02-4 病む狂笑_止む狂笑
ハッピーバレンタイン!!
……なわけねぇだろ!こちとらチョコ嫌いなんだよ!←敢えて言おうどうでもいい
チョコを貰うあてはあるけど、チョコをどう処理しようか毎年頭を悩ませている駄作者です。
皆さん、チョコを貰う人が羨ましいと思いますか?確かに羨ましいのかもしれません。
しかし、チョコを貰う人がチョコ嫌いだったらどう思いますか?自分の嫌いなものを渡される訳ですよ?羨ましくないでしょう?
(以下略)←誰も貴様の元カノとか女友達の事なんぞ知らん。と言うか朝っぱらから何を書いている
これ以上うだうだやるのも皆さまのストレスがたまると思うので本編に入りましょう。
あと今回一万字越えてます。←長ぇよ。下手くそか
「ふぅ、年寄りには堪える」
久しぶりにここへ来る。命日には来れなかったから月命日に来れるようにはしたかった。
「お前さんはこうなることが分かっておったんだろ?」
如月谷臓は今は亡き暗殺者の墓前に声をかける。殺人鬼に紹介され、雇った少女だった女性。自分の養子にならないかと誘ったこともある。それほどまでにこの女性を気に入っていた。しかし、その申し出はやんわりと断られた。彼女の申し訳なさそうな顔は今でもはっきりと覚えている。
「だってお前さんにとっては俺達よりも、篠の字の方が大切だったんだよな。ま、それは少し気に入らなかったよ」
そのせいで彼女は死んだんだと見当外れな怒りをあの少年に向けていたことがある。もちろん、表には出さなかったし、今ではそんな感情を抱いてはいない。むしろ好感さえ持っている。しかし、
「バカだのう。好きな男のためとはいえ命を投げ出すなよ。若かったんだぞ、お前さん」
「そうだな、あいつのために命を張るのは私の役目だったんだしな」
突然後ろから声がして振り向く。そこには見慣れた懐かしい顔があった。
「よぉ、お嬢さん。久しぶりだな」
「ああホントにな、久しぶり。如月さん」
花束を持った殺人鬼がそこにいた。彼女は笑いながらこちらへ来る。
「灯吏はいないんだな」
「ああ、まだ来ちゃいねぇよ」
それから二人はお互いの近況について話した。笑いながら、あるいは哀しみながら。
今日はアイシャの月命日だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「丘城!!」
灯吏は親友を見つけて彼女の元へ走る。香澄の方も灯吏に気付き駆け寄る。
「灯吏!アンタ何でいきなり電話切るの!?」
「悪い。俺も気が動転してたんだ。で、その後電話あったか?」
「ううん」
涙目になりながら灯吏に説明する。と言って説明する事などほとんど無い。香澄からしたら何もかもが全く分からないのだ。
「灯吏どうするの?」
「安心しろ。手はある。……使いたくなかったけどな」
灯吏は嫌そうな顔で電話をかける。あんまり相手にしたくなかったが、こんな状況だ、我儘は言えない。それでも灯吏の気は重いが。
「……よぉ、篠崎灯吏だけど」
『や、やぁ灯、吏くん。なんんだい、何か用かな。用があるんだね。きっとそうだよね。うんうん。分かっているよ。君は僕のことが大好きなんだもんね、ね』
「ああ、用がなきゃお前みたいな奴に電話なんかしないよ。このヒキニートが。あと死ね。うぜぇから」
本名不明。ハッキングなどをはじめとするパソコンの技術では灯吏を越えており、そこは灯吏も倭も信頼してはいるものの、人格に難がある。いや、難しかない。灯吏が数回ほど殺そうとしている程に彼の人格は問題がある。
「おい、携帯端末の探知とか出来るか?」
『バッ、バッバッカにしてるのか君は!!それぐらい幼稚園児でもできるんだよ!この僕と幼稚園児を比べないでくれ!』
そんな幼稚園児居てたまるか、と心の中で反論しつつ本題に入った。
