03-3 特に理由のない殺意達_閃剣の戦乙女VS殺人鬼+弟子
Twitter始めました。活動報告からどうぞ。殺人鬼の弟子は更新する二日、三日の前にtwitterの方でお知らせします。あと、partyblood'sが遅れるときもそちらでお知らせしますので。
今後ともこの駄作者に生暖かい応援を←生暖かいってなんだよ
ーガキンッ!!、キィンッ!!
「ハアッ!」
「パワーは無いがそれ以外は中々上等だな。良いことだ」
アインと美夜が打ち合う剣戟の音が架空の学園に響く。もう何百合と打ち合っている。
(何なのこの人!?あまりにもデタラメ過ぎる!!)
前提として美夜の戦闘技術はそこまで高くない。だが、殺気の質と量が桁違いなのだ。どの攻撃にも極限の殺意に溢れている。防ぐ度に魂の一部を殺されている、そんな錯覚さえ覚える。
(フェイントがフェイントの役目を果たしていない。この人の剣戟は全て必殺だ)
美夜は不器用ながらもフェイントや緩急をつけているが、それは本人が自覚していないが無意味だった。
ー全戟、全弾、総じて必殺
それが殺人鬼・日暮美夜の戦い方だった。
…………本人は無自覚ではあるが。
「はぁ」
美夜の口からため息がこぼれる。心の底からつまらない、そんなため息だ。
「なんですか、いまのため息は?」
「なあ、出し惜しむなよ」
美夜は長刀を閃かせるように寄ってきた化け物達を一瞬で斬り崩した。
「お前は何かを隠している。お前の力はそれだけじゃないだろ。それを出せ。この私にそいつを魅せてくれ」
鞘を捨て両手で長刀を構える。美夜は本気で殺し合うつもりだ。
(確かに、『鍵』や『解理』、それに『術式』を使えばこの人を倒すのは恐らく簡単……ではないにしろ可能だろう。だが、こちらも無傷ではすまない筈だ)
瞬間、白刃が眼前を横切り前髪が数本落ちた。
「惜しい。あと、ちょっとだったのに。それより、その髪型の方が似合っているぜ」
(いや、絶対にわざとだッ!!!この人は思いきり私を挑発している)
「あっ、やべぇ。お前マジで萌えるわ。ちょっと脱いでくんね?なるべく優しくするから」
「変態ですか、あなたはッ!?」
このまま戦い続ければ確実に殺される。そんな未来が用意に想像できる。だが、それでも本気で戦おうとしなかった。
「生憎ですが、私は早くこの『解理』を発動させている人物を止めなければならない。退いてください。と言うか私に絡まないでください」
「嫌だよ、寂しいな。そんなに連れないこと言うなっての。そんな事言うと、
ーーお前を殺し明かしたくなるだろ?」
まるで全身の血が凍り付くような殺気と微笑だった。
怖い。この人が恐ろしい
純粋にその感情しか出てこなかった。
(一撃で決めよう。それでダメならここは退こう)
「ダメだな。予想以上につまらん」
「……何がですか?」
美夜は長刀を床に突き立てると素手で構えを取った。
「いい塩梅のハンデだ。来いよ。こうでもしないと殺る気がでないんだろ?殺す瞬間以外は手ェ抜いてやる」
美夜の挑発にアインは静かに、そして確かに憤った。
自分が見下されていることについては特に何とも思わないが、この女性の存在を彼女は許容できなかった。
「ふざけるな。舐めないでください。
気が変わりました。本気であなたを倒します。剣を取ってください」
「そうかよ、なら来い。そして、安心しろ。お前の剣じゃ私に届かない。
―安らかに眠れ」
美夜は床から長刀を引き抜くと一直線にアインに特攻した。アインもそれ呼応するように美夜に飛び込む。
そして二人の一撃は__
―ガギンッ!!
