02-5 少女達の終わり_つまらない結末
灯吏君アップグレード!そんなお話し二章の5話……ではない。
ようやく出せた。一章で出すつもりでいた、これの本編に当たる作品の重要ワード。そして、タイトル通り今回は駄作者的に微妙な回です。←ならもう少し文の推敲をしろ←してるよ。頑張ってるよ!でもこれが限界なんだよ!←知らん、もう少し何とかしろ
覚醒する直前に感じた。見えた訳でも、聞こえた訳でもない。ただ感じた。感じ取った。アレを。『黒い柱』を。
-■■■■の異能力を一段階上げる。ごめんなさい。でも、頑張って。
優しい女性の声だった……気がする。よく分からない。
しかし、それでもその存在を篠崎灯吏は確かに感じた。だが、覚醒するにつれその記憶が朦朧としていく。
きっとこれは懐かしい夢だ。そんな風に思えてしまう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
何故か生きていた。奇跡的に助かっている。本当に謎だ。
「ああ……あぁ」
篠崎灯吏は痛みから今の自分をなるべく客観的に判断しようとしていた。が、
(不味いな、これ)
確かに客観的に判断できた。が、その結果はかなり絶望的だというのが理解できた。
戦うには傷が多すぎる。それだけならまだ耐えられるが出血も多すぎる。それを止血するための道具がない。仮に道具があったとしても腕が使い物にならない。
全くらしくもなく首を突っ込むからこうなる。
(らしくない、ね。確かにな)
マスターの言葉を思い出す。全く本当にらしくない。いくらアイシャの復讐とはいえ我を忘れて暴れるなんて。挙げ句の果てには二度も同じような手に引っ掛かるなんて。
自嘲する笑みに力がこもらない。
(ああ、そうか)
諦観気味に悟る。
(死ぬ……か)
常にそれは覚悟していた。あそこまで殺してきたのだ。誰かに殺されなければ割に合わない。だが、まさかこんな早く死ぬとは思ってはいなかった。
(なるほど。今なら何となく分かる)
アニメやマンガの典型的な悪役。自分の命以外どうでもいい、利用できる道具だ、そんな読む側も創る側も嫌いそうな連中の気持ち。多分、こんな気分だったんだろう。
(死にたくねぇな……)
虫のいい話だ。今更になって死にたくないだなんて。
(まぁ、いいや)
確かに死ぬのは怖いがこのまま眠りにつけばアイシャに会えるかも、そう考えると死ぬのもそう悪いものでもない。
しかし、状況がそれを許さなかった。
「篠崎さん起きて下さい」
「お前……!?」
篠崎灯吏の眠りはまだ訪れなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
血を流しながら悪辣に笑う。
「来いよ、駄作。師匠の尻拭いだ。きっちり殺してやる」
「うわぁぁぁぁ!」
灯吏は両目が塞がった状態少女を挑発する。その挑発に呼応するように片腕のまま少女は走る。が、
-ドンッ!
髪を左手で掴まれそのまま床に叩きつけられた。叩きつけた瞬間、灯吏の左腕から血が流れたのは語るまでもない。
「ウエァァ?!」
「おいおい、女の子さんがそんな声あげるなよ。くたばった少女に興奮する趣味はねぇんだよ。それに恐怖で俺を殺れると思うなよ」
「……私は……まだ負けてないッ!」
己を鼓舞する少女に一転して灯吏は興味がなさそうな笑みを向ける。
「おい灯吏」
「ん?」
「お前、見えないんだよな?」
「いや、見えてるよ」
「何?」
今の篠崎灯吏の両目は塞がっている。物を見るのが本来不可能なほどに瞳が潰れているのだ。が、そんな事はないと灯吏は言う。
「見えないなら見える様にすればいい。自分の感覚が使い物にならないなら他の奴のを使えばいい。例えば倭さん。アンタのとかを、な」
「……ハッ、死人擬きの感覚が役に立つのか?」
「今のところは問題ない」
倭は今のやり取りで灯吏の異能力を理解する。なるほど、使いがってが悪そうだ。
「ハァァッ!」
少女が灯吏の左腕を払いのけナイフで斬りつける。灯吏は面倒くさそうに右の大鋏でそれを迎え撃った。
-ガキィッン!!