「芳乃杏奈。そいつの端末の探知をしろ。急げよ」
『人にもの頼むた-』
即切る。いくら杏奈のためとはいえ何が悲しくてこんな奴と話さなくちゃいけないんだ。
「えっと灯吏、今の良かったの?」
「いいんだよ。あんな奴」
香澄の手を引いてマスターのワゴン車に乗る。
「香澄ちゃん。早く乗って」
「えっ?会長?何で?」
「いいから、いいから」
丘城を助手席に座らせると灯吏も車に乗り込み倭へ声をかける。
「倭さん、あのキモニートから連絡きてますか?」
「キモニートってお前……ああ、きてるよ。後、お前宛にPSあるけど」
「無視してください」
苦笑いしているマスターを軽く睨むと、マスターは車のエンジンをいれた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「やっぱり渋滞してるね。二人とも走った方が多分速いよ」
渋滞の理由。それは先ほどの爆発騒ぎのせい。つまり、灯吏と倭がいたビルの爆発。そのせいで交通機関が一部麻痺しているのだ。
マスターはどこか停めれそうな場所がないか探している。
「倭さん、端末の場所は分かっているんですよね?」
「ああ。今は動いていない。落としたか、それとも……」
考え込んでいる倭を一瞥し、灯吏は道路の状況を見て軽く舌打ちする。あまりにも進行が遅い。灯吏は必要なものが揃っているのを確認し、車のドアを開けた。
「灯吏君?今降りるの?」
「ええ。マスター、丘城と会長を家に送り届けてくれ。倭さん」
「……俺もかよ」
灯吏と倭は車から降りようとする。渋滞しているためか車が全く動いていないため、ある意味安全だった。
「灯吏」
「?どうした?」
「あっ、えっと……杏奈ちゃんの事お願い。気を付けてね」
何かを言いたげだったが今はそれどころではなかったからか、疑問を無視して走り出した。
クラクションが煩かったが二人ともそんなもの気にも留めていなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「どうしたの香澄ちゃん」
「えっ、いや何でもないですよ」
一目で嘘だと分かる。それぐらい下手な作り笑いだった。
「嘘は良くないよ~。さぁお姉さんに言ってみなさい」
「……何だか今の灯吏、余裕が無いように見えて心配になったんです。まるで杏奈ちゃんの事が自分のせいだ、そんな風に見えて。可笑しいですよね。杏奈ちゃんが助けてって言ったのだって本当は何も危険な事なんて無いかもしれないのに」
そんな所に送り出した私が言うことじゃないけど、そう締め括り目を伏せる。
「いいんじゃない」
「へ?」
環が香澄にかけた言葉は妙に明るかった。
「灯吏君だってそんなに余裕がなかったら断るって」
「そうです……かね」
「それに余裕がないのは今日だからね」
「……会長?」
どこか悲しげに笑いながら遠くを見ていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いいのか?」
「……何がです?」
二人は走りながら話している。もう、三キロほど走っている。なのに息を切らしていない。道行く人が何事かと二人を見るがどうでもよかった。
「今日、月命日なんだろ?大概律儀だよなお前も。一周忌ならともかく月命日まで」
「重要でしょ?そういうの。と言うか調べたのか」
「そんなもんかね。あと引きニートがお前への当て付けとして送ってきやがったんだよ……ここだ」
また廃ビルか、二人はそんな感想を持つとドアを蹴破り中へ入った。倭は銃を抜いて、灯吏は素手のまま警戒しながら中を探索していた。
(……そういやこいつ)
倭は一つ疑問に思っていた。灯吏は全く迷わずにこのビルの中を歩いている。まるで目的地が既に分かっているかのように。