「おい何やってんだ、先生」
見事に防がれた。
「あン?」
「なっ!?」
そこには大鋏で二人の一撃を受け止めた殺人鬼の弟子がいた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
SIDE 倭・学生
「ギャギャギャギャ!!」
「さっきからウゼェンだよ、テメェらッ!」
銃口を化け物の口へ入れそのまま引き金を引く。外側は強いが内側はそうでもないらしい。倭は先程からその方法で化け物達を倒している。
「取り合えず、そこに入れ」
なんとか化け物達から逃げ切り他の教室へ移り休んでいた。全員、息を切らしながら座り込んでいる。
「やべぇな、これ」
倭の言葉はこの状況を端的に現している。
誰ももう走れないほどに疲弊していた。全員が肩で息を切らしながら俯いている。もう、ダメだ。そんな雰囲気を醸し出している。
「そういえば、穂坂さん。篠崎は一緒じゃないんですか?」
「灯吏?いや、一緒じゃないぞ。アイツもこっちに来てればいいんだが……どうだろうな?」
暗い雰囲気をまぎらわす為の話題はここに居ない人物の事だった。
もっとも灯吏(と美夜)が来ているであろう事を察している倭およびマスター、環はその二人と早いこと合流したいと考え、灯吏が来ていないと思っている学生と教師は灯吏は察しがいいからなんとかしてくれるのでは、と藁にもすがる思いで期待していた。
ーガラッ
「ッ!?クソッ!またか!?」
「いや、私だって穂坂さん!銃おろして!」
「緋室ちゃん?何で?」
小春の出現に倭は警戒し、香澄は疑問を口にした。
「分からない。でも、そこは皆も一緒だと思うのだけど」
「まぁね。それより、もしかして小春ちゃんは灯吏君と一緒じゃないかい?」
「篠崎なら少し前まで一緒にいたよ」
その言葉を聞くと全員が大小さまざまな反応を示した。
「やっぱり灯吏の奴もいるのかよ。それで?アイツは今どこで何やってんだ?」
「この空間について調べていると思います。あと、多分ですけど美夜さんもいるはずですよ」
「みや?」
美夜の事を知らない環を除いた学生達はその人物に疑問を感じた。
「ねぇ、緋室ちゃん。その『みや』って人は誰?」
香澄が小春に尋ねた時、
ーガラり
新たな人物が唐突に教室の中に入ってきた。
数十体の化け物を引き連れて。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「灯吏か。どうした?こんな良いタイミングで現れやがって」
キリキリと長刀に体重を乗せながら美夜は己の弟子に黙しながらも問いを投げる。
ーお前は何故ここに居る?邪魔をするなよ、殺すぞこのクソ餓鬼が
何よりも雄弁なその沈黙に答えるのは
ーヒュウンッ!
これを好機と考えたアインの鋭く光る突きの一閃だった。
だが、それは_
「邪魔だ、ハイカラ軍人」
灯吏の大鋏による打ち落としで弾かれた。
「ッ!?なッ!」
驚いているアインを尻目に灯吏は美夜と向かい合った。
「灯吏、何のようだよ。今、お前と殺り合う気にはならないんだ。そこを退いてくれ。彼女は私の獲物だ」
「そうは言うがね、先生。俺も丁度いい噛ませ犬を探してたんだよ。今の自分の実力を正しく自覚するためのな。んで、今先生と殺り合っている彼女。良い塩梅だとは思わないか?」
二振りの大鋏を交差させるように構えながら、美夜の言葉に応じた。美夜は舌打ちをしながら弟子の言葉を返す。
「あー、あーはいはい。そうかい、そうかよ。テメェ灯吏、反抗期か?この野郎。今なら優しくお仕置きしてやるから素直に謝とっけよ」
「ハッ、アホなこと抜かすなよ先生?いつまでも俺をボコれるなんて思うなよ」
まるで世間話のノリで互いに殺気をぶつけ合う。二人はどのタイミングで飛び出そうか距離と時間を測っていると、
「あなた達は本当に何なんですか」
静かに二人へ疑問を投げる。その声音には確かな怒りと僅かな恐怖があった。それと同時に沸き立つような闘志も。
「邪魔をしないで下さい。私には遂げなければならない目的があるんです。あなた達に構っている暇なんて無いんですよ」
「「そんなものは知らん」」
二人の声は重なる。その声に込められていたのは共に嘲笑だった。
「おいおいアインちゃん、色々と勘違いするなよ?今の君が遂げなければならない事は私たちをどうにかして突発する事だけだろうが」
「概ね先生に同意だな。俺もこんな訳の分からない場所早く出たいが、これを逃すと次がいつ来るか分からないんでね。ほんの数分でいいんだ、付き合ってくれよ噛ませ犬さん」
