカでいいさ。ここでこんな風にカッコつけないと俺の大好きな殺人鬼さんに失望されるんでね」


 手が千切り落ち失神しそうな程に血が滴る。


(詰んだな、こりゃ)


 ここで「不死」が適用されるかは分からない。なら、永遠に目が覚めないかもしれない。


「まぁいいや。バイバイ、おっさん」


 化け物を数体ほど残し、少年は教室から消えた。倭は己の末路を知り悔しそうに呟く。


「ちくしょう……灯吏か日暮に殺されたかったな」


 その言葉を言い終えると穂坂倭は完膚なきまでに喰われた。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ガァッ!!」


 アインの口から血が溢れる。


(口の中を切ったか……でも、何ですか今のは!?)


 灯吏がおこなったことは酷く簡単で原始的だ。


ー接近して大鋏のグリップ部分でフルスイング。ただ、殴り抜けるだけ。


 それが何故避けられなかった。しかも、アインの疑問はそれだけに尽きなかった。


(あり得ない速度で身体能力が急激に上がっている。それも私を確実に殺せるレベルまで。

 それだけじゃない。恐らくの域を出ないが彼は……)


 目の前の大鋏を持つ殺人鬼が己へと閃光のように疾走する。大鋏を逆手から直手に持ち替えアインの剣戟と撃ち合う。

 間合いではレイピアを使用しているアインの方が有利だが、手数は二振りの夫婦剣(大鋏)である灯吏の方が上だった。

 しかし、それは問題ではない。問題なのは


「■■■ーーーッ!」

(彼は先刻さっきから何を言っているんだ!?)


 聞き取れない。理解できない。分かることは一つ。


「クハハ、ハハハハハハッ!!アアァァァッッッ!!」

(やっぱり私は彼に遊ばれている)


 確信できた。彼はは既に私を越え始めている。いや、もう越えているだろう。

 アインの認識は間違えていない。唯一の救いは灯吏が灯吏自身に慣れていないという点だけだ。だが、それも時間の問題。現に灯吏は自分の力を正しく認識し調整している。


「よぉ、そろそろ本気だせよ。先生にも言われたんじゃないのか?出し惜しむな、って」

「出し惜しんでいる訳ではありませんよ」

「ふーん、じゃあいいや。くたばれ」


 体を回転させながら大鋏を振るい衝撃波で切り裂く。アインの防御は間に合わずに()が幾らか裂けた。そして、その隙を見逃すほど目の前の殺人鬼は甘くない。


ーキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッ!!


 またしても乱戟戦になる。だが、今度は灯吏が押していた。リーチをスピードで誤魔化し、手数を更に増やしてアインを追い詰めていく。


「で、どうするよ?この状況」

「……」


 背後には階段上に飛ぼうとも下へ落ちようとも一瞬だけ攻撃ができない体勢になる。その瞬間一撃で命を奪われる。前方に飛んでも先刻さっきの繰返し、いや、今度は完全に押しきられるだろう。逃げるにしてもまだ、仕事を達成していないためそれもできない。

 つまり、アインは何でもないと思っていた少年のせいでかなり詰んでいた。


「一つ尋ねても?」

「どうぞ」


 アインは時間稼ぎのつもりの__そして、この戦いの最中に消えなかった自分の中の疑問を尋ねる。


「あなたは()ですか?」

「あぁ?」

「似すぎている、私の主に」

「……」


 灯吏は一つ沈黙を置くと、悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かべ脳裏を掠めた名を名乗った。


殺戮者(シュライク・ベーデ)


 先に駆けたのは灯吏。アインは迎撃の体勢をとる。灯吏は真っ直ぐに、アインはカウンターで。それぞれ一撃で決めようとしている。

 そして、その一撃が入る前に


「何?」

「え?」


 二人が立てなくなるほど大きく架空の学校(悪夢)が揺らぎだした。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「……バカな」

「弱いな、やっぱり」


 弱体化はさせた筈だ。なのに、何だこの女は。


「ふざけるな……」

「あぁ、済まない。ふざけるのは得意だがこれ以上は少々厳しい」


 女は笑いながら答える。二歩ほど後ろの僕の彼女が安堵のため息を着くのが分かった。それと同時に先ほどの()もこの僕を嘲笑う。


「弱ぇ弱ぇ。コレなら灯吏に譲らないでアインちゃんとバトってた方が楽しかったぜ」

「ここはボクの世界なんだぞ!ボクが一番強いんだ!偉いんだ!!」

「いや、お前もお前の化け物も雑魚だよ」


 長刀を振りかざし女は死刑宣告を告げた。


くたばれ。屑野郎(レスト・イン・ピース)


 長刀が悪夢の一部分を薙ぎ払った。悪夢の終わりは直ぐそこだ。

次回は美夜さんのターンからスタート。あと、灯吏君無双もあるよ♪

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