それに疑問はまだある。以前、自分が殺された時にこの少年はすぐにそれを見つけ出した。
「どうしたんですか?人の顔をじろじろ見て、面白いものでもついてますか?」
「別に。素手で良いのかって思っただけだ」
二人とも無言で歩く。警戒しているせいか、その速度はあまり速いとは言えなかった。
「暗いのはいいが、埃っぽいな」
「別に構わないさ。少なくとも杏ちゃんはこの中に居るのは確かなんだから」
「……随分と確信的だな。理由は?勿論、あるよな?」
灯吏が少し顔色を曇らせ理由を述べようとした時だった。
轟音と共に倭が蜂の巣にされた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
あまりにも突然だった。全く理解が出来なかった。そのためか、理解が追い付く前に体の方が先に動いていた。
「!?」
灯吏は急いで他の部屋へ入り身を隠す。が、一瞬だけ銃撃が止むと再び銃弾の嵐が飛来する。
「クソッ!」
灯吏は銃弾を弾きながら移動するが、その顔には焦りが強く出ている。
銃弾を弾く程度は灯吏からしてみれば造作もない。だが、弾いている得物が問題だった。
つまり投擲用のナイフ。それを指の間に数本挟んで銃弾を掻い潜り、弾き飛ばしている。だが、所詮は投擲用のナイフ。人を殺す部分以外は脆い。その上、リーチも極端に短い。加えて言えば壁や置物のせいで視界も良いとはとても言えない。
(大鋏は……使えそうにない……か)
大鋏なら銃弾など弾くどころか打ち返して狙撃主を殺すことも可能だ。しかし、ホルスターから抜くのに三秒程度時間がかかる。その間避けるだけでは恐らく銃撃は命中する。最悪、それが致命傷に成りかねない。
「クソがッ!」
置かれていた机を盾変わりにする為に蹴り上げる。蹴り上げた瞬間、灯吏の顔は驚愕と焦りが大半を占めた。
「なっ!?」
机の裏には小型の爆弾のような物が、幾つも敷き詰められる様に仕掛けられていた。
そして、それらは銃弾に撃ち抜かれた結果、爆発した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「何で、そんな必死な顔なんですか?おかしいなぁ」
カメラから見る彼の顔には焦りが多い。それではつまらない。
「笑ってくださいよ。でなきゃ、あなたを殺す意味がない」
人は精神が壊れると笑い出す。殺人鬼が言っていた。なら彼の精神が壊れるほど追いつめなければ復讐にはならない。
「早くしないと、可愛い可愛い後輩を助けに来ないと」
歌うように独白しながら眠っている杏奈の頬にナイフを軽く刺す。その頬を舐める。笑みが更に深く狂う。その瞬間、
「!!アハハ、ダッサいなぁ!!」
爆発音が響き渡る。仕掛けていた罠の一つにまんまと引っ掛かった。
「あんな人より下に見られていたなんて心外だなぁ」
ああ、もういいや。
「死んじゃえ、偽者さん」
どうでもいい。どうせ彼は自分以下なのだから。それはこの爆発音で証明された。
「レスト・イン・ピース」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「うぁ……あ、痛ぇ」
倭が目を覚ました時には痛みは残るものの既に傷口がほとんど塞がっており、肉体が新生していた。
古い肉体に仕込んでいた特殊な拳銃を拾い同伴者を探す。
(灯吏は……いないみたいだな)
恐らく逃げながら杏奈が拐われている場所へ向かったのだろう。何故か灯吏には彼女の場所が分かるようだから。
立ち上がり周りを一通り見渡すと後方へ銃口を向けた。
「灯吏ほどじゃないが、それなりに気配には敏感なんでね。出てきたらどうだ?」
「ふーん。死なないのは本当みたいですね。よかった」
(よかった?)
