特別篇 第二話
明綱は自分が幼少時に過ごした寺に行った。その寺は佐々木家ゆかりの寺だった。
明綱の後見人も同然だった光安和尚はすでに亡くなり、その後、住職を幼なじみの円徳が継いでいた。
「お元気でしたか。明綱殿」
円徳は以前より太って、光安和尚に似てきたようにも見える。
「実は円徳殿、お願いがある」
「何用か」
明綱は綾の事を話した。綾はあまりに麗に似ている。麗は明綱が愛した初めての女性だった。
「綾は麗様と何か関係があるやもしれません。それを調べていただきたい」
円徳は、明綱の顔をしげしげと見て言った。
「それを調べてどうなされます。麗様は亡くななられた方。今さら、その娘が似ていたとしても何があると言われるか」
明綱はそのとき、いろいろと考えた。そして言った。
「綾は私が引き取ります」
円徳はため息をついた。
「その娘は麗様とは別の人間。身代わりにはできませんぞ」
明綱は、自分の体が熱くなってくるのを感じた。
「円徳殿は、私をあさましい男と軽蔑しているのでしょう。それでもかまいません。今、綾をどうしても手に入れたいのです」
明綱は、この頃果てしなき渇きを感じていた。それを癒すことのできるのは、綾しかいないだろう。もはや理屈ではなかった。あんなにも、麗の面影を映した娘はいない。それをみすみす手放すわけにはいかなかった。今度ばかりは引けない気がした。
「それほど言うならば、お調べします」
と円徳が言った。
それからしばらくして、円徳からの書状が明綱の元に送られて来た。
麗の母の兄、村田家当主の成継は侍女に娘を産ませていた。その娘が綾の母だった。
「やはりそうか」
麗と同じ血脈の綾、麗に似ているわけだった。どんな手を使っても、綾を我が手元におくと明綱は決意した。