規格外の長さを持つ一振りの長刀が、夫婦剣のとも言える二振り大鋏が、閃剣に向けられる。一人ならまだしも二人になっている今、逃げるのは不可能に近いだろう。
「だから、私はお前は絶対に逃がさないぜアインちゃん、安らかにくたばれ」
「ま、少し遊んでくれよ。俺に殺られたらその時は許してくれ、安らかに逝けよ」
二人からの殺害宣言を受けてアインは
「相手に出来るかぁぁぁぁぁッッ!!」
逃げ出した。誰だってそうするだろう。そして、当然二人の殺人鬼は
「待てやあぁぁぁ!!」
「逃がすかよッ!」
全力疾走で追っていた。無駄な所で無駄に力を使い過ぎである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
どれほど逃げたかは分からない。だが、二人の姿と気配を感じない。己の『解理』を用いても二人は見つからなかった。ならば、少しは安全だろう。
アインがそんな安心をしている時_
『どうだ?仕事の具合は』
通信機と兼用の『鍵』から声が響く。自分が主だと仰いでいる人物の声だった。
「ッ!?……なんだ、マスターでしたか。驚かさないで下さい。こちらは結構まずい状況なんですから」
『へぇ、お前が苦戦しているのか。どうする?増援はいるか?』
「……いや、大丈夫です」
マスターとの会話を終えようとした時、
ーガガガアアァァァァッッ!!
隣り合った教室ごと長刀が抉り裂き、
ービュゥンッ!
二つの大鋏がブーメランのように飛来してきた。
(バカな……!?)
『解理』を使っていた。それで索敵していた。なのにこの二人に気付けなかった。分からない。どういう事だ?
いや、本当は分かっている。限りなく低いが可能性は一つだけある。
「よぉ、鬼ごっこはもう終わりか?」
長刀が大きく振るわれる。その風切り音を耳元で聞きながらアインは一つ推測していた。
(彼女は恐らく違う。もしも彼女が『解理』を持っていたのならそれを応用して私の動きを読む筈だ。ならば__)
あの少年の方か。彼は何処だ。何処から仕掛けてきた?
大鋏が飛来して来た方を目視すると、そこには
ー腕を振るい上げ体のど真ん中を穿たんとする少年の姿があった。
その一撃は大きく空振り灯吏は体勢を崩す。その隙をアインは突くが、首の動きだけで灯吏はその攻撃を避けた。口許に僅かな笑みをのせながら。
あぁ、そうか。そんな風に確信できた。考えうる想定内の中では最悪な結果になってしまった。
「何者ですか?あなた」
-間違いない。彼は私と同じだ。
「お前こそ何だよ。エセ軍人」
私と同じ『解理』を持っている-
アインは懐の『鍵』へと手を伸ばす。恐らくコレがなければ勝てない。
ゆっくりと『鍵』を回した。その様を大鋏を拾いながら見ている。
「……へぇ、そりゃ鎧か?」
金と銀の装飾が特徴的な黒いコートが召喚されアインはそれを纏った。美夜はそれを見ると一つ確認した。
「お前、双頭の戦狗か?」
「……あなたは何故、我々を知っているんですか?」
「昔『ライル』と色々あってね。お前らに誘われたこともあるんだぜ、私」
そう言うと美夜は灯吏の肩に手を置いた。
「灯吏、やっぱりこの戦いお前に譲るわ」
「あ?先生、いきなりどうしたよ?」
美夜は長刀を納めつつ灯吏の質問に答えた。
「ん~、まぁ、気分だよ。ライルの部下ならそれなりにやるだろうから期待しとけ」
「ちょっと。あなたはマスターとどんな関係ですか」
アインは美夜を追おうとするが、灯吏に阻まれた。それを見つつ美夜はアインに一つ答える。
「彼からしてみれば私は意味のない約束を交わしただけのただの行きずりさ。話した時間は十分も満たない程度だよ。本当にそれだけの関係だ。もしかしたらライルは私の事を忘れているかもしれないぐらいだよ」
じゃあな、と言うと美夜はすぐにその場から去っていた。残ったのは、
「じゃ、仕切り直しといこうか?」
「何度も言わせないで下さい。私には遂げなければならない仕事があるんです。それに彼女から話も聞きたい。あなたに構っている暇は無いんですよ、少年」
それに、とアインは言葉を続けた。
「恐らくですが、あなたでは私に勝てませんよ」
「………へぇ、そりゃまた随分と言うね」
灯吏は何処か面白がるように笑う。
「そこまで言うならちょっと試させてもらおうか、戦乙女」
一瞬で距離を詰め小さく、鋭く腕を突きだす。だが、それは当たらなかった。理由は単純に速度の差だ。今のアインの方が灯吏よりも圧倒的に速い。
(原因はあの鎧かな?)