例の少女だ。灯吏の初恋の相手を殺したと言う少女。倭からしてみればどうでもいい存在だ。どうでもいい存在だが、妙に引っかかる。ビルを爆破した時と感じる雰囲気がどうにも違う様に感じる。
(少し挑発してみるか)
「はぁ、殺さないでやるから逃げろよ」
「?」
倭は面倒そうに溜め息をつくと説明する。
「分かりやすく言えば灯吏への義理立て。アイツがお前を殺さなきゃ意味がない。むしろ、今ここでお前を殺したら俺がお前をアイツに千回単位で殺される。そもそも俺がお前を殺しても意味無いしな。
第一、何で俺がお前みたいなつまらん奴と命のやり取りしなきゃいけないんだよ。アホか」
「なるほど、そういう事ですか。ありがとうございます」
少女は納得したように笑う。対する倭は表情に出してないが混乱している。
(あれ~?こんな予定じゃなかたんだが)
倭は少女に対して「沸点が低そうだな」と言う感想を抱いていた。なのに結果は礼を言われるという。これは予想外もいいところであった。そのため、
「……」
拳銃を少女に向けたまま、文字どおり開いた口が閉まっていなかった。
「じゃ、私はこれにて失礼します。あっ、後ですね殺され屋さん。義理立ての意味、間違えてますよ」
そう言い残し、去っていく。
「……いや、合ってるだろ!!」
数瞬後、虚しい訂正だけがその場には響いていた。そんな事している場合ではないのに。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
目を覚ます。頬が妙に痛い。頬だけではなく頭も殴られたような激痛だった。
「え?」
血だ頬に触れその手を確認すると血が出ていた。そして、杏奈はようやく周りを確認する。
「ひっ!?」
死体が散乱している。その全てがまとまな原形を留めていない。それどころか、人だったのかと疑問に感じる程の壊され方だった。
杏奈はその光景を見て思わず嘔吐した。当然だ。15、16の少女が惨殺死体を見て何も感じるな、と言うのは無理な注文だろう。むしろ杏奈はこの状況の中、何事かとパニックにならずに冷静に判断しようと努力している。
(確か私は……そうだ!誰かに後ろから殴られて、そのまま)
そのまま拐われた。その結論に至った杏奈はもしかすると自分以外の誰かが拐われているかもしれないと思い扉を開けた。予想通りいた。
「……あの、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとうございます」
他にも人がいて安心したせいだ。
杏奈は再び意識を奪われた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
-バァッコンッ!
ドアが破られ、青年が銃を構えながら入ってきた。確か、この人は、
「穂坂さん?」
「ああ、良かった。無事だったか。灯吏は?」
「いえ、いませんよ。篠崎先輩も来てるんですか?」
何故?そう尋ねようとして、更に疑問が浮かぶ。この人どうして銃を持っているんだ?
「ああと、いろいろ聞きたいことは多いかもしれないが、今はとりあえずこの場から離れよう」
「あ、はい」
そう言って倭は電話を掛ける。相手はマスターだ。
『倭君、状況はどうなったの?』
「問題ない。芳乃杏奈は助けた。後はこの子を避難させればいい。マスター、今どこだ?」
『あの二人を送り届けて、そっちのビルへ向かっているところ。あと十五分ぐらいはかかりそうだけど』
「長いな。もう少し早く来れないか?」
『善処はするけど、あまり期待しないでね』
「分かった。また後で」
これで芳乃杏奈は大丈夫だろう。後は灯吏だ。
すると、杏奈が話しかけてきた。
「あの」
「ん、どうした」
「あの、ここに誘拐されたのって私だけですか?」
「……どういう事だ、それ?」
嫌な予感が倭の頭をよぎる。今までの経験上これは不味いと第六感が告げている。
「こんなに死体があるのに私一人だけって可笑しいですよね?」
「……ああ、確かにおかしいな」
倭は芳乃杏奈に変装している女に銃を向ける。
「穂坂さん?どうしたんですか?そんな銃なんて向けないで下さいよ」
「下らねぇ演技してんじゃねぇよ。本物の芳乃杏奈はどこだ?」
「何を言ってるですか?私が本物ですよ」
「こんな惨殺死体を見た女子高生の反応がそんな薄い訳ないだろ?しかも、銃向けられて気を動転しないってどういう了見だ。あと、本物は私がなんて言い方しないだろ」
「……一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
「先刻ばらばらにしたのにどうして銃を持っているんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、倭は躊躇いなく引き金を引いた。だが、
「ざ~んねん」
「ッ!?」
少女は変装を解きながら、異能力を使う。
銃弾が少女に命中する寸前で止まる。倭は距離を取ろうと後方へ下がろうとするが
「壁!?」
「見えないでしょ?堅いでしょ?アハハハハ!」
見えない壁に阻まれ後ろへ下がれない倭。倭への攻撃はそれだけではなかった。
-すみません、穂坂さん……
「あ?」
-ザァァァァァァァッ!!
