01-1 二人の語らい_そして嬉しくない出会い
初投稿です。かなり遅いです!←おい
まるでミステリーのようなタイトルですがミステリーは(多分)ありません。むしろホラーとかの要素の方が強いです。
では、一つお付き合いをお願いします。
「少し悲劇について語ろう」
セミショートの黒髪と黒い光沢を放つサングラスがとてつもなく似合う女性、つまり俺の目の前にいる彼女はそう切り出した。
「ある少年にも満たない子供が男数人に拐われた。理由は簡単だ、その男達の欲求不満の解放、それだけだ。実に分かりやすい動機だろ」
彼女はそう言ってクスリ、と少し笑った。
俺は目を細め彼女に続きを促した。今の俺は彼女と似たような表情だろうなと、どこか他人事のように感じていた。
彼女は愉快げにそして饒舌にかたりだす。
「その子供は自分が殺されることが理解できた。当然だ、相手は大人。しかも5、6人の男連中なんだからな。男達だってその子供を好きなように犯したら、好きなように殺すつもりだったんだろう。そこら辺は今はもう分からないが、な」
「……」
「相槌ぐらいは打てよ。そんなニヤつきながら黙り込むようなキャラじゃないだろ、お前」
彼女は舌打ちをする。しかしその雰囲気や読み取れる表情は楽しげだった。彼女はまた語り出した。
「男達がその子供を犯して殺す。なるほど、確かにこれは悲劇だ。なんの罪もない子供が下らんゲスな欲望のせいで命を奪われるんだからな。だがな、話はこれで終わりじゃない。これで終わったらただの悲劇だ。だから、この話はまだ終わりじゃない」
「……ええ、知ってますよ」
俺は微笑を浮かべながら目の前の彼女の言葉に応じた。
しかし、彼女は俺を無視するように続きを語る。
「その男達は全員死んだ。正確に言えば殺されたんだ。誰に?答えは明白だ。子供がそいつらを殺したんだ。ハッ、一人殺り逃がしたとはいえ大したもんだよホントに」
「そして、俺はあんたと出会った。殺人鬼」
「私としては殺し損ねた奴を追ってたらお前と出会ったってだけなんだがな。ま、それがこんな関係になるとは運命ってやつは実に味わい深いとは思わないか?なぁ、弟子」
彼女の笑みに俺もつられたように笑う。
「つまり、だ。子供にとっての悲劇はまるで神懸かったような殺しの才能があったこと。そして、そいつが殺人鬼の弟子になったこと」
「そうかもしれませんね」
「違うだろ、そんな答えじゃない」
「……」
俺は彼女の真意が分からなかった。いつの間にか殺人鬼の笑みは消えて、真剣な眼差しで俺を見つめていた。
「お前の答え方はこうだ『あんたが俺の人生を悲劇だなんて決めるな』だろうが、違うか」
彼女の真意に俺は気付いた。
―なるほど。そういうことか-
「だからさ、答えろよ。お前は自分の『人生』をどう断じるんだ?他ならぬお前の意思でお前のために……」
―答えろ-
他ならぬ俺の意思で、他でもない俺のために殺人鬼の弟子は答えた。
「悲劇なんてないさ。俺の生きる世界はなかなか楽しい。あんたの世界はどうなんだ殺人鬼?」
「決まってる、私の世界は最高だ」
そう言って彼女は俺の足元にあれを放り投げる。それは俺がずっと欲しいと、手にしたいと願っていた凶器だった。
「?……俺に何故これを?」
「卒業祝いだ。バカ弟子」
欲しかったんだろう、そう彼女は嘯いた。
「じゃあな。ま、お互い生きてりゃまた会えるさ」
「ええ、そうですね」
こうして俺の卒業試験のような奇妙な語らいは終わった。卒業証書の代わりの凶器を渡され(正確には捨てるように投げられた)、俺はとりあえず殺人鬼から卒業することになった。
これが今から一年と数ヶ月前、簡単に言えば約二年前、俺が高校に入る前の話だ。
そして俺は今、
「……」
「……」
先ほどまでは確かに死体であった男と向かい合っていた。
「嘘だろ、おい」
これは俺、つまり『殺人鬼の弟子』篠崎灯吏の物語にも満たないつまらなく、そして下らない話だ。
「よぉ、お前誰だ?」
「……ただの高校生だよ」
これは、とてもつまらなくそして下らないそんな俺の非日常の一つにすぎない。
少なくともこの時の俺はそう考えようと努力していた。
そしてその思考を次の日には捨てていた。意味がないと判断して、本来の自分には必要ないと思い直して。
溜め息と共に自分を偽るのをやめた。