一合。一合だけしか斬り結べなかった。灯吏の大鋏と少女のナイフが交差し、砕け散る。ナイフの柄から先が粉々になる。灯吏の持つ大鋏は傷一つつかない。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
柄しかない状態のナイフで灯吏に攻撃する。無論、そんなもの意味はない。灯吏は半歩身を後ろに引き、攻撃にすら届かない一閃を躱し、少女の隣を通りすぎる。その際に大鋏を一度だけ振るう。
-スパン
「あっ」
少女は左腕を切り落とされた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(何だこれ、意味が分からない。)
灯吏の感想はもっともだ。言ってしまえば自分の復讐相手に助けられている形になるのだから。
「どうしてだ、って顔ですね」
「当然だろ。お前に殺される覚えはあっても助けられる事なんて……」
「もう、いいんです」
どこか諦めたように言葉を落とす。
「織崎さん。お願いです妹を殺してください」
「……お前、いやお前らやっぱり双子か?」
「やっぱり、ですか……どこから気付いてたんですか?」
「ほぼ最初からだな。アイシャが死んで暫くたって冷静になったらおかしい点があってな、この前の通り魔の件で確信した。二人いるってな」
双子とは思わなかったがな、それを最後に目を閉じる。眠るわけではない。ただ、体を休めているだけだ。
「アイシャと俺を襲った時も尾行の邪魔をした時も絶対に見えない一人がいた。それがお前ってこと。そんで尾行している時に異能力が二つ使われた。
本来、異能力ってのはよほどの例外がない限り一人につき一つが絶対……らしい。そこら辺は詳しくないけど、これはかなり確定的な情報だ。頭の中に聞こえた声があいつに似てたから姉妹、もしくは親戚だと思った。以上終了」
「『声』の方が姉だとは思わなかったんですか?」
「ああ。もしも『声』の方が姉なら相方の『壁』を発動させるタイミングが良すぎる。それに異能力はモノによるが遠ければ遠いほど効力を無くなる。あれだけ堅いなら至近距離じゃないとあり得ないんだよ」
「……」
止血されながら質問に答える。灯吏は全く知らないことを口任せに言う。そもそも灯吏に異能力者の知り合いは倭しかいない。美夜は異能力者ではないのだ。だが、不思議とコレが嘘だと思えない。
『黒い柱』
きっとそれのせいだと灯吏は結論づけた。
「今度はお前が俺の質問に答えろ」
灯吏は冷たく言い放つ。この状態でも目の前にいるもう一人の少女を殺すのは灯吏にとってはそう難しいことではない。妙な動きをすればいつでも殺せるように殺気を放っているのがいい証拠だ。
「聞きたいことは一つだけだ。
お前らは日暮美夜の何だ?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
両腕を斬られ少女は泣いている。痛みか悔しさかは灯吏には分からない。分かることは一つ、
「たかが腕落とされたぐらいで崩れるなよ」
「あのな無茶苦茶を言うな」
呆れ気味に灯吏は言う。もし、自分が腕を落とされても普通に戦い続けるだろう。あんな風に止まりはしない。
そんな灯吏に倭はこれまた呆れ気味に突っ込みが入れられる。お前みたいに脳神経振り切れてる奴が全てではないと、突っ込む。二人とも少女との戦闘など意識の埒外だ。気にも留めてない。
「私は、私は……私は!!」
両腕を斬られた少女は泣きながらは叫ぶ。灯吏ではなく己自身に。
「あの人に愛されてた!!」
叫ぶ少女を見る二人の目はどこまでも冷たい。もはや殺気はなく哀れみすらあった。
「あの人は私に生きる方法を教えてくれた!!私に笑顔を向けていた!私に……」
「一つ聞いていいか?」
灯吏は少女を真っ直ぐに見つめる。灯吏の瞳に少女は恐怖のあまり震えだす。似ていた。あの時の殺人鬼の瞳に。
どんな刃物よりも鋭く、どんな熱をも凍らすような絶対零度の瞳。重なる。重なってしまう。殺人鬼に。最も愛している人と最も憎い人が重なる。
「あの人はお前に一回でもいい、大切だ。愛している。そんなニュアンスのセリフを言ったことあるか?」
「それは……!」