軽く相手の事を考察しているとこんどはアインから打って出てきた。単純な速度では勝てない。ならばその速度を無視すればいい。無視出来る状態になればいい。
灯吏は異能力を発動させ相手の出方を調べた。手に持っているレイピア状の剣を真っ直ぐに、
「……え?」
真っ直ぐに_何処を狙っているんだ?
「ッ!?」
一瞬反応が遅れ、心臓部へ向かってくるレイピアを大鋏を抜き迎え撃つ。
ガチガチと音を立てながら鍔ぜり合いになった。
「これがあなたの勝てない理由です」
「おい、どうゆう原理だ?」
アインの蹴りをバックステップで避ける。それを読んでいたのか更に追撃を仕掛けながらアインは説明した。
「極々、簡単なことですよ。あなたが私と同じ『解理』を持っているから」
「……『解理』?」
「全く同じ能力同士はお互いに潰し合うらしいですからね。それに、私の場合はあなたが私に『解理』を発動させた瞬間、私もあなたに『解理』を使えばいい」
つまるところ、能力が同じであるが故にお互いに効果がない。
「なら、同じ土俵だろ。それだけで自分の勝ち確定だなんて思っているのか?だとしたら浅いな」
「いえ、それだけなら珍しいこともあるな、それぐらいで終わりますよ。あなたが私に勝てない理由は__」
その瞬間、アインの姿が消え灯吏が吹き飛んだ。教室に激突し轟音を発しながら、いくつも備品を破壊しながら転がっていく。
「単純ですよ。あなたも分かっていたでしょう?身体能力の差は。聞こえているとは思っていませんがね」
戦闘技術の問題ではない。速度の差、パワーの差、反射神経の差。これらが灯吏とは段違いだ。美夜が先程まで戦えていたのは鍵から召喚された鎧をアインが使っていなかったからだ。
「……以外と呆気ないですね」
灯吏を吹き飛ばした方を見ながら呟く。一応、鎧を出したまま、その場を離れようとした。その時、聞こえた。物が乱雑に払われる音と何かが高速で迫る風切り音が。
「レエェェェェェストォォォイイィィィンッ!!」
「なっ!?」
速い。人間の速度の限界などとうに越えている。そんなスピードだ。
「ピイイィィィィィスゥアァッッ!!」
不意打ちのように灯吏の腕がアインの顔を横切る。いや、
(顔が……抉れた……!?)
それはただの錯覚だ。直撃していないのにそうはならない。だが、掠めただけでこんな錯覚に陥るのだ。直撃すれば本当に顔面なんて砕け散るだろう。
驚愕を隠せないまま掠めた部分を手で押さえながら数歩下がる。灯吏は軽く手を鳴らしながら可笑しそうに微笑む
「こいつは先生に感謝しなくちゃな」
「……どういう意味ですか」
灯吏は大鋏を拾いながらアインに再び微笑んだ。
(私に吹き飛ばされる寸前で武器を置いたのか)
少なくとも自分と一緒に吹き飛んで何処かに落としたり、最悪自分に刺さるよりかは遥かに賢明な判断だ。
「だってアンタ俺よりちょっとだけ弱そうだもん」
「何ですって?」
強そうならまだ理解できるが、弱そうとはどういう事だ。
「『異能力』じゃなくてアンタ個人が敗因だって教えてやるよ」
そう言った灯吏の瞳は、
「似ていますねあなた達」
美夜の殺意に滾ったような瞳と酷似していた。
「どうやら解決しないといけない問題は一つじゃないようですね」
「と言うと?」
「あなたも倒さなければ不味いかも、という話です」
「そりゃ嬉しい」
アインは剣を構え、灯吏は大鋏を二振りとも大きく__まるで慢心するかのように構えた。
今、この二人には悪夢の『界』の事など頭になかった。
次回、アインVS灯吏の第一ラウンド。ここら辺からどんどん灯吏君はにんげんを辞めていきます。