「アア……アッ!」
頭が割れそうになるほどのノイズが頭の中で直接聞こえる。
(なるほど、俺の仮説は当たってたか)
そう倭が苦しみながら思考していると少女が目の前に立つ。
「死なないんですよね?なら、殺さなきゃいい」
そう言うと銃を奪われ致命傷にならない箇所を数発撃たれた。
「あ、弾切れ」
肩で息をしながら壁にもたれ掛かる。はっきり言って倭はもう戦えそうになかった。
「じゃ、これ置いとくんで。十分ぐらいしたら爆発しまーす」
「……おい、また爆弾かよ」
銃創を隠しながら、やや呆れ気味に言う。
「それで?また爆発させて、やっぱり俺も捲き込まれるのか」
「当然ですよ。だって爆発って綺麗でしょう?それで人も捲き込まれるとなると最高ですよ。しかも相手は死なないからいくら殺しても問題ないんですよ!」
「……なるほどね」
「何がなるほど何ですか?」
少女のその言葉にはやや怒気を含んでいた。倭は目の前の少女を嘲笑するように言った。その言葉は奇しくも殺人鬼のそれと同じだった。
「お前、あの人にとって-ただの失敗作だろ?」
「……は?」
倭の言葉に少女は短く疑問を漏らす。
「言葉のままだよ。多分いや、きっとお前は殺人鬼から失望されてたよ。だってお前、あの人の願い知ってるか?本名を知ってるか?知らないだろ?」
「そんな事……ない!!有るわけがない!!」
「へぇ。そう言い切れるのか?本当に?灯吏があの人の願いを知らないと思っているのか?お前はあの人の願いを正しく叶えようと思っているのか?それ本気で言ってんのか?冗談だろ?」
「黙れ……」
倭は勘と当てずっぽうで少女の図星であろう部分を指摘する。死にそうなくせにノリノリで。
「灯吏よりも自分の方があの人から可愛がられてた自信はあるか?灯吏と比べられて勝っていた点は有ったのか?逆に灯吏が自分より劣っていた点が有ったのか?自分があの人の正統な後継者だって自負するなら何で灯吏が大鋏を持っているんだ?」
「黙れェ!」
そして、止めをさした。
「正直に言えよ。そして認めろ。分かっている筈だ。本当は理解しているんだろ?
お前は篠崎灯吏に何一つとして勝ててないんだよ」
「黙れェェェェェェ!」
倭は首を絞められていた。しかし、勝ち誇った笑みを絶やさない。現に倭からしてみればこの勝負は勝ったも同然だった。
(もう少しだけ追い込んで見るか)
そう判断し、倭は一言だけ少女に告げる。それは少女が最も聞きたくない言葉だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「違う……違う。そうじゃない」
少女は泣きながら倭から離れる。
(なるほど、仮面が剥がれたらこの程度か)
-……やっぱり、そうなっちゃうか
冷めた目で少女を倭は眺めていた。
倭は知っている。これを。見えない仮面が剥がれ落ちる瞬間を。篠崎灯吏がそうだ。ここに来る前のベットから起き上がった直後の灯吏がこの状態に近かった。
つまり造った人格が崩れること。灯吏は14歳の人格が崩れかけ、この少女は殺人鬼の弟子だと言う人格が完全に崩れた。
『模造人格』
そう言われる自分を偽る技術が有ると聞いたことがある。その実例の失敗作が少女だろう。
「下らね」
-すみません
「君に言った訳じゃない。でも、後でこれの説明しろよ?」
そう呟き眠ろうとした瞬間。少女がいきなり爆弾のタイマーを止めた。何を、と尋ねようとしたが、
「アハハ……アハハハハ!!アハ、ハハハハハハハハハ!!!アァッハハハハ!!!」
狂ったように笑い始めた。その笑い声は倭に悪寒と吐き気を与えた。
-え?