ない。なかった。一言もそんな事は言われなかった。少女は思いだし戦慄する。まさか自分は……
「俺は言われてたよ。三日に一回は言われてた。多分、今会っても言われると思う。アイシャだってそうだった。アイシャはあの人が友達だって呼んでいた数少ない奴だったからな」
誇るようには言わない。ただ淡々とそうであった事実を口にする。
「なぁ、どうして俺がお前らを知らなかったと思う?」
「……あ……ぁ」
もう答えに行き着いている。あとは証明されるだけだ。少女を守るための模造人格も……もうない。
「教える必要がなかったからだよ」
灯吏は冷たく告げた。
「お前は俺の踏み台にしか過ぎなかったんだ。今も昔もな」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「日暮美夜にとって私たちは、少なくとも妹は失敗作でした。模造人格の使い方もこれ以上自分や貴方につきまとわないための手切れ金のようなものでした。でも」
「勘違いしたと言うわけね……下手に模造人格なんて教えるからこうなる」
模造人格はあまりにも上等な技術だ。一朝一夕で使いこなせるようなモノではない。補足だが、模造人格の応用で自分の成長を止めた灯吏がデタラメなだけである。
だが少女は勘違いをした。美夜からしてみれば自分を必要としない人格を造りだすために模造人格を教えた。少女はそれを自分に良いように解釈した。
「これに関して言えばお前らに文句言えないな。どう考えても先生が悪い」
「……私もそう思います。日暮美夜……でしたよね?彼女のやり方回りくどい。その、えっと」
「邪魔なら邪魔で殺せばいい……か?悪いがあの人はその程度の理由じゃ人を殺さない。私にとって邪魔だから。アホか、そんな理由じゃ鈍いあの人の殺意は沸かないし、動かない」
いまだに血が滴り落ちている腕を上げる。体はダルいが別に構わない。灯吏は自然に口元を上げる。その表情から読み取れる物は何一つとしてない。
「そんな下らない理由でバカみたいに殺すのは……多分、俺だよ」
立ち上がり異能力を使う。倭はあと数分足らずで死ぬ。もう少し持って欲しかったがそこまでワガママは言えない。
「どうするんですか?妹を……殺すんですか?」
「ああ。殺す」
灯吏は答える。そこに迷いはない。
「正直な話、あいつにはもう殺す価値もないが俺かあの女のどちらかが死ななきゃ話が終わらないだろ」
鋏のホルスターが壊れていることを確認するとため息をつく。やれやれ、これ特注だってのに。
「私も行きます」
「来てもいいが少し遅れてこい。あれを殺すかどうかの判断時間が欲しい」
二度異能力を使い、壁の向こうの少女を確認する。少女は生かされている状況にも関わらず倭殺しながら笑っている。
(一本でいいか)
灯吏は右の大鋏で壁を斬り裂いた。開けた視界に少女が映る。灯吏は少女を足蹴にすると吹き飛ばした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『私にとってのお前は-ただの失敗作だ』
「違う」
自分が愛する殺人鬼のセリフだ。
『もう止めよう。あなたは負けたのよ?篠崎灯吏に』
「ちがう」
自分の唯一の家族のセリフだ。
『結局のところお前は灯吏どころかお前の家族にも勝てなかったんだろ?だから殺人鬼に見捨てられたんだ』
「チガウ」
先ほど戦った殺され屋のセリフだ。
どれも全て解が違う。求めているものではない。
「違うちがうチガウ違うちがうチガウ違うちがうチガウ違うちがうチガウ違うちがうチガウ違うちがうチガウ」
違う私は。ただ愛されたかった。失敗作でもいい。勝てなくたって構わない。ただあの人から愛情を向けられたかっただけだ。あの人に少しでもいいから振り向いて欲しかったんだ。
「ワタシは……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……終わったんですか?」
もう一人の少女が来る。壊れた少女である妹を見つめるその目は悲しげだった。
「お前が始末つけるか?」
「……はい。私がこの子を終わらせます」
その答えを聞くと灯吏は投擲用のナイフを渡す。実の妹を『声』で殺すなんて選ばないはずだ。親しい人間をましてや身内を殺すのだ。自分の手で殺すだろう。