「……おいお前、ついに狂ったか?」
倭の声でようやく倭に気づいた様子だった。倭を見る目はまるで得物を見つけた肉食獣の様に醜い。
「アハハ」
不味い、危険だ。それは分かっている。分かっているが、
-穂坂さん、逃げて!
「クソ、逃げれるかよ」
殺されてはいない。死んでいないのだ。そのため傷が快復しない。立ち上がる事さえ困難な倭に逃げるなんて、ほぼ不可能に近い。
そんな事を構わずに倭へ大振りのナイフを手に倭の右目を突き刺す。
「ぐぁっ!」
-穂坂さん!なるべくそこから離れて!私もすぐに行きます
(離れろって無茶だろ)
狂笑をそのままに涎をこぼしながら右目をもっと深く刺そうと力を込める少女に抵抗する。
倭と少女の筋力差は歴然としているが、今の倭は死人の体に近い。本来ならすぐに勝負の着く戦いがこんな泥沼になっているのはそれが理由だ。
「ワタシハアノヒトノモノダ。ワタシダケガアノヒトノモノナンダ。アンナヤツガアノヒトノツギダナンテアリエナイ。ワタシコソガアノヒトノツギナンダ」
「……クソが、言葉を喋れよ。ええ!」
ゆっくりと、しかし確実に倭の目の中にナイフが刺し込まれる。倭の抵抗も力を無くしていく。
(クソッ。ヤバい、これ死ぬな)
実際にはもう致命的なまでに血を流している。放っておいても後、数分足らずでまた死ぬだろう。だが、一回でも殺されたらアウトだ。死んだらこの少女が正気に戻るまで殺され続ける。
「死ネ」
「冗談じゃねぇッ!」
ナイフごと少女を投げ飛ばし、少女はあっけなく壁に叩きつけた。
火事場の馬鹿力と言うような力が出だ。しかし、
(あ~やべぇ。詰んだわ、これ)
右目から血が壊れた様に溢れる。加え、先ほど少女を投げ飛ばした際に両腕とも骨が有り得ない方向へ曲がった。しかも、まだ生きているせいで傷が快復していない。出血が止まりそうにないから死ぬのは時間の問題ではあるが。
「アハハハハ、アァハハ……アァ」
壊れた様に力なく笑いながら、少女は立ち上がる。どこか蕩けた雰囲気で恍惚とした表情を倭へ向けながら、ナイフを拾い直す。
「死んじゃえ」
「……いや前提的に死なないからな、俺は」
真面目に突っ込んでみるが意味がない。悪あがきは効果がなかった。
「ううんあなたは死ぬの。死ぬんだよ」
「……」
終わったな、そう諦め殺されようとした刹那、壁が斬り崩され少女が足蹴にされ吹き飛んだ。
「調子に乗るなよ。小娘が」
殺意と凛々しさを兼ね備えた声が響いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「遅いんだよ、灯吏」
声の主は篠崎灯吏だった。倭ほどではないが灯吏もかなり満身創痍だ。
服はボロボロ。腕は特に出血がひどい。端整な顔は傷と血で見ていられない様な状態だ。右目は血で開けられず、左目は石や木の屑が刺さっている。一応の止血はしているみたいだが、かなり手荒だ。
それでも灯吏の殺気は生きている。その様子を見て倭は気付いた。
「よぉ、成人式は済んだか?何だか初めてお前とまた知り合った気がするよ」
「まだ、17だっての。でも、確かにある意味初めましてかもしれないな」
灯吏は模造人格を止めていた。つまりここに立っているのは正真正銘、今の篠崎灯吏だ。
「それにしても酷い有り様だな。ボロボロじゃねぇか。お前がそこまでなるなんて何があったんだよ」
「人の事言えないだろ。アンタも随分と酷い傷だったよな。とっとと死んで全部治せよ。便利な能力があるんだから有効活用しろよ」
二人は物騒な談笑する。敵が居るというのに。いや、もう二人にとっては目の前の少女は敵ですらない。今の少女には復讐心をそそられない。
「何で……あなたばかり?」
「ん?決まっているだろ、そんなもの」
少女の独白に近い疑問に灯吏は答える。最初から出ている答えを。
「俺が殺人鬼にとっての成功作で、お前が失敗作だからだ」
「ふざけるなぁっ!」
少女の生の感情が表に出る。
「私はあの人の言うことを何でも聞いた!私はあの人の物だ!成功作じゃないわけがない!」
「理屈になってないだろ。それに"物"ならどうあがいても、先生の願いは叶えられない」
「ならッ!」
少女の声が一瞬だけより荒ぶり灯吏に問いを投げた。
「なら、あなたは殺人鬼の願いを知っているんですか!?叶えられるんですか!?」
「当然だろ」
そして、篠崎灯吏はさも当然のように告げる。殺人鬼の願いと名を。
「俺が日暮美夜を殺す。他ならない美夜のためにな」
「殺……す?」
今、何と言った?殺す?彼女を、この男は殺すと言ったのか?