「……ちゃん。ごめんね」
少女の名前を呼び謝罪を言葉にしながら首元にナイフを刺そうとする。が、
「ワタシは……アハハッハハハアッハハ!!」
「え」
少女の姉が『壁』押し込まれビルの壁に叩きつけられる。
「もうお姉ちゃんはいらない!!」
「おい、逃げろッ!」
姉に向かい灯吏は叫ぶ。だが間に合わない。
「バイバイ」
少女の姉は顔を『壁』と壁に挟まれ潰される。首から上が跡形もない。
少女はゆっくりと灯吏を見つめる。
「何で、どうして私じゃないの。どうして篠崎灯吏なの。赦さない許さないゆるさないユルサナイ」
少女は血を吐きながら憎悪を叫ぶ。
「あんたなんか、私の成功作でしかないのに!」
「それが全てだろうが!」
「黙れェェッッ!!」
灯吏は両手に大鋏をで持ち少女に迫る。少女の『壁』には鋏より素手の方が戦いやすい。が、この少女を殺すには大鋏でなくては駄目だろう、そう灯吏思った。
「アアァァァァッッ!」
『壁』張り灯吏を潰そうとする。灯吏はそれを一歩分横に体を反らし避ける。
「シネェェェ!!」
『壁』が少女の目の前に張られ灯吏は_灯吏は叩き割った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
自分が自分に迫ってくるそんな気分だ。灯吏は少女の感覚を使いながら少女に迫る俺を見つめ俺を動かした。
篠崎灯吏の異能力は一言で言うなら感覚のハッキングだ。だが、この異能は的を一人に絞っても複数人にしても頭に入ってくる情報量が多過ぎでとてもじゃないが使えなかった。厳密に言えば数秒、数十メートルしか使えない、と言うのが正しい。
しかし今は違った。どれだけの情報量を頭に入れてもパンクを起こさなかったし、この異能の悩みの種の一つでもあった能力範囲が飛躍的に広くなった。
つまり今の灯吏は能力を十全に扱いきれる。そして、少女の『壁』の弱点も分かった。あの壁は瞬間的に強い衝撃を三回以上与えればいい。
灯吏は開いた鋏で『壁』に衝撃を与え、次に鋏を閉め空いた僅かな隙間で振り抜く速度を最大限に加速させもう一度衝撃を加え、再び鋏を開き壁に三回攻撃する。
結果は見えない『壁』が粉々に砕け散り、灯吏は少女の胸元を一閃。
「あぁ。ねぇ何でワタシは……」
少女は悲しげな涙を溢しながら灯吏に疑問を聞こうとする。だが、灯吏の解答はあくまでもただの殺意だった。
「もう喋るな。眠れ」
灯吏は少女の両目を大鋏で刺すとそのまま急降下するように引き裂いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
全てが終わり倭はマスターに連絡を入れたことを思い出した。不味い、マスターのような人間が大鋏を見て正気でいられるかどうか分からない。
「灯吏……マスターがあと少しで……ここに来る。だから………急いでそれ隠……せ」
倭は残った意識を総動員させて灯吏に注意を促す。
「……ああ」
息も絶え絶えの状態で倭に応じると自分の懐に二つの硬さをを確認する。
(持ってて良かったな。……壊れたホルスター)
ヒビが入り壊れたホルスターになんとか無理矢理大鋏を入れ灯吏は意識をここではないどこかに飛ばした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「倭君、灯吏君!!」
マスターが見た状況は酷かったとしか言い表せなかった。灯吏は気絶し、倭は何回か殺された様子で、しかも知らない人間の死体が幾つかある。
(杏奈ちゃんは何故かすぐに見つかる場所にいた。なのにどうして二人がこんな状態なんだ?引き際が分からない訳でもないのに)
マスターは灯吏に脈があることを確認すると灯吏を肩にかける。
(倭君はまだいい。彼は文字通り不死身だ。放っておいてもある程度は心配いらない。問題は灯吏君だ)
篠崎灯吏の暴力を信用していたマスターはここまでボロボロの灯吏を見て気が気じゃなかった。
こうして少女の復讐は何の結果も出さずにただ無意味に、限りなくつまらない幕の閉じかたで終わりを迎えた。
少女×2の掘り下げはもう少し有ります(ただし次回とは限らない)。ともかく次で二章は終わりです。(番外編を除く)