「させない。そんな事ッ!!絶対にッ!」
「無理だな。俺はあの人を殺したいし、あの人も俺から殺される気でいる。お前が割り込む余地はない。お分かりか?小娘」
灯吏は右手に大鋏を持っている。右手の鋏をくるくると回し少女へ向けた。その表情はどこか晴れ晴れとしている。
「お前は人を殺すことも、人に殺されるのも相応しくない。要するに分不相応なモンを求めすぎたんだよ。これはそのツケ」
「まぁ不相応かどうかはともかくとして、勝てない戦いに挑むのは愚の骨頂だよな」
灯吏と倭は少女の心を声で抉る。そもそもこの程度でメンタル壊される方が悪い。
「ま、言いたいことはお前は殺す価値もない、ってことだよ」
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ!」
何の考えも策も無いような特攻を灯吏へ仕掛ける。本来なら目が見えていないはずの灯吏はそれを蹴り上げる。天井に皹が入るが構った様子はない。そもそも廃ビルだ。問題はないはず。
「舐めるなぁ!」
「よく生きてるね、凄いよお前。でも、そろそろ勝負を着けなきゃいけないだろ」
投擲用のナイフを数本投げ、見えない壁を張らせる。間髪いれずに左の大鋏を壊れたホルスターから取り出しブーメランのように投げ見えない壁を破壊し、右の腕を切断する。
「アアアアァァァァッ!腕が!?腕がァッ!?」
「言ったろ?終わりだって」
その言葉でようやく少女は篠崎灯吏に恐怖を覚えた。だが、灯吏にとってはそんな少女の事情などどうでもいい。殺す価値もないが、殺さなくては自身の気を抑えられない。今はこの少女を殺す事が大切だった。
「やめろ、来るな……」
「断る」
右の大鋏を逆手に持ち替え、告げる。灯吏にとって何よりも愛着のある言葉を。それは今まで殺してきたもの達、これから殺していく誰かにとっての死刑宣告。
「安らかに眠れ」
初恋への復讐の結末が見える。この戦いはもう長くはかからずに終了する。
模造少女の病んだ狂笑は既に止み、殺人鬼の弟子はようやく自分に成った。
「殺して……やる!」
少女は愚かしくも挑む。その結末を理解してもなお。そんな少女に対して灯吏はもう一度小さく、安らかに眠れと繰り返すだけだった。
現在の状況
灯吏→戦えないことはないが、放っておいたら死ぬほどの重傷。両目とも見えない。
倭→数分後に死亡
少女→ほぼ外傷なし
なのに灯吏君が現在この中で一番強いと言う理不尽さである。頑張れ少女。
次回は灯吏君視点で話が始まります。
『模造少女は笑えない』も残すところあと二話(番外編を含めたら三話)どうぞお楽しみ下さい。駄文だけど
では次回、灯吏君無双_近日公開。お楽しみに!(タイトルは嘘です。内容は……察して下